映画の劇場公開から遅れること約2週間。
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(15)のサントラ盤が届いたので、8月下旬はずっとこのサントラを聴いてました。
ヒッチコキアンのデ・パルマ・タッチ全開の1作目。
ジョン・ウーが”いつものジョン・ウー”スタイルでゴリ押しした2作目。
J・J・エイブラムスが『M:I』を『エイリアス』風に料理した3作目。
ブラッド・バードが『Mr.インクレディブル』風の活劇タッチを持ち込んだ4作目。
そして70年代アクション・スリラー映画の雰囲気を持ち込んだ今回の5作目…と、
監督のカラーが如実に表れるシリーズですが、
音楽もシリーズごとに作曲家の”個性”が如実に表れていて、
これがなかなか面白い。
エレクトリック・ベースやパーカッションでグルーヴ感を強調した1作目のダニー・エルフマン。
ロックなエレクトリック・ギターやテクノサウンドを派手に鳴らしまくった2作目のハンス・ジマー。
デジタル路線に行きすぎた2作目を本来のスタイルに差し戻すべく、フルオケ・スコアにこだわった3作目・4作目のマイケル・ジアッキーノ。
そして今回のジョー・クレイマーはどんな音楽を書き下ろしたのかというと…
「オーケストラと生楽器だけのレトロな雰囲気のスコア」でした。
以前ちょこっとtwitterにも書きましたが、このジョー・クレイマーという若手作曲家はサントラのセルフ・ライナーノーツの文章がとにかく長い人で、単なる謝辞とか「今回の仕事は楽しかった」的な感想文ではなく、音楽のコンセプトを毎回1から語ってくれています。
『誘拐犯』(00)の時なんて論文か設計書みたいなライナーノーツを書いてました。
だからこの人のライナーノーツは情報量が豊富で読むのが楽しかったりします。
で、今回はどういう方針で作曲に臨んだのかというと、
「レトロなサウンド」
「パーカッションをたくさん使う」
「オリジナルのTVシリーズが製作された1966年でも演奏可能な編曲」
「シンセサイザー、テクノサウンド、ドラムループ、電子楽器の類は一切使わない」
…というプランを基に曲作りを行ったそうです。
「シンセやドラムループを使わない」というのはジアッキーノも言ってましたが、クレイマーの場合はさらにその方向を推し進めて、「1966年でも演奏可能なサウンド」にこだわったのが興味深い。
クレイマーは電子楽器を使わないと言っているので、今回はエレクトリック・ギターやエレクトリック・ベースすら使ってないわけです。
音の厚み…というか音圧的にも控えめというか、いい意味で”音の隙間”が感じられる編曲になっていて、近年主流の「音圧を上げてミッチリ詰まった感じの音」とは雰囲気の異なるサウンドになってます。70年代映画音楽の音の質感に近いのかな。
『ローグ・ネイション』のスコアが非常にシブいサウンドに仕上がっているのは、
こういう理由だったんですねー。
(バリバリにテクノな音楽を鳴らしまくった2作目のジマーさんって一体…)
今回は多少中国市場を意識してか、「トゥーランドット」のオペラのシーンにやや長めに時間が取られていましたが、一応クレイマーもスコアに”Nessun Dorma(誰も寝てはならぬ)”のメロディーを引用して、ちゃんとストーリー的にも意味を持たせる曲作りをしてました。
こういうクラシックな雰囲気のアクションスコアもなかなかいいものですが、「古めかしい音楽を書くな、もっと今風の音で行け」と口を出す無粋なプロデューサーがいないというのは、作曲家にとってやりやすい環境でしょう。
1作目でアラン・シルヴェストリが降板してエルフマンが代打に立ったことがあるものの、『M:I』シリーズは基本的に監督ご贔屓の作曲家が自由にやらせてもらえる環境にあるようです。
そういえば『M:I:III』(06)でジアッキーノに話を聞いた時も、トム・クルーズは好きにやらせてくれると言ってましたね。
というわけで今回の『ローグ・ネイション』のサントラ盤、フルオケスコア好きの方なら”買い”です。『アウトロー』の音楽を聴いて「このサウンドいい!シブい!」と気に入った方なら、今回も愛聴盤になるのではないかと思います。