前回のつづき。
何で自分が『エリジウム』(13)の日本最速試写を観られたかというと、
この映画のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂く事になったからです。
仕事のお声がけを頂くまでは、
「『エリジウム』の音楽は『第9地区』(09)のクリントン・ショーターじゃないんだぁ」
「ライアン・アモンってどういう人なのかなー」などと呑気にしていたのですが、
嬉しい事に自分がライナーを書くという事態になり、
慌てて資料をかき集める事になった次第です。
何しろ今回が映画音楽初挑戦のコンポーザーなので、資料が少ない。
試写も日本最速試写だったのでまだプレス資料が出来上がってなかったし。
キリアン・マーフィーの『Watching the Detectives』(07)という日本未公開映画の追加音楽を担当したらしいのですが、
マネージメント事務所の公式資料にはその事が掲載されていなかったりして、
情報の扱いがいろいろ難しい。
ハッキリ分かっているのは、City of the Fallen名義で映画の予告編音楽を作曲しているという事。
基本的にユニット名だと思うのですが、一応社名として登録されているらしいです。
最近は予告編音楽がアツいですね。Two Steps From Hellとか。
…と、出だしからこんな感じだったので、
これは正確な資料が必要だなと思い、
玉砕覚悟でご本人に取材を申し込んだところ、
ほぼ二つ返事でアモンさんからオーケーを頂く事が出来ました。
“ほぼ”というのは、まぁちょっとだけ条件を提示されまして、
それでも自分でどうにか出来る範囲だったので万事オッケーと。
そしていざ話を聞いてみたら、
これがまた当方の質問に非常に丁寧に答えてくれまして。
曲作りのコンセプトとか、音楽の中に込められたメッセージとか、
たんまり話を聞く事が出来ました。
ウェブでもこの情報は既に出回っておりますが、
『エリジウム』の音楽では動物の鳴き声や虫の羽音をサンプリングして使っています。
で、「何でこういうアプローチを試みたのか?」という疑問が湧くわけですが、
それについてもちゃんと教えてもらえました。
映画本編を観てからアモンさんの解説を聞くと、「なるほどねー」と思わず納得。
単に奇をてらっているわけではありません。
この手法にはちゃんと意味があるのです。
ここでそれを書いてしまうと国内盤の意味がなくなってしまうので、
詳しい内容はブログではヒミツ、とさせて頂きます(ごめんなさい)。
『エリジウム』の音楽はオーケストラ+シンセというイマドキの構成なのですが、
随所で「変わった音」を鳴らしています。
この実験的かつ野心的なサウンドを最初に耳にした時は、
グレーム・レヴェルの『デッド・カーム/戦慄の航海』(88)の音楽を初めて聞いた時の衝撃に近いものを感じました。
オーケストラに激しいリズムとサンプリングの奇妙な音、
女性コーラスをミックスさせる手法もレヴェルのそれに近い。
でも「映画音楽とはスコアと映像が調和してこそ成り立つもの」と語った事のあるレヴェルに比べると、
アモンのほうが「映画音楽単体としても楽しめるスコア」を作っているような気がします。
そのあたり、キャッチーさが重要な予告編の音楽を製作している事に起因するのかな、とも思います。
今回の『エリジウム』でもかなりいろいろな事をやっていますが、
まだまだ引き出しをたくさん持っていそうなコンポーザーです。
そんなわけで、今後の活躍を期待する意味も込めて、
この機会に是非ライアン・アモン(または”エイモン”)という名前を憶えて頂きたいと思います。
『エリジウム』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ライアン・アモン
レーベル:Rambling Records
品番:RBCP-2699
発売日:2013/09/11
価格:2,520円