大傑作『ゼロ・グラビティ』のサントラは是非”アルバム”で買って下さい…!

gravity

映画『ゼロ・グラビティ』(13)は映像、物語のみならず音楽(オリジナル・スコア)も素晴らしかった。
僕個人としては、作家性の強いSF映画の音楽はクリフ・マルチネスの『ソラリス』(02)と、
クリント・マンセルの『月に囚われた男』(09)の2本でもう最高レベルに達したと思っていました。
もうこれ以上のものは出て来ないのではないか、と。

ところが出てしまったんですねー。
今回の『ゼロ・グラビティ』の音楽、聴いていて鳥肌が立ちました。
こんなにも心の底から感情を沸き立たせてくれる音楽がまだあったとは、と驚いたほどです。

作曲はスティーブン・プライス。
『ワールズ・エンド 酔っぱらいが地球を救う!』(13)とか、
『アタック・ザ・ブロック』(11)の音楽を手掛けた若手作曲家です。
プライスのバイオグラフィーはサントラ盤封入のライナーノーツに詳しく書かせて頂きましたが、
それにしてもエドガー・ライト印のコメディ映画の音楽を作曲していた人に、
シリアス極まりないSFサバイバル映画の音楽を任せてしまうのだから、
アルフォンソ・キュアロン監督の人選もスゴイものがありますね…。
結果的にその選択は大正解だったわけですが。

収録曲は以下の通り。

1. Above Earth
2. Debris
3. The Void
4. Atlantis
5. Don’t Let Go
6. Airlock
7. ISS
8. Fire
9. Parachute
10. In the Blind
11. Aurora Borealis
12. Aningaaq
13. Soyuz
14. Tiangong
15. Shenzou
16. Gravity

サウンド的にはオーケストラ主体で、随所に電子音を散りばめた感じ。
電子楽器もこれ見よがしにバンバン鳴らすタイプではなく、
「オーケストラ(生音)」と電子音の境界線を曖昧にした雰囲気のスコアです。

リアリズム重視のこの映画では、
宇宙空間での効果音の使用を極限までカットしているため、
場面によっては音楽が効果音的な役割も果たさなければなりません。
したがって本盤に収められた全16曲のうち、
前半の1から4までは無調・持続音・ノイズを多用した、
サウンド・エフェクト的なスコアが並んでいます。
中盤以降からメロディーを伴ったスコアを聴く事が出来ますが、
映画のメインテーマ的な役割を担う特にメロディアスなトラックは、
16曲目の「Gravity」という事になるでしょうか。

まぁ最近はねぇ…、
幸か不幸かアルバムの曲も気に入ったやつだけバラで買えるようになったので、
「16曲目だけ買えばいいやぁ」的な聴き方も出来るわけですが、
そこをあえて声を大にして皆さまにお願いしたい。

『ゼロ・グラビティ』のサントラ盤は是非「アルバム」で買って下さい!

確かに14曲目から16曲目の流れはメロディアスでアツいし、
楽曲単体でのクオリティも高いです。
これらの曲を単体で聴いただけでも感動する事も認めます。
でもね、この映画を気に入った皆さんには、
もっともっと音楽で感動して頂きたいと思うのです。
そのためには、アルバム前半の「宇宙空間の恐怖」をジワジワと描いたプライスのスコアも是非じっくり聴いて頂きたい。
こういうメロディーレスなサウンド・エフェクト調の音楽があるからこそ、
映画後半のメロディアスなスコアの輝きがぐっと増すのです。

小説とか続きものの漫画を読む時だって、
いきなり結末からは読みませんよね?
(まぁ最近は「(タイトル) ネタバレ」でググる人も多いですが…)
結末だけ分かってもそれほど感動しないし、何より味気ない。
映画音楽もそれと同じだと思うのです。

曲単体で聴いてもクオリティの高いスコアは確かにありますが、
それではなぜこのようなメロディーが生まれたのか?
なぜこのようなアレンジになったのか?
このメロディーは何を象徴するものなのか?
そういった事はアルバム全体を通して聴かないと、
なかなか見えてこないのではないかと思います。

そして『ゼロ・グラビティ』の音楽はまさにそれなのです。
1曲目から16曲目まで、物語の起承転結の流れに沿ってスコアが並んでいる。
それを通して聴く事で、ライアン(サンドラ・ブロック)の体験した”Hell of A Ride”を我々も追体験出来る構成になっているんですね。
映画を見終わった後に改めてアルバムを1曲目から通して聴くと、
16曲目が流れる頃にはきっと目頭が熱くなっているはずです。
何で最後の曲のタイトルが”Gravity”なのか分かると泣けますよ。
(単にこの映画のメインテーマだからこういうタイトルというわけではないのです)

 

さて、ここからはライナーノーツで書けなかった事の補足を少々。

この映画のスコアには美麗な演奏を披露しているソリストが数名参加しているのですが、
まずグラス・ハーモニカを演奏しているアラスデア・マロイという人。
この方はビョークのアルバム『ホモジェニック』にも参加しています。
チェロのウィル・スコフィールドはEmperor Quartetの一員として、
ジョニー・グリーンウッドがスコア作曲を手掛けた『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)のレコーディングにも参加しています。
それから女性ヴォーカリストのヘイリー・グレニー=スミスという方。
恐らく映画音楽家ニック・グレニー=スミスの娘さんではないかと思います。
(ニックのお子さん方がミュージシャンという話を以前聞いたので)
ま、これはイマイチ確証がなかったのでライナーノーツには書きませんでしたが…。

というわけで、最後にもう一度だけ繰り返させて頂きますが、
どうか『ゼロ・グラビティ』のサントラは曲をバラ買いせずアルバムで買って下さい。
そして、出来ればCDアルバムで買って頂きたい。
お願いばかりで恐縮ですが、何卒よろしくお願い致します。

※11/7追記:DSDリマスタリング盤がリリースされます!

『ゼロ・グラビティ』オリジナル・サウンドトラック
音楽:スティーブン・プライス
品番:RBCP-2731
発売日:2013/12/11
価格:2,520円

 

 

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