佳作アクション映画『スパイ・レジェンド』の半分はロジャー・ドナルドソン監督の職人技で出来てます。

novemberman08

映画のプロモーションか何かのインタビューで、
「ジェームズ・ボンドとピーター・デヴェローが対決したらどっちが強いですか?」
と聞かれたピアース・ブロスナンは、
「そりゃデヴェローだよキミ!彼は極めて破壊的な人間だからね!」と即答したそうです。
ピアース・ブロスナン、どうやら本気らしい。

というわけで、
5代目ボンド俳優のブロスナンが久々にスパイを演じて、
なおかつ製作総指揮も兼任しているアクション映画『スパイ・レジェンド』(14)のお話です。
先ほど出てきたピーター・デヴェローというのは、
本作でブロスナンが演じる主人公の名前。
元CIAの凄腕エージェントです。

この映画、原題は『The November Man』といいまして、
「デヴェローの通った後に生き残った者は何もいない」と恐れられている彼のあだ名みたいなものです。
「冬の到来した11月のように、あらゆるものが死に絶える」という感じの意味らしい。
それが何で『スパイ・レジェンド』という邦題になったのか。
まぁ映画の日本公開が1月なので、ノベンバーではしっくり来ないという理由もあったのでしょうけども、
恐らく昨年の流行語大賞にもノミネートされた”レジェンド”という言葉を使いたかったのではないかと。
レジェンド葛西の影響で「レジェンド=超人的な中年男性」というイメージになったので、
デヴェローが東欧で無双っぷりを披露するこの映画にふさわしい言葉だ!…と思ってこういう邦題にしたのでしょう(多分)。

デヴェローの愛車、ポルシェ356。 フツーの車なので、ミサイルや機銃はついていません。
デヴェローの愛車、ポルシェ356。
フツーの車なので、ミサイルや機銃はついていません。

ボンド俳優のブロスナンがMI6ならぬCIAの元エージェントを演じて、
『007/慰めの報酬』(08)のオルガ・キュリレンコがヒロイン役。
デヴェローの愛車はポルシェ356、
使用するメインウェポン(=銃)はシグ・ザウエルとツァスタバ、
飲酒シーンではマティーニではなくウイスキーをあおるなど、
007を意識しつつ、ビミョーに嗜好品を変えるというニクい演出もありますが、
製作サイドの「007とはちょっと違うスパイ・アクションを撮るぜ!」
…という意気込みを感じる部分も結構あります。

 

まずこの映画、日本ではR15+指定です。
007映画と違って、人を銃で撃ったら当たり前のように血が出ます。
しかも流血描写が結構生々しい。
そして悪役フェデロフのキャラ設定がリアルにゲスいです。
007シリーズの悪役のように、
「世界を恐怖に陥れるカリスマ的な大悪党」というノリではなく、
私利私欲で非人道的な行為に手を染めている東欧ヤクザな悪党でした。
昨今の東欧情勢を反映させた、妙に生々しい悪役キャラでしたねー。

007映画を観て、
「スカラマンガってイカすよなー」とか、
「クリストファー・ウォーケンがマックス・ゾリン役っていいよなぁー」とか、
「ラウル・シルヴァの存在感はすごかったなぁー」と思う人は多いかもしれないけれども、
『スパイ・レジェンド』を観て、
「フェデロフってイカす悪役だなー」と思う人はほとんどいないでしょう。
(女殺し屋のアレクサに注目する人は結構いそうな気がする)
ボンド俳優のブロスナンが、
非ボンド映画的なゲスい悪党相手に、
R15+指定のハードアクションを繰り広げる姿はなかなか新鮮です。

監督は『追いつめられて』(87)、『リクルート』(03)のロジャー・ドナルドソン。
『ダンテズ・ピーク』(97)で来日した時、
記者会見の席で「クリントン大統領に似てますね」と質問者に言われていた人です。

プレミア会場でのロジャー・ドナルドソン監督。 ビル・クリントン元大統領に似てますか?
プレミア会場でのロジャー・ドナルドソン監督。
ビル・クリントン元大統領に似てますか?

いわゆるメガヒットと呼ばれるような作品こそないものの、
『ハングリー・ラビット』(11)や『バンク・ジョブ』(08)など、
「結構よく出来たB級アクション映画」を撮ってくれる職人監督です。
今回の『スパイ・レジェンド』も、
007に比べればスケールの小さい映画ではありますが、
最小限のムダのない動きで立ちふさがる敵をブチのめすデヴェローの殺陣とか、
映画序盤のドローンを使った空撮映像とか、
ベオグラードの街並みを活かした追跡劇の描写とか、
なかなか見応えのあるものを見せてくれてます。
『トランスポーター3』と『96時間/リベンジ』、『96時間/レクイエム』の3作で、
傑作アクションシリーズを全てブチ壊しにしたオリヴィエ・メガトンの雑なアクション演出に比べたら、
アクションの”旨味”的なものがぐっと凝縮された演出のように感じました。
ベテラン職人監督の妙技というやつでしょうか。

ブロスナン主演作の『ザ・スナイパー』(05)は、
ブラックコメディーなのにDVDパッケージで無理矢理アクション映画っぽくして売っていたので、
レンタルで観て「だまされた!」と思った方も多かったらしいですが、
『スパイ・レジェンド』はしっかりアクションしてるのでその点はご心配なく。

音楽についてはこちらの投稿をご高覧下さい。

関連記事:
渋さが増したピアース・ブロスナンにふさわしい音楽とは?
→その答えは『スパイ・レジェンド』のサントラ盤にある!(…と思う)
https://www.marigold-mu.net/blog/archives/6115

 

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