パンフでどこまでフォローされているか分かりませんが、
『キャプテン・フィリップス』(13)のキャストについて、
思いつく限りの事をあれこれ綴ってみようと思います。
まずトム・ハンクスですが、
本当に今回のフィリップス船長役はこの人の新境地というか、
今まであまり見た事のない演技だったように思います。
今まで自分が観てきたトム・ハンクスの出演作を振り返ってみると、
確かに巧い演技をしているのだけれども、
どこかに「トム・ハンクス印」というような一種のオーラが感じられて、
(愛嬌とか茶目っ気とか、どこか人好きするような要素)
「トム・ハンクスがキャラクターを演じている」というような印象があって、
ああ、やっぱりこの人は「映画スター」なんだなと思っていました。
ポール・グリーングラス監督との相性もどうなのかな、とも思いました。
でも、今回はいつもの映画スター・オーラが極めて薄い。
船員相手にジョークを飛ばすような茶目っ気もないし、
ことさら「よき家庭人」っぽさを強調する事もなく、
(車中でキャサリン・キーナー扮する妻と子供の会話をする程度)
職務に忠実な船長をストイックに演じていたように思うのです。
この地味さ、そして渋さがいい。
『ロード・トゥ・パーディション』(02)以来、久々にハンクスの演技にシビれました。
(『レディ・キラーズ』(04)のヘンなキャラも結構好きですが)
巷でも絶賛されていますが、
堰を切ったように感情を爆発させるクライマックスの演技が秀逸。
ああいう感情表現は『キャスト・アウェイ』(00)でも見なかったような気がする。
ま、ウィルソンとフェデックスの印象ばかり残ってるせいかもしれないけど…。
一方、マースク・アラバマ号の乗組員は劇中名前をほとんど呼ばれませんが、
「どこかで見た事ある顔」が結構揃ってます。
まず出番が割と多い副船長のシェイン・マーフィー役はマイケル・チャーナス。
『メン・イン・ブラック3』(12)でJにタイムジャンプ装置を渡したジェフリーを演じていたあの人。
『ボーン・レガシー』(12)にも出ている今後注目の俳優です。
「俺は海賊とやり合うだけの給料もらってねぇっすよ」…と愚痴りつつ、
いざ船に海賊が乗り込んでくると、
仲間と連携して見事にムセを拘束した乗組員ジョン・クローナン役はクリス・マルケイ。
最も有名なのは『ツイン・ピークス』のハンク・ジェニングス役ですね。
故・郷里大輔氏が声をアテていたあのムショ帰りの強面キャラ。
『ザ・ファン』(96)でデ・ニーロにイチャモンつけられていた妻の再婚相手ティム役もこの人でした。
地味に活躍した機関長マイク・ペリー役はデヴィッド・ウォーショーフスキー。
『96時間』(08)でリーアム・ニーソンのCIA仲間を演じていた人。
『パブリック・エネミーズ』(09)にも出ていたらしいのですが、
なにしろ地味な顔立ちなので思い出せない…。
そしてケン・クイン役はコーリィ・ジョンソン。
『ボーン・アルティメイタム』(07)のウィリス役で、
ポール・グリーングラス作品のファンにはお馴染みの顔。
『フォース・カインド』(09)で催眠治療中にヤバイ事になってしまったあの演技が、
本作にもしっかり活かされています。地味に好演。
一撃必殺ネイビーシールズの司令官を演じているのはマックス・マーティーニ。
『パシフィック・リム』(13)でストライカー・エウレカを操縦していた、
ハンセン親子の父親(ハーク・ハンセン)を演じていた人。
劇中のSEAL部隊は元隊員を10人ほど集めたらしいですが、
本物のSEAL隊員と混ざっても全く違和感ありませんでした。
『プライベート・ライアン』(98)とか『グレート・レイド 史上最大の作戦』(05)にも出てるらしいので、
顔立ちが既に軍人っぽいのでしょう。
今後、軍人役で見かける機会が増えそうな気がします。
ムセ・ナジェ・ビラル・エルミの海賊4人集は無名のキャストを揃えたそうですが、
皆さん演技なのか素なのか分からない、強烈な存在感を発揮してます。
中でも最も複雑な感情表現を必要とされたムセ役のバーカッド・アブディが出色。
無名である事を逆手に取った、
「このキャラが次に何をしでかすか予測出来ない」という危うさが、
物語に緊張感を与えています。
基本的に「トム・ハンクス対海賊4人集」の構図で物語が進行しますが、
映画をご覧になる際は、
脇役で堅実な演技を見せている俳優の皆さんにも注目して頂きたいと思います。