『エージェント:ライアン』(13)の音楽を手掛けたのは、ケネス・ブラナー監督の盟友パトリック・ドイル。ワタクシの好きな映画音楽家の一人です。
何しろ初めて買ったサントラ盤(スコア盤)は『カリートの道』(93)だったし、その姉妹編とも言える『フェイク』(97)の音楽もよかったし、以前『スルース』(07)のサントラ盤ライナーノーツも担当したことがありました。
しかしながら「英国文学作品御用達の作曲家」というイメージが強く、事実ブラナーの監督作も大半がシェイクスピア作品ということで、「パトリック・ドイルがジャック・ライアン・シリーズの音楽を担当する」と聞いた時には、どんなスコアになるのか全く想像がつきませんでした。
『マイティ・ソー』(11)や『猿の惑星:創世記』(11)でアクション・スコアは経験済みとはいえ、スパイ・アクションとなるとまた勝手が違うわけで、正直「スコアがボツになって降板させられなければいいけど…」と思っておりました。
果たしてドイルは本作でどんな音楽を披露してくれたかというと…
リモート・コントロール・プロダクションズの作曲家も真っ青なシンセ・スコア。
言うなれば007映画のデヴィッド・アーノルドのノリ。
エレクトロニック・ビートにオーケストラを乗せた、堂々たるアクション・スコアでした。
ジャック・ライアン・シリーズ史上、最も電子音率の高いスコア。
「へぇぇぇ、パトリック・ドイルはこういうスコアも書けるのか」と大変嬉しくなりました。
「リモート・コントロール系のスコア」といっても、そこはベテラン作曲家のドイル。「威勢はいいけどテーマ曲の明快さが打ち出せていない」…といったRCで伸び悩み気味の若手作曲家に顕著な要素も皆無。
勇大なテーマ曲あり、
耳馴染みのいいライトモチーフあり、
ジャックとキャシーの「愛のテーマ」あり、
「ロシアの悪党・チェレヴィンのテーマ」あり…と、
バリエーションに富んだ楽曲構成になっています。
アルバムは全24曲で収録時間73分強と、なかなかのボリューム。
ライアンがヘリでアフガンに向かってからのスコアはほぼ収録されてますね。
映画のメインテーマは23曲目の”Ryan, Mr. President”という事になります。
で、メインテーマの旋律が他のいくつかの楽曲でも使われていると。
パトリック・ドイルが本気モードで作ったシンセ・スコアが聴きたい場合は、まずエンドタイトルで流れる24曲目”Shadow Recruit”を聴くことをオススメします。
モービーがリミックスした007のテーマや、オービタルがリミックスした『セイント』のテーマに勝るとも劣らない、イカすエレクトロニック・ダンス・ミュージックに仕上がってます。
「燃えるアクション・スコアが聴きてぇんだよぉぉぉ」という貴方には、14曲目の”Get Out”から”Moscow Car Chase”、”The Lightbulb”の流れ、そして20曲目の”Bike Chase”と21曲目”Jack and Aleksandr”をイッキに鑑賞されることをオススメします。
しかし個人的に今回のドイルの音楽で面白いなーと思ったのは、随所でエレクトロニカ/フォークトロニカ的な音作りをしていることでした。
このチリチリした神経質なサウンド(5曲目の”Rooftop Call”とか)が、緊迫した世界情勢やハイテクを駆使した情報戦が話の中心にある本作に、知性のきらめきというか、一種のインテリジェンスを与えているように思います。ひとことで言ってしまえば、「アタマのよさそうなアクション・スコア」という事ですね。
もっと突っ込んだ楽曲解説やプロダクション・ノート的な話は、日本盤ブックレットにライナーノーツとして寄稿させて頂きましたので、詳しくはそちらをご覧頂ければと思います。通俗的な表現ですが、カッコいいスコアに仕上がってます。
『マイティ・ソー』で「ドイルのアクション・スコア、結構いいかも」と思った方は、是非本盤も買って頂きたいところです。ドイルにもアクション映画の作曲オファーが舞い込んでくるといいですね。
余談ですがUS版サントラの8曲目、
Cheverin Meets Ryanになってますが、
これCherevin Meets Ryanのスペルミスです。
で、日本版のサントラではこれがきちんと修正されてます。
『エージェント:ライアン』オリジナル・サウンドトラック
音楽:パトリック・ドイル
品番:RBCP-2748
発売日:2014/02/21
価格:2,400円(税抜)