『誘拐の掟』の妥協無きサイコスリラー音楽を読み解いてみる

A Walk Among The Tombstones

ローレンス・ブロック著「探偵マット・スカダー」シリーズの第10作、
『獣たちの墓』を映画化した『誘拐の掟(原題:A Walk Among The Tombstones)』(14)を観てきた。

『800万の死にざま』(86)以来約30年振りのスカダー銀幕復活作ということで、
大学時代にハードボイルド小説を読みあさっていた自分としては楽しみな作品だったのですが、
なかなか見応えのある映画でございました。
思いっきり暗いし陰鬱な話ですけどね…。

今回スカダーを演じるのは”中年アクション俳優の星”リーアム・ニーソンなのですが、
「リーアム主演だからこのへんで派手な殴り合いを入れよう」とか、
「このへんで(原作小説にはない)派手なカーチェイスを入れよう」とか、
脚色に際して余計な気を利かせないストイックな脚本がいいですねー。
同じリーアムの出演作でも、
『ラン・オールナイト』(15)はコモン扮するハイテク装備の殺し屋が登場してから、
せっかくシブい展開だったのに話のバランスが悪くなったなーという印象があったので、
『誘拐の掟』の方が(地味だけど)一貫してハードボイルドな雰囲気で統一されていていいなぁ、と。

監督・脚本はスコット・フランク。
一般的には『アウト・オブ・サイト』(98)とか『マイノリティ・リポート』(02)の脚色で知られていますが、
個人的にはジェイムズ・リー・バークのハードボイルド小説『天国の囚人』を映画化した、
『ヘブンズ・プリズナー』(96)の脚本が秀逸だったと思っております。
ハードボイルド小説と相性がいい脚本家なのかもしれませんね。

 

そんな『誘拐の掟』の音楽担当はギタリスト/現代音楽作曲家のカルロス・ラファエル・リヴェラ。
ラテン系のギタリストということで、
当初は「マット・スカダーの哀愁漂う姿を”泣き”のギターソロで…」みたいな音楽をイメージしたのですが、
実際は全く違いました(一応ギターはフィーチャーしているけど)。
ブダペスト・アート・オーケストラによる重暗ーーいサイコスリラー音楽だったのです。

アレンジも独特な感じで、
エレクトリック・ギターとチェレスタのデュオでメインテーマを奏でるなど、
他であまりお目にかかれない手法を使ってます。
(サイコスリラーでチェレスタというのは珍しい)
個人的に「ここの音楽がスゴイな」と思ったのは、映画終盤の地下室のシーン。
曲の途中で「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーー」というホラー映画のようなコーラスが聞こえてくるのですが、
これが絶妙なタイミングで流れてくるもんですから、
「地下室で犠牲になった人たちの怨嗟の声」に聞こえてしまう。
映画本編をご覧になった方は分かると思いますが、
その場面がまたスゲェ恐いんです…。
リヴェラが実際どういう意図でそういう曲にしたのかは分かりませんが、
ワタクシはそういう風に解釈させて頂きました。

恐らく前述のチェレスタも「良心」とか「イノセントなもの」の象徴であって、
エレクトリック・ギターや弦の不協和音のような「鋭利な音」と共演させることで、
「誘拐犯(邪悪さ)とその被害者(純真さ)」
「スカダー(善)と誘拐犯(悪)」
…という物語の対立構造(?)を表現しているのかもしれません。
映画本編でスコアの占める割合は決して多くありませんが、
(サントラ盤もプレイタイムが31分弱とかなり短め)
音の関係性を追求するとなかなか奥が深いです。

 

劇中で流れる歌モノはサントラには未収録ですが、
誘拐犯コンビが”極上の獲物”を見つけた時に、
ドノヴァンの”Atlantis”が唐突に流れる音楽演出には狂気を感じましたね。。
『ゾディアック』(07)でもドノヴァンの”Hurdy Gurdy Man”が使われていましたが、
あれに通じる恐ろしさがあります。

エンドクレジットに流れる女性ボーカル曲は、
サウンドガーデンのBlack Hole Sunのカヴァー。
歌っているのはNouela(ノエラでいいのかな?)というシンガーで、
彼女の2012年のデビューアルバム”Chants”にも収録されてます。
この映画のために書き下ろしたと言ってもいいほど、
ラストのほろ苦い雰囲気にハマっていた曲のように思います。

 

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