アメリカ国内のみならず、世界中で絶賛の嵐が巻き起こっている『ゼロ・グラビティ』(13)。
『キャプテン・フィリップス』(13)のライナーノーツの仕事を仕上げた後、
こちらの仕事も担当する事になったので、
11月上旬に内覧試写へ行ってきました。
3D字幕版で観る事が出来て大感激。
久々に「3Dで観る事に意義がある映画」を観た気がします。
12/13(金)全国ロードショーという事で、
この映画の肯定派の方は、
既に気合いの入った好意的なレビューを書いているだろうし、
逆に否定派の方は、
ここがダメ、あそこがダメと手厳しいレビューを既に書いていると思うので、
自分は何か別な事を書きたいと思います。
この映画の登場人物は、
サンドラ・ブロック扮するメディカル・エンジニアのライアン・ストーン博士と、
ジョージ・クルーニー扮するベテラン宇宙飛行士のマット・コワルスキーのみ。
つまりこの二人の演技力と化学反応が映画の出来を左右するわけですが、
これがまた最高のコンビでございました。
今回はサンドラ・ブロックについてちょっと書いてみたいと思います。
自分は90年代前半のサンドラ・ブロックがすごく好きでした。
序盤であっさり消えてしまう『失踪』(93)もいじらしくて良かったし、
映画はイマイチでしたが『デモリションマン』(93)も愛嬌があったし、
ビル・プルマンが”フラレ役”から脱皮した記念碑的作品、
『あなたが寝てる間に…』(95)も最高でした。
正体不明の敵相手に孤軍奮闘する姿に共感しまくりだった『ザ・インターネット』(95)もよかった。
『スピード』(94)は当たり前に良すぎて書く事がないくらい。
しかし、プロデュース業に進出してからのサンドラは何だか苦手でした。
『微笑みをもう一度』(98)とか『デンジャラス・ビューティー』(00)とか、
『トゥー・ウィークス・ノーティス』(02)とか。
何というか…必要以上に張り切りすぎて空回り気味というか、
この人の生来の魅力である普通っぽさとか、
「ちょっとイモっぽい愛らしさ」みたいなものが失われてしまったような印象を受けたのです。
アクの強い演技になってしまった、と言ってもいいかもしれません。
僕個人としては『しあわせの隠れ場所』(09)もあまり好きな作品ではありません。
(この邦題もちょっと、ね…)
が、しかし。
今回の『ゼロ・グラビティ』、
キャリア初期のサンドラ・ブロックの良さが随所に現れているのです。
特に重要なポイントは、今回のライアン役が、
「本当はすごく悲しい(寂しい)のに、気丈に振る舞ってそれを隠している女性」という、
『あなたが寝てる間に…』や『ザ・インターネット』で見せた演技の延長線上にあるキャラクターである事。
ライアンはサンドラ・ブロック本来の魅力を引き出せるキャラクターと言えるでしょう。
宇宙に出る前に体験した「悲劇的な出来事」を押し殺して、
マットやヒューストンに皮肉をぶつけて表向き気丈に振る舞う姿。
事故で宇宙に放り出されてパニックになる普通の人間らしい弱さ。
マットにヒステリックに当たるものの、その懐の深さに心を開いていく姿。
死を覚悟した時の切なさ。
生きる気力を取り戻した時の力強さ。
どの瞬間にも、ものすごい説得力がある。
“アニンガ”相手に一方的に喋るシーンなどは、切なくて泣けましたね…。
熱演ではあるけれども、張り切りすぎていない。
自然な感情の揺れ動きをうまく表現しているように思うのです。
それこそ90年代前半のサンドラの出演作のように。
ライアン・ストーン役はアンジェリーナ・ジョリーやナタリー・ポートマン、
マリオン・コティヤールなど名だたる女優が候補に挙がったそうですが、
サンドラ・ブロックがベストの選択だと思いました。
シリアスでも暗くなりすぎず、
嫌味になりすぎない程度にシニカルで、
脆さと気丈さを併せ持つキャラを自然に演じられる数少ない女優だと思うので。
恐らくサンドラはこの映画でアカデミー賞ノミネートになると思いますが、
僕個人としては『しあわせの隠れ場所』ではなく、
この『ゼロ・グラビティ』で主演女優賞を獲ってもらいたかったなぁ…。