以前、映画音楽家のアトリ・オルヴァルッソンさんと都内某所でお茶した時、
「最近『A Single Shot』(13)って映画の音楽をやったんだけど、これ難しかったわー」と言っていたのですが、
その『A Single Shot』が『転落の銃弾』という邦題でDVDリリースになっていたので観てみました。
サム・ロックウェル主演のスリラー映画です。
舞台はバージニア州の田舎町。
ロックウェル扮する主人公ジョン・ムーンは、
密漁でかろうじて生計を立てているやさぐれハンター。
凄腕ハンターらしいのだけれども(映画後半でその”凄腕”っぷりを見せてくれます)、
森に入って早々、映画開始5分程度で鹿と間違えて若い女性を誤写。
これはマズい、と証拠隠滅を計るべく女性が野宿していた場所を探ってみると、
大金の入ったスーツケースを発見。
父親が経営失敗して実家の牧場を手放し、
幼い息子を連れて家出した妻からは離婚を申し立てられ、
ドン底の生活を送っているジョンは、
短絡的に「カネさえあれば人生やり直せる!」と考えスーツケースをネコババ。
当然そんな胡散臭いカネに手を出してタダで済むわけがなく、
それ以来彼の身辺で不審な出来事が多発する…というお話。
話としては『シンプル・プラン』(98)系とでも申しましょうか。
「登場人物にロクな奴がいない」とか、
「主人公(=ジョン)が鈍くさくてイライラする」という批評もチラチラ見受けられますが、
だってそういう人たちの話なんですもの、この映画。
いわゆる「そういう仕様」ってことなんです。
バージニア州ド田舎の景気の悪そうな街で、
無教養でモラルも低そうな人が大金を手にした結果、
どんな事態を引き起こすか。
そしてどんな末路を迎えるのか。
その過程をイヤーーな気分になりながら見届ける作品なのだと思います。
そして映画を観終わると、
邦題が「破滅」じゃなくて「転落」だったのにも納得がいくと。
「この邦題を考えた人、ラストを観て決めただろ!」と思いましたよ。
なかなかユーウツな気分になる映画ですね。。
ああ格差社会。
「ダメな人たち」を演じる俳優の顔ぶれがまた凄い。
家出した妻に未練タラタラのダメ男を演じたサム・ロックウェルを筆頭に、
ろれつの回らない飲んだくれの友人を演じたジェフリー・ライト、
一見面倒見の良さそうな、でも何か胡散臭い弁護士役のウィリアム・H・メイシー、
見るからにヤバそうなジャンキー役のジョン・アンダーソン、
ビッチな見た目のジョンの妻役のケリー・ライリー、
ジョンがネコババしたカネを追ってきた悪党役のジェイソン・アイザックス、
登場人物の中では一番マトモなジョンの牧場の現・持ち主役のテッド・レヴィンなど、
英米演技派俳優が総出演。
特にジェフリー・ライトの怪演は必見。
思わず「ダメだコイツ…」とため息が出るほどのヨッパライっぷりですよ、あれは。
で、音楽の話になるわけですが、
アトリさんは何がそんなに難しかったのか。
ライナーノーツにも書いてありますが、
デヴィッド・M・ローゼンタール監督から、
アルヴォ・ペルトやジョルジュ・リゲティ、ジョン・タヴナー、ジャチント・シェルシといった現代音楽家のプレイリストを見せられて、
「こういう音楽を書いてほしい」と言われたのだとか。
アトリさん曰く「監督から現代音楽の講義を受けているような感じだった」そうです。
その結果、劇中の音楽も持続音や無調音、
不協和音を室内楽編成のストリングスで響かせるという、
これまた陰鬱なスコアに仕上がりました。
アトリさんといえば『バンテージ・ポイント』(08)や『シャドウハンター』(13)など、
メロディーラインのしっかりした曲を書く作曲家ですが、
今回の『転落の銃弾』は見事なまでにメロディーレスな音楽になっております。
しかし自分の専門ではない分野の音楽をオーダーされても、
先方のリクエストに応えて高水準の音楽を書き上げてしまうのですから、
やっぱり映画音楽家という職業はすごいなーと思いました。
そしてもちろん、アトリさんの才能にも感銘を受けた次第です。
この映画をご覧になる際には、
耳障りな音を鳴らすミニマリスティックなスコアにも耳を傾けてみて下さいませ。