先日…と言っても、もう結構前になりますが、
仕事で映画『誰よりも狙われた男』(14)の内覧試写に行って参りました。
フィリップ・シーモア・ホフマンの最後の主演作というせいか、
かなり後半の日程の試写に行ったにもかかわらず、
試写室は満席で追加の折りたたみ椅子まで出す状況。
うーん、早めに会場入りしておいて本当によかった。
原作はスパイ小説の大御所ジョン・ル・カレ。
あの「余計な説明はしないので、アタマを使って観て下さい」という、
知的好奇心刺激しまくり映画『裏切りのサーカス』(11)の原作者ですね。
まぁ今回も地名とか人物名とか役職名とかの情報はほとんど視覚的に表示されませんが、
『裏切りのサーカス』と違って舞台はドイツ国内(ハンブルク)だけだし、
回想シーンなどもないので、比較的ラクに話を追っていけます。
自分は”予習”として、原作小説を中盤ぐらいまで読んでから映画を観ましたが、
登場人物の数やサイド・エピソードもかなり削ってますね。
ストーリー展開が整理されたので、
『裏切りのサーカス』がややこしすぎて挫折した人も、
『誰よりも狙われた男』は楽しんで頂けるのではないかと思います。
フィリップ・シーモア・ホフマンが演じるのは”練達のスパイ”ギュンター・バッハマン。
役職的にはドイツ連邦憲法擁護庁・外資買収課の課長という肩書きで、
憲法擁護庁の外郭組織のような少数精鋭の対テロチームを率いている感じ。
『機動戦士ガンダムUC』で例えるなら、
ロンド・ベルとかECOASのような組織をイメージして頂くと分かり易いかと。
英国諜報部の幹部クラスだった『裏切りのサーカス』のジョージ・スマイリーと比べると、
バッハマンは中間管理職的なポジションに当たるのかな。
で、この憲法擁護庁上層部からの圧力とかCIAの横やりに耐えながら、
自分なりのやり方でターゲットを狙うバッハマンがすごくいいのです。
見どころポイントとしては、
バッハマンがターゲットの周辺人物を味方に引き込む時の交渉術。
脅したり、おだてたり、スカしたり、
アメとムチを巧みに使い分けて自分の”情報源”にしてしまうわけですが、
この時のホフマンの演技が素晴らしい。
あのドスの効いた声と仏頂面で凄まれたら、
「返答を間違ったら破滅させられるんじゃないか」と思ってしまうぐらい、
有無をいわせぬスゴ味があります。
ただホフマンという俳優は、
スゴ味を感じさせると同時に弱さや脆さを表現出来る男でもありました。
表向きは何があっても動じなそうな雰囲気を持っているけれども、
ひとたび不測の事態が起きると、
そのままガタガタと崩れていってしまいそうな脆さ。
『その土曜日、7時58分』(07)とか、
『スーパーチューズデー 正義を売った日』(11)の時のような、あの演技。
あの”危うさ”が本作にも一種のスリルを与えておりまして、
憲法擁護庁上層部やCIAとの軋轢に壊れてしまうのか、
自分の”情報源”を守りきれずに死なせてしまうのか、
CIAの圧力に屈してしまうのか、
それとも最後まで信念を貫き通すことが出来るのか。
何しろトム・クルーズのような主人公補正がかからないアクターなので、
先の展開が読めないわけです。
スパイ・スリラーとしてはそこが面白い。
バッハマンは自分のチームの中で、
女性スタッフのニーナ・ホスには唯一心を許しているらしいのですが、
彼女とのちょっとしたやり取りの中から垣間見えるバッハマンの人間性にも、
何かこうグッと来ますね。
中間管理職の悲哀というか何というか。
あのラストの後、バッハマンはどう動くのか。
バッハマンの”その後”を演じてくれる人は既にこの世を去ってしまった。
それだけに、バッハマンの退場シーンはあまりにも切ない。
『ハリケーンアワー』(13)のポール・ウォーカーのラストシーンとは違った意味で、
悲しくなって泣けてきますね…。
フィリップ・シーモア・ホフマンの名演を、
ぜひ本作でご覧頂ければと思います。
ガンダムUCでダグザさんやオットー艦長に感情移入してしまった人は、
多分バッハマンにシンパシーを憶えるのではないかなーと思います。
共演者についてはまた次回。