追悼フィリップ・シーモア・ホフマン/マイケル・ダナ名作選:『カポーティ』(05)

capote

今週は別なネタを書くつもりでしたが、
フィリップ・シーモア・ホフマンの訃報を聞き、
どうしても書きたいこと出来てしまったので予定を変更しました。

『ケルティック・ロマンス』のアーティスト、
マイケル・ダナ&ジェフ・ダナのフィルモグラフィーを振り返る不定期連載企画。
今回はマイケルの作品から、
ホフマンが作家トルーマン・カポーティを演じてアカデミー賞最優秀主演男優賞に輝いた実録ドラマ、
『カポーティ』(05)のサウンドトラックをご紹介します。

 

この作品、マイケルのサントラ盤の中でも最も異色な内容になってます。
音楽がということではなくて、アルバムの構成が変わっているのです。
まずはトラックリストをご覧下さい。

1. Out There – Mychael Danna
2. “The village of Holcomb…” – Truman Capote
3. “The two young men had little in common…” – Truman Capote
4. Spoon Feeding – Mychael Danna
5. “This is it, this is it, this has to be it…” – Truman Capote
6. “Holcomb is twelve miles east of the mountain time zone border…” – Truman Capote
7. N.Y. Reading – Mychael Danna
8. “Eight non-stop passenger trains hurry through Holcomb every twenty-four hours.” – Truman Capote
9. If One Bird – Mychael Danna
10. “It was midday deep in the Mojave Desert.” – Truman Capote
11. “It was late afternoon…” – Truman Capote
12. “Perry noticed them first – hitchhikers, a boy and an old man…” – Truman Capote
13. “At five that afternoon…the long ride came to an end.” – Truman Capote
14. Not Much Time Left – Mychael Danna
15. “Dewey had watched them die…” – Truman Capote
16. I Thought He Was A Very Nice Gentleman – Mychael Danna
17. Epigraph – Mychael Danna
18. Answered Prayers – Mychael Danna

というわけで、18曲中マイケルのスコアはわずか8曲。
(しかも1分未満や2分未満のスコアがほとんど)
残りの10トラックはトルーマン・カポーティ本人が『冷血』を朗読した声が収録されてます。
で、映画を観た方ならお分かりのように、
カポーティの声というのがああいう感じですので、
非常にクセのある朗読なんですねー。
なぜ劇中使われた既製曲ではなく、
カポーティの朗読を収録したのか、未だに謎です。

 

2006年当時、自分はとにかくマイケルさんの作品の仕事がしたくて、
でもサントラがこの構成では絶対に日本盤は出ないなと思い、
「パンフレットにマイケル・ダナの音楽について書かせて下さい!」
…と別な仕事の折に配給会社の方に直談判してみたのですが、
紆余曲折の末、結局ボツになってしまいました。
マイケルさんはインタビューにも応じてくれることになっていたので、
「スイマセン、あの話ダメになってしまいました…」と謝ったら、
「君のせいじゃないから謝ることないよ」と言ってくれたのが泣けました。
まぁ、マイケルさんとはその6年後に、
今のレーベルで仕事をする機会に恵まれたわけですが…。

このようなこともあって、
個人的に非常にほろ苦い思い出のある映画なのですが、
マイケルさんの音楽もまた重くて、暗くて、寂しくて、そして痛い。
しかし映画のテーマを考えると、
『カポーティ』の音楽はマイケル・ダナしか考えられなかったと思うのです。

アトム・エゴヤンの諸作品や、
アン・リーの初期作品(『アイス・ストーム』など)を観たことがある方ならば、
本作のスコアでメランコリックなピアノの音色がポロンポロンと鳴った時、
「ああ、これはマイケル・ダナの音楽だね」と気がつくかもしれません。

この映画の音楽でマイケルさんが描きたかったものは、
「世間が抱いていたイメージと異なるトルーマン・カポーティの肖像」だったのではないでしょうか。

パーティー会場で毒舌トークを繰り広げる傲慢な態度の裏に隠された、
繊細で傷つきやすい内面。
本を書き上げるために”友人”を利用したことに対する葛藤と罪悪感、
“友人”の処刑を見届けなければならない恐怖。

マイケルはメランコリックなピアノとすすり泣くような弦の響き、
そしてストリングスの持続音で、
カポーティの静かに壊れていく精神の均衡を淡々と描いていく。
この控えめでありながら説得力のある音楽こそ、
マイケルが得意とする「悩める者・苦しむ者の心に寄り添う音楽」に他なりません。
スコアは8曲で15分ほどというボリューム的な物足りなさがあるものの、
そこには「マイケル・ダナここにあり」としっかり刻印されているのです。
よってこのように「名作選」に選ばせて頂きました。

 

ところで冒頭で書いた「どうしても書きたいこと」の件ですが、
それは本作撮影中のホフマンについて。
このブログネタを書くためにパンフを読み直していたのですが、
ベネット・ミラー監督のコメントを読んでいるうち、
非常に気になる箇所を見つけたのでした。

コメントの内容をかいつまんで書かせて頂きますと、
ミラー監督曰くホフマンは非常に繊細な人間で、
映画の撮影が半分くらい過ぎた頃に、
この難役を最後まで演じきれるのか不安になって、
ノイローゼのようになった時があったのだとか。

たぶん、ホフマンは生真面目な性格だったのでしょう。
本作や『ダウト~あるカトリック学校で~』(08)、『ザ・マスター』(12)など、
難解な内容の映画への出演オファーが来る傾向があって、
そのうえ日頃から演技に取り組む姿勢が真摯すぎて、
役を演じる度に自分を極限まで追い込みすぎた結果、
はけ口を求めて薬物に手を出してしまったのかもしれません。

『ミッション:インポッシブルIII』(06)や『ハンガー・ゲーム2』(13)のような、
肩の力を抜いて芝居が出来る娯楽映画にときどき出演していれば、
役者としてもっとリラックス出来たのかもしれない…とも思います。
人知れずいろいろ悩みを抱えていたのではないでしょうか。
それを考えると、ホフマンのまだ若すぎる死が悲しくて仕方がありません。

ホフマン氏のご冥福をお祈りします。

 

 

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