新進気鋭の作曲家、ベンジャミン・ウォルフィッシュの緻密な編曲が光る『ハリケーンアワー』の音楽

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ポール・ウォーカーが無人の病院で発電機のハンドルを回し続けて奮闘する、
限定空間型サバイバル・スリラー『ハリケーンアワー』(13)。
音楽はイギリス人の若手作曲家ベンジャミン・ウォルフィッシュが手掛けております。

インディペンデント映画のサントラの面白さは、
あまり有名でない(あるいはブレイク前の)作曲家の仕事が楽しめること。
ウォルフィッシュの場合は後者にあたるミュージシャン。
最近だとブライアン・コックス主演のUK産脱獄映画『DATSUGOKU-脱獄-』(08)の音楽を担当してます。
入り組んだ物語構成と、UKを代表する演技派俳優のアンサンブルが実に見応えある作品でした。
音楽的にもかなり面白いアレンジを聞かせているので、個人的にオススメです。

 

ウォルフィッシュはオーケストラ指揮者としても活躍している人で、
正統派のクラシック音楽を学んできた作曲家…なのですが、
今回の『ハリケーンアワー』にしても前作『DASTUGOKU』にしても、
必要とあればシンセサイザーを抵抗なく用いる柔軟さも持ち合わせています。

『ハリケーンアワー』はポール・ウォーカーのひとり芝居的な要素があるため、
音楽はウォーカー扮する主人公ノーランの心理状態とシンクロしたものでなければなりません。
そこで「電力なし」「食料なし」「救助の見込みなし」という極限状態を描くため、
打ち込みの小刻みなリズムを多用した「神経質な音」を作り出しています。
このエレクトロニカっぽい音が焦燥感を増幅させるわけですね。

まぁそれだけなら割とよくあるサスペンス・スコアという事になるわけですが、
ウォルフィッシュの音楽が優れているのは、
スコアの中に主要な登場人物の存在を感じさせるフレーズを散りばめて、
「夫と妻」「父と子」「母と子」というように、
キャラクター同士の関連づけを行っているところです。
この音楽があるからこそ、
『ハリケーンアワー』は単なる限定空間型スリラーなだけでなく、
父性愛・夫婦愛をきちんと描いた珠玉の人間ドラマとしても成立し得たわけです。

「関連づけってどんな風に?」と思われるかもしれませんが、
その手法については国内版サウンドトラックの拙稿をご覧頂ければと思います。
ここで書きたいのはやまやまなのですが、
全部書いてしまったら国内盤の意味がなくなってしまいますので。
映画のパンフで触れられていないウォルフィッシュのバイオグラフィーや、
楽曲分析なども一生懸命書きましたので、是非。

ちなみにUS盤にはエリック・ハイセラー監督によるライナーノーツが載っていたのですが、
国内盤のブックレットにはその全訳が掲載されてます。
ハイセラー監督のライナーノーツと拙稿を読んで頂ければ、
『ハリケーンアワー』の音楽を隅から隅まで味わい尽くして頂けるのではないかと。

ベンジャミン・ウォルフィッシュという作曲家、
これから台頭してくるんじゃないかなーという気がします。
数年後に売れっ子になった頃、
「いや俺はね、ブレイクする前からこの人に目をつけてたんだよ」
…とサントラファンに語って聞かせられるように、
この機会に『ハリケーンアワー』のサントラ盤をお買い求め頂いて、
ウォルフィッシュの才能に”先行投資”して頂ければと思います。

 

『ハリケーンアワー』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ベンジャミン・ウォルフィッシュ
品番:RBCP-2749
発売日:2014/02/12
価格:2,400円(税抜)

 

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