マイケル・ダナ名作選/マネーボール(2011)

MoneyBall

弊社リリース作品『ケルティック・ロマンス』の作曲家、マイケル・ダナの映画音楽作品を振り返る不定期連載コーナー。
今回はアカデミー賞授賞式間近ということで、第84回アカデミー賞で6部門にノミネートされた『マネーボール』(11)をご紹介します。

映画の内容に関しては今さら説明不要でしょう。
オークランド・アスレチックスのGM、ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)の奇抜なチーム立て直し&補強術を描いた実録ドラマ。
捕手から一塁手に転向した(させられた)スコット・ハッテバーグ役で、今をときめく『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(14)のクリス・プラットが出ているのもポイント。

さてこの映画のオスカーノミネートの内訳は、
最優秀作品賞、主演男優賞、助演男優賞、
編集賞、音響編集賞、脚色賞の6つでした。

何で最優秀作曲賞にノミネートされなかったんだ…。

…と、当時パソコンのモニターの前で憤慨したものです。
(ちなみにマイケルさんはBMIフィルム・ミュージック・アワードを受賞しました)

ワタクシちょうどその頃、『ケルティック・ロマンス』のリリース契約交渉でマイケルさんと頻繁にやり取りしていまして、「『マネーボール』の音楽はすごくいいのに、アカデミー賞にノミネートされないなんてヒドい話ですよ!」…と当のご本人につい熱く語ってしまったりしたものですが、「そう言ってもらえるだけで十分嬉しいよ」とマイケルさんに言われたりして、とりあえず当方の熱い思いは伝わったのでした。
そして翌年マイケルさんは『ライフ・オブ・パイ』(12)で見事オスカーを受賞したわけですが。

が、しかし。アカデミー賞にノミネートされなかったからと言って、楽曲のクオリティが低いというわけでは決してありません。
『マネーボール』ではマイケルさんの持ち味の一つでもある、珠玉のミニマル・サウンドが味わえます。恐らく野球映画史上最も静かで、最もミニマルなスコアではないかと思います。

ワタクシこの場をお借りして自説を披露させて頂きたいのですが、『マネーボール』の音楽はマイケル・ダナでなければならなかったのではないかと。
もちろんマイケルさんと監督のベネット・ミラーは、本作の前に『カポーティ』(05)で仕事しているので、そういう意味でも再タッグの流れは”必然”だったと言えるのですが、ワタクシは「映画のテーマから考えた上での”必然”」もあったのではないかと思うのであります。

その考えに至った理由は、ブラッド・ピット扮するビリー・ビーンの「野球は一連の行為だ」というセリフ。
原語だと”This is a process. It’s a process, it’s a process. Okay?”と言っているのですが、「同じプレーを途切れなく繰り返す」スポーツを「統計で何度も何度も分析する」という「マネーボール理論」を描いた作品の音楽は、短いパターンを繰り返すミニマルミュージックでなければならなかった。
そして「一発長打や盗塁は要らないから、四球を選んで確実に塁に出ろ」と説く、ある意味非常に堅実(地味)な野球を推奨するビリーの理論は、ミニマル・ミュージックの持つ「大きな起伏がない、抑制された音」に通じるものがある。

これらの事実から、アトム・エゴヤン監督の諸作品で至高のミニマル・サウンドを響かせ、表情を失ったかのような登場人物の心を淡々と描いてきたマイケルさんの音楽は、まさに『マネーボール』の世界を描くのにふさわしいものだったのではないか…と思うわけです(あくまで個人的見解ですが)。

弦楽器が織りなす珠玉のミニマル・サウンド、この機会に是非聴いて頂きたい所存です。

なお『マネーボール』はアカデミー賞ノミネート作品にもかかわらず、サントラ盤は配信のみのリリースという何とも不遇な作品でもありました。アルバムにはマイケルさんのスコア21曲のほか、シューゲイザーバンドThis Will Destroy YouのThe Mighty Rio Grandeと、ビリーの愛娘ケイシー(ケリス・ドーシー)が劇中で歌っていた弾き語り曲、”The Show”(オーストラリアのアーティスト、レンカのカヴァー)を収録しております。

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