「こんなスコセッシ映画を待ってたんだよぉぉぉ!! マーティ最高!!」
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)を観終わった後、
心の中で思わずこう叫びたくなったワタクシ。
巨匠の風格を携えた『ヒューゴの不思議な発明』(11)も名作かもしれないし、
『シャッター アイランド』(10)のような思わせぶりな怪奇映画もいいのかもしれない。
『ディパーテッド』(06)も嫌々撮った割には水準以上の出来だったし、
変わり者の富豪の人生を描ききった『アビエイター』(04)も優れた作品なのでしょう。
が、しかし。
やはり僕にとってマーティン・スコセッシは、
「『グッドフェローズ』(90)のスコセッシ」であり、
「『ミーン・ストリート』(73)のスコセッシ」であり、
「『カジノ』(95)のスコセッシ」なのです。
巨匠然とした格調高い作風よりも、
下町風情溢れるエネルギッシュで下品で暴力的で音楽鳴りっぱなし…という映画をつい期待してしまうのです。
そんなわけで、今回の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は大当たりでした。
映画の舞台が下町からウォール街の株式市場に変わっただけで、
ノリはほぼ『グッドフェローズ』のまま。
あまりの名調子に下品さも忘れるFワード連発のセリフ。
自虐と毒舌とFワードが満載の主人公のモノローグ。
(レオ様の声が途中からレイ・リオッタにしか聞こえなくなってきました)
セックス・ドラッグ・アルコールにダーティーマネーで豪遊三昧の日常。
最後になってやりたい放題やらかしたツケが回ってくる破滅的な結末。
ジュークボックス状態の音楽と相まって、3時間があっという間。
ラストにアラン・トゥーサンのCast Your Fate to the Windが流れた時、
「ああ、これは『グッドフェローズ』で言うところのデレク&ザ・ドミノスのLayla (Piano Exit)に相当する曲だなぁ」としみじみ思ってしまいました。
ハイライトはいろいろありますが、
個人的に笑いのツボだったのは、
ヤケクソ気味に「ベニ!ファッキン!ハナ!」とシャウトするレオ様のモノローグと、
スティーブ・マデン役のジェイク・ホフマンが父親(ダスティン・ホフマン)に激似な所でした。
ジェイク・ホフマンはジョナ・ヒルとプライベートでダチらしいです。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』はサントラ盤がリリースになっているのですが、
劇中で50曲以上かかった曲を全部収録するのはさすがにムリという事で、
アルバムには16曲が収録される事となりました。
サントラ収録曲は以下の通り。
1. Mercy, Mercy, Mercy! – Cannonball Adderley
2. Dust My Broom – Elmore James
3. Bang! Bang! – Joe Cuba
4. Movin’ Out (Anthony’s Song) – Billy Joel
5. C’est Si Bon – Eartha Kitt
6. Goldfinger – Sharon Jones & the Dap-Kings
7. Pretty Thing – Bo Diddley
8. Moonlight In Vermont – Ahmad Jamal Trio
9. Smokestack Lightning – Howlin’ Wolf
10. Hey Leroy, Your Mama’s Callin’ You – Jimmy Castor
11. Double Dutch – Malcolm McLaren
12. Never Say Never – Romeo Void
13. Meth Lab Zoso Sticker – 7horse
14. Road Runner – Bo Diddley
15. Mrs. Robinson – The Lemonheads
16. Cast Your Fate to the Wind – Allen Toussaint
まぁ曲数だけで言えば劇中使われたうちの1/3程度という事で、
やはりどこか物足りない。
その一方で実に興味深いのが、
この映画が1980年代から90年代の話であるにもかかわらず、
サントラを聴いた限りでは60年代から70年代の映画のような選曲になっていること。
音楽監修はザ・バンドのロビー・ロバートソンとスコセッシという、いつものコンビ。
)
「何でFBIが強制捜査に入った時に”ミセス・ロビンソン”が流れるの?」
「しかも何でレモンヘッズのカヴァー?」と一部で話題になっていましたが、
自分なりに推察すると、
スコセッシとロバートソンはFBIのデナム捜査官(カイル・チャンドラー)を、
『卒業』のミセス・ロビンソンに見立てたのではないかと思うのです。
あの映画でベンジャミンにとって厄介極まりない存在だったミセス・ロビンソンが、
本作のジョーダンにとってのデナム捜査官にあたる事を暗示しているのではないかと。
で、何でレモンヘッズのカヴァー曲を使っているのかという点については、
劇中で「レモン」なるヤバそうなドラッグをやっていたから、
それに引っかけたのではないかと。
「”レモン”で頭がブッ飛んだ奴ら=じゃあレモンヘッズのカヴァーでいいじゃん」的な。
スコセッシとロバートソンは『カジノ』でも、
「デ・ニーロが受難(車の爆破)にあったからマタイ受難曲」とか、
「デ・ニーロとジョー・ペシが互いを軽蔑し合って仲違いするから、映画『軽蔑』のカミーユのテーマ」
…というような直球的な選曲をしていたので、
上記の推測も満更でもないと思うのですが、いかがでしょうか?
さて映画本編ではフー・ファイターズやアルカトラズ、
ノーティ・バイ・ネイチャーやサイプレス・ヒルといった80~90年代の曲も使われているのですが、
Romeo Void以外はサントラ盤未収録。
当初は権利関係の都合かなーと思ったのですが、
これはロバートソンとスコセッシの、
「映画では新旧いろんな曲を使うけど、サントラは俺らの時代の曲で固めるぜ」
…という一種のこだわりだったのではないかと考えるようになりました。
2枚組でリリースされた『カジノ』のサントラもそんな感じだったから。
というわけで、サントラ未収録の曲をざざっと検証していこうかと思います。
Stratton Oakmont – Theodore Shapiro
Informercial – Theodore Shapiro
Exotic Vacations – Theodore Shapiro
この3曲が事実上のオリジナル・スコア、
あるいは書き下ろしのソース・ミュージックという事になるでしょうか。
作曲はベン・スティラー監督作品の常連セオドア・シャピロ。
映画パンフのプロダクション・ノートに「音楽はハワード・ショア」と書いてありましたが、
どうも誤情報っぽいです。
確かこの映画の情報が開示された初期の段階では、
imdbにハワード・ショアの名前が記載されていたような記憶もありますが、
最終的にプロジェクトから離脱したと思われます。
スコアがほとんど流れない映画でしたからね…。
Steve Madden ‘Chick Walker’ Commercial – Human
スティーブ・マデンのCM曲も書き下ろしだったらしい。
Score from Lifestyles of the Rich and Famous – Michael Karp
Flying High (from Family Matters) – Bennett Salvay and Jesse Frederick
Get Us Down (from Family Matters) – Bennett Salvay and Jesse Frederick
I’m Popeye the Sailor Man (from Popeye Meets Hercules)
I Don’t Want to Walk Without You (from Popeye Meets Hercules)
Dream Lover (from Popeye Meets Hercules)
Score from Popeye Meets Hercules (A Popeye Cartoon)
このあたりは映画本編のTVとかで流れていたシットコムやバラエティ番組、
レオ様とジョナ・ヒルの「史上最低の大ゲンカ」シーンで流れていたアニメ『ポパイ』のBGMでしょう。
King Arthur, Act 3: What Power Art Thou – Henry Purcell
(Performed by The Monteverdi Choir)
Stars and Stripes Forever
(Arranged by William D. Revelli)
Can’t Help Falling in Love
(Written by Luigi Creatore, Hugo Peretti and George Weiss)
The Oompa Loompa Song
(Written by Leslie Bricusse and Anthony Newley)
このへんはトラディショナル・ソングとか、
「曲そのものは使われてないけど、登場人物が歌ったり口ずさんだ曲」かと。
ウンパ・ルンパとか言ってましたからねー。
で、ここからが補完したい曲のリスト。
Spoonful – Howlin’ Wolf
Hit Me with Your Rhythm Stick – Ian Dury & the Blockheads
Courtesy of Demon Music Group Ltd.
Tear It Down – Clyde McCoy
Surrey with the Fringe on Top – Ahmad Jamal Trio
Cloudburst – Lambert Hendricks & Ross
Insane in the Brain – Cypress Hill
There Is No Greater Love – Ahmad Jamal Trio
Boom Boom – John Lee Hooker
Give Me Luv – Alcatraz
Uncontrollable Urge – Devo
In the Bush – Musique
Goldfinger – Sharon Jones & The DAP-Kings
Baby Got Back – Sir Mix a Lot
Everlong – Foo Fighters
Sloop John B – Me First and The Gimme Gimmes
Boom Boom Boom – The Outhere Brothers
I Need You Baby (Mona) – Bo Diddley
One Step Beyond – Inspecter 7
Hip Hop Hooray – Naughty By Nature
Wednesday Night Prayer Meeting – Charles Mingus
Gloria – Umberto Tozzi
Ça Plane Pour Moi – Plastic Bertrand
『カジノ』のサントラ盤にはディーヴォのSatisfactionが入っていたのに、
(映画本編ではWhip Itも流れてました)
何で今回は入れてくれなかったのかなぁ…。
ジョン・リー・フッカーが収録されなかったのもちょっと意外。
『スリー・キングス』(99)のサントラでも異彩を放っていた、
プラスティック・ベルトランの曲も収録してほしかった気がします。
でもね、一番サントラに入れて曲は何と言ってもこれですよ。
The Money Chant – Robbie Robertson and Matthew McConaughey
映画を観た後マシュー・マコノヒーのマネをする人が続出。
胸を叩きながら「♪んーん、んーん」と鼻歌を歌ってみれば、
その日の嫌な出来事などきれいさっぱり忘れられます(多分)。
何でそんな最高にイカす曲を入れてくれなかったのか…。
ちなみにこの曲のプロデュースにはHowie Bも関わってます。
いやしかし、スコセッシがまだまだこういう下品でエッチでアッパーな映画を撮ってくれるとは嬉しい限りです。
いい歳してこんなイカれた(そしてエンタメ作品として見応えのある)映画が撮れるのは、
スコセッシとオリヴァー・ストーンぐらいでしょう。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』を大いに楽しんだ身としては、
フルコンプはムリだとしても、
自分の出来る範囲でサントラを補完していきたいところですね。
上記のリストが何かのお役に立てれば幸いです。