『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』のサントラでマイク・パットンの音楽を味わい尽くす

the place beyond the pines

■デレク・シアンフランス監督によるライナーノーツ
(注:かなり大雑把な訳です)

90年代前半、ティーンエイジャーだった僕は、ミスター・バングルのライブでデンバーのゴシック・シアターにいた。
兄が彼らの1stアルバムをクリスマスに買ってくれて以来、車の中でアルバムを聴かない日はないほどだった。
ステージではバンドメンバー全員がマスクを被って演奏していて、まるでフェリーニ映画の中で自動車事故に遭ったような気分になった。
シンガーのマイク・パットンは、ボンデージマスクと馬の遮眼帯を身につけていた。
アラン・パーソンズ・プロジェクトのTIMEのカヴァーを演奏していた時、パットンはおもむろに跪いたかと思ったら、
セキュリティの男のハゲ頭を舐めてセレナーデを聞かせ始めた。
その時からマイク・パットンは僕のヒーロー、そしてアイドルになったのだ。

 

「鬼才(奇才)」「変態」と言われているマイク・パットンに贈る言葉として、恐らくこれ以上の賛辞はないのではないでしょうか。
サントラ盤には監督のライナーノーツが寄稿される事がありますが、
「○○は素晴らしい才能の持ち主だ」とか、
「彼の音楽は素晴らしい」というような、
至ってフツーのコメントが多かったりします。
そんな中、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(13)のサントラに寄稿したデレク・シアンフランス監督のライナーノーツがこれですよ。
パットンの変態的ステージパフォーマンスにあえて言及して、しかも「その光景を見て以来、彼は自分のヒーローになった」と断言するセンス。
この人は本当にマイク・パットンが好きなんだなーと伝わってくる素晴らしいライナーノーツです。単なるお世辞なんじゃありません。
シアンフランス監督が筋金入りのパットン・ファンだという事が分かるアツい文章です。

音楽ジャンルの幅が広すぎるマイク・パットンではありますが、映画音楽で真っ先に思い浮かぶのは『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』(09)ではないでしょうか。
あのやりたい放題のイカレ系スコアから、本作のような神秘的かつ緊張感で支配された音楽まで対応出来てしまうのだから、何だかんだ言ってスゴイ人です。

もっとも、以前のブログでも書きましたが、『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』の時も表向きイカレ系サウンドを装いつつ、よく聴くとちゃんとメインテーマがあって、主題操作で楽曲を展開させていく普遍的な映画音楽のスタイルを踏襲してるんですよね。
ドキュメンタリー映画『耳に残るは映画音楽』の中で、『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』の6音から成るメインテーマを聴かせながら、「この部分、ジョン・バリーっぽいだろ?」などと楽しそうに語るパットンを見ると、なかなかのシネフィル…というか、映画音楽にも鋭い嗅覚を持ち合わせた人なのではないかと思うのであります。

 

今回の音楽もベンベン・デローンといった感じの不吉なギター音が鳴ったと思ったら、メランコリックなピアノの旋律が流れたり、聖歌隊のようなコーラスの断片が聞こえてきたり、幻想的かつ摩訶不思議なパットン・ワールドを構築しています。
まさしく「松の木々の向こう側」から流れてくる音楽とでもいうような、何となく取っつきにくい感じのスコアですが、じっくり聴いてみると、今回もメインテーマがしっかり存在することが分かります。
「血の因果」を巡る物語に相応しい、陰鬱で緊張感に満ちた音楽と言えるでしょう。

ステージでのイカレたパフォーマンスとか、フェイス・ノー・モアの「声の魔術師」的な印象が強いと、「マイク・パットンってこういう音楽書く人だったんだー」と意外に感じるかもしれませんが、自分は『ホルテンさんの初めての冒険』(09)のサントラ解説の仕事で、Kaadaとパットンがコラボしたアルバム『Romances』をリサーチの一環で聴いていたので、今回のようなスコアを書いたとしても不思議ではないな、と思いました。
ちなみにアルバム11曲目のThe Snow Angelは、パットンのアルバム「The Solitude of Prime Numbers」収録曲です。

ロック畑のミュージシャンが映画音楽に挑戦すると、自分の個性や持ち味を前面に出しすぎて、映像と音楽が調和しない事も多々ありますが、パットンの場合は音楽スタイルの切り替えが出来る人なのでしょうね。「ロックミュージシャンが作った映画音楽」とは一線を画したスコアに仕上がってます。

性格的にはひとクセもふたクセもありそうな人ですが、映画音楽の仕事がちょくちょく入ってくれると面白そうな感じです。

なお、映画本編についてはあまりにも奥が深すぎて、ここであれこれ書くことすら恐れ多い気がしたので割愛。ただひとつだけ言わせて頂きたいのが、ベン・メンデルソーンの放ったホール&オーツのギャグ、最高でした。

 

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