先日『インターステラー』(14)を観てきました。
上映時間169分の大作、事前情報や予備知識を一切入れずに観に行ったせいか、なかなか楽しめました。
スケールが大きい話なのか、究極的な内輪の話だったのかよく分からない印象も受けましたが(ネタバレになるので詳しいことは割愛)。
それにしてもジマーさんの音楽は今回も素晴らしかった。
一部で「音楽が饒舌すぎる」という感想もあったようですが、個人的には今回のジマーさんの音楽はいい感じに抑揚が効いていて、心に染み渡るサウンドだったと思います。
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饒舌すぎるといえば、アメリア・ブラント博士が「愛だけが時空を超える」と力説するシーンの方が個人的には気になりましたね…。いくら喋っているのが科学者とはいえ、あれはセリフが説明的すぎる気がしてならない。
Love is the one thing that we’re capable of perceiving that transcends dimensions of time and space.
Maybe we should trust that, even if we can’t understand it.
All right Cooper.
Yes, the tiniest possibility of seeing Wolf again excites me.
That doesn’t mean I’m wrong.
…とまぁこんな感じで、この前にも3、4行近いセリフがあるという感じ。
あの場面、もっと自然なセリフ回しで「愛」の定義をしてくれていたらなぁ…と思いました。
とはいえ「スマホばっかりいじってないで、もっと広い世界に目を向けましょう」というクリストファー・ノーランのメッセージには大いに共感できるので、そういう意味では愛おしい映画ではありました。
ただ個人的な希望と致しましては、ノーラン監督は今後の作品で物語の世界観をもうちょっと小さくしてもらいたいなと思いますね…。
『ダークナイト ライジング』(12)以降、どうも話が壮大すぎていろいろ頭を抱えてしまうので。
『インソムニア』(02)とか『プレステージ』(06)の頃が恋しい今日この頃です。
それはさておき、話は変わってジマーさんの音楽ですが、2000年代に作られた哲学的宇宙映画音楽の傑作といえば個人的にはクリフ・マルチネスの『ソラリス』(02)、クリント・マンセルの『月に囚われた男』(09)、そしてスティーヴン・プライスの『ゼロ・グラビティ』(13)というのがごく私的なトップ3だったのですが、そこにジマーさんの『インターステラー』が加わって、トップ3が四天王になりました。『インターステラー』の音楽、ワタクシはかなり好きです。
今回の『インターステラー』の音楽、ノーラン監督の「パイプオルガンを使うのはどうだろう?」という提案から始まったそうですが、それを聞いたジマーさんの反応(というか考察)がなかなか面白い。
以下大雑把な意訳ですが、
「17世紀当時、パイプオルガンは人類が作った最も複雑なデバイスだった」
「パイプと鍵盤、レバーやスイッチ、ペダルに囲まれたオルガン奏者は(操縦席に座る)宇宙飛行士のようだ」
「パイプオルガンはシンセサイザー的な感覚を持った初のデジタル・キーボード」
…というようなことをセルフ・ライナーノーツで語っておりまして、『インターステラー』の音楽にうってつけの楽器だと結論づけておりました。
で、今回の曲作りにあたっては「アクション映画のようなドラムス(リズム)は使わない」「推進力のある弦のオスティナートは使わない」「大編成の木管楽器と4台のグランドピアノ、ハープとマリンバを使う」…というプランを立てたのだとか。
SF映画で木管楽器を大々的にフィーチャーするというのは珍しい感じですね。
ジマーさんの木管楽器の使い方の巧さは、初期作『ドライビング・ミス・デイジー』(89)や『9ヶ月』(95)を聴けばよく分かるのですが。
このように”人の息づかい”が伝わってくる木管楽器と、”人類初のアナログなシンセサイザー”であるパイプオルガンを使うことで有機的なサウンドを作り上げておりまして、SF映画の体裁を取りつつ究極的には「父と娘の物語」だった本作に、理屈を超越した説得力を持たせることに成功しているのではないかと。それこそ「愛だけが時空を超える」と訴えかけているかのような。
なお映画のパンフにも書いてありますが、今回の音楽製作ではノーランから映画のあらすじもジャンルも伝えられずに、ただ父と子の関係を描いた簡単なメモ書きを1枚渡されて、「こんなイメージで曲を作ってみて」と言われたのだとか。
その結果ジマーさんが書き下ろした曲が、アルバム4曲目に収録された「Day One」だったと。このメロディーは泣けますね…。
というわけで『インターステラー』の音楽は、
近年のジマーさんのミニマル・ミュージック志向をさらに推し進めたサウンドではないかと思います。