『ゼロ・グラビティ』のマット役がジョージ・クルーニーでなければならなかった理由を考える

gravity_george

というわけで、前回に続いて『ゼロ・グラビティ』(13)の話題。
今回はもう一人の出演者、ジョージ・クルーニーについて。

聞くところによると、クルーニーが演じたマット・コワルスキー役は、
当初ロバート・ダウニーJr.が演じる予定だったのだとか。
(その後スケジュールの都合で降板したらしい)
ダウニーJr.の降板を受けてキャスティングされたのがジョージ・クルーニー。
この二人の俳優を並べてみると、マット役に必要とされた要素が見えてきます。

その1:特徴ある声の持ち主である事。
その2: 男前(の中年)である事。
その3:ユーモアのセンスがある事。
その4:どこかマイペースで余裕を感じさせる人物である事。

個人的にはこの4つがマット役に必要不可欠な要素だと思いました。

まず「声」についてですが、
この映画は宇宙空間での通信のやり取りが重要なので、
ノイズ混じりの無線通信でも「個性」を感じさせる声でなくてはいけない。
その点クルーニーはあの声の持ち主ですから、
姿は画面に映っていなくても、「あの声」で存在を感じさせてくれる。
意外と見落としがちですが、この映画で「声」はかなり大事な要素だと思います。

そして「男前」で「ユーモアのセンスがある」事。
これも結構重要でして、
極限状況下で人を落ち着かせる事が出来るのは、
意外とブラックユーモアだったりするのです。
(これは僕自身、震災で大変だった時期に実感した事でもあります)
生きるか死ぬかの状況でジョークを言っても嫌味にならず、
「何フザけた事言ってるのよ!」的な相手のリアクションもサラリと受け流し、
相手のヒステリーをも受け止めて気持ちを落ち着かせるような、
一種の包容力というか心の広さというか、
マット役はそういうものを持っているアクターでないといけないと思うのです。

その点クルーニーは私生活でのプレイボーイっぷりが有名だし、
洒落た女性の口説き方は『アウト・オブ・サイト』(98)で実証済みだし、
『ソラリス』(02)や『フィクサー』(07)では思慮深い役も演じているし、
『さらば、ベルリン』(06)や『ラスト・ターゲット』(10)では、
愛する女のために奔走するロマンティストな一面も見せている。
マット役に必要なものをクルーニーは全部持ってますね。

この映画のあの状況で、

“I know I’m devastatingly good looking but you gotta stop staring at me.”

…なんて言ってサマになるのはこの人ぐらいでしょう。

「このミッションは嫌な予感がする」などと、
アクション映画で真っ先に死ぬキャラが言いそうなセリフをあえて言ってみたり、
ウソだか本当だか分からない女性関係のヨタ話をしたり、
ハンク・ウィリアムズJr.のAngeles are Hard to Findを聴きながら宇宙遊泳したり、
どれも普通の人がやったらキザになりそうな事ばかりですが、
クルーニーは「この人ならこれぐらいやりそう」という感じで、
ナチュラルに演じてくれています。

そんな一見軽薄そうなマットが物語中盤で見せるプロフェッショナルな判断。
そしてソユーズ内でのライアンとの対話。
自分はこの場面で不覚にも涙を流しました(特に後者のシーンで)。
人によってこの映画で感動する場面は様々だと思いますが、
自分は断然ライアンとマットの「対話」のシーンですね…。
「チクショー、あんな励まし方をしてズルいよな。カッコよすぎるだろ」
…と涙を流しつつ、どこか微笑ましいという不思議な感覚。
クルーニーの好演が光る名場面と言えるでしょう。

サンドラ・ブロックの好演の陰にジョージ・クルーニーの名サポートあり。
ライアンとマットをこの二人が演じてくれて本当によかったなぁ、と思うのであります。

 

Mychael Danna & Jeff Danna『A Celtic Romance』好評発売中!
レーベルショップ
iTunes A Celtic Romance: The Legend of Liadain and Curithir - Mychael   Danna & Jeff Danna