ウィリアム・フリードキン監督が放つ異色スリラー(というかダークコメディでもある)『KILLER JOE』(12)が『キラー・スナイパー』というズレた邦題でDVDスルーになりました。
この映画、スナイパーなんか出て来ません。
タイトルロールの悪徳警官ジョー(マシュー・マコノヒー)も狙撃銃なんか持たないし、そもそもガンアクション・シーンもありません。
多くの人が「何でこんな邦題になったんだよ!」と憤慨しているようですが、おそらく発売元が「何か地味な映画だから、タイトルを”キラー・スナイパー”にして、アクション映画と勘違いして製品を手に取ってもらえるようにしよう」…と考えたのではないかと思われます。
ちなみに『KILLER JOE』は、トレイシー・レッツ(『BUG/バグ』(06)の原作者)の戯曲を映画化した作品です。観ていて「地味」と思ったら、それは「舞台劇が原作だから」ということなので念のため。
それにしてもスゴい映画だった。この場合の”スゴい”というのは面白いとか見応えがあるとかいう次元じゃなくて、ドギツいとか「フリードキン相変わらずだな」とかそんな感じ。
US版のポスターに”A Totally Twisted Deep-Fried Texas Redneck Trailer Park Murder Story.”と書いてありますが、本当にそのまんまの内容。
金に困って短絡的に実の母親の保険金殺人をキラー・ジョーに依頼するチンピラ青年クリス(エミール・ハーシュ)と、殺人計画に巻き込まれるだらしない父親(トーマス・ヘイデン・チャーチ)、ビッチな再婚相手(ジーナ・ガーション)、親から愛情を注がれずに育ったっぽいクリスの妹ドティ(ジュノー・テンプル)という、「完全にイカれて脂ぎったテキサスの田舎者のトレイラーパークで起きた殺人事件」の物語。
映画開始3分くらいでいきなりジーナ・ガーションの衝撃シーンが大写しになってまず驚く。
「この映画、(いろんな意味で)タダモノじゃないな」と。
マトモな人間が一人も出て来ないし、こんな短慮で浅はかな面々で完全犯罪が成功するわけもなく、彼らが一体どんな末路を迎えるのか、半ば呆れながら本編を観るというのがこの映画の楽しみ方なのかもしれません。
一番笑った(=呆れた)のが、クライマックスの取っ組み合いの大喧嘩。「そっちに加勢するのか!」とツッコミを入れたくなりました。本当にどうしようもない連中です。
生々しいバイオレンス描写と性描写も強烈。一部で話題になったフライドチキンを使った拷問も悪趣味の極みと言えるでしょう。70歳過ぎてこんな挑発的で物議を醸しそうな映画が撮れるとは、さすがフリードキン。もしこの映画のセルフ・コメンタリーがあったら、是非聞いてみたいところです。
で、そのどうしようもないダメ人間たちを演じた俳優は皆さん演技派なのですが、ジョー役のマコノヒーが想像以上に薄気味悪くて秀逸でした。ロマコメ映画で見せるあの「ヤサ男顔」が、この映画では静かな狂気と邪悪さを引き出していて、熱演型のガーションやハーシュと対等に渡り合ってます。映画後半の「人生最悪の食卓」シーンは、マコノヒーとガーションの独壇場と言っていいかもしれません。
音楽は『エンジェル ウォーズ』のタイラー・ベイツさん。タイラーはタイラーでも近年のフリードキンはブライアン・タイラーを好んで起用していたのですが、今回は製作費(=ギャラ)の都合なのかベイツが選ばれました。
まぁベイツさんも『デビルズ・リジェクト マーダーライド・ショー2』(05)で南部のド田舎ホワイト・トラッシュ映画を経験済みなので、ある意味ピッタリな人選ではあるのですが。
ベイツさんは元々ギタリストという事で、本作でもエレキギター、アコースティック・ギターヴァイオル、メロディカ、マーキソフォン(打弦楽器)を自ら演奏。テキサスの田舎町に相応しいさびれたスコアを作曲しています。ほとんど自分で楽器を弾いているので倹約的な音楽とも言えます。
サントラにはスコアが14曲収録されていますが。総プレイタイムは21分強。
ベイツさんのスコアは映画本編で場面繋ぎのブリッジ的な使われ方だったので、1曲当たりの演奏時間も短くなってます(音量も絞り気味だったし)。どちらかと言うと、ダサい感じの既製曲の方が多く使われていましたね。
映画本編では目立った使い方はされなかったものの、ベイツさんの音楽自体は結構面白い事をやっているので、あとはトータルタイム21分のサントラに1,000円強払えるかどうかという判断になると思います。そのあたりはお好みでどうぞ(自分は買っちゃいましたが…)。