「ガイ・リッチーの映画は音楽がカッコイイ」とよく評されますが、
この場合の”音楽”というのは基本的に”歌モノ/ポップミュージック”を意味していて、
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98)とか、
『スナッチ』(00)みたいなコンピ盤のサントラが「カッコイイ」という認識で、
オリジナル・スコアについてはほとんど話題になりませんでした。
(実際、映画本編でのスコアの割合も少なかった)
が、しかし。
いわゆる「落ち目の頃のガイ・リッチー」作品、
例えば『スウェプト・アウェイ』(02)ではミシェル・コロンビエがスコア作曲を担当し、
(マドンナ繋がりでの起用だと思いますが)
『リボルバー』(05)では後に『96時間』シリーズ(08~14)でブレイクするナサニエル・メカリーが音楽を担当するなど、
(これもプロデューサーのリュック・ベッソンの人選だと思いますが)
低迷期の作品を経てオリジナル・スコアにも重点を置くスタイルになっていきました。
その結果どうなったかというと、
キャリア復帰作の『ロックンローラ』(08)は『ロック、ストック』や『スナッチ』路線の歌モノコンピがメインのサントラだったけど、
その後の作品は「ガイ・リッチーの映画は歌モノもスコアもカッコイイ(or面白い)」というスタイルになったのでした。
ハンス・ジマーが遊び心あふれる軽妙洒脱フルオケ音楽を披露した、
『シャーロック・ホームズ』シリーズ(09,11)はその代表的な例と言えるでしょう。
…とまぁ前置きが長くなりましたが、
今回の『コードネーム U.N.C.L.E』(15)の音楽も実に素晴らしい。
スウィンギンでグルーヴィー、スタイリッシュでユーモラス、
ポップ・ミュージック感覚で聴けるオリジナル・スコアに仕上がっているのでありました。
オリジナル・スコア作曲はUK出身のダニエル・ペンバートン。
ホラー映画『アウェイクニング』(11)や佳作スリラー『ランズエンド 闇の孤島』(12)、
そして何より『悪の法則』(13)で注目を集めた作曲家です。
ワタクシ『悪の法則』のサントラを聴いた時、
なかなか面白い音楽を作る人だなー、
この映画でブレイクしてくれないかなーと思っていたのですが、
いやー遂に来ましたね。
何しろ完全復活したガイ・リッチー作品への登板ですから。
しかもこの後はダニー・ボイルの『Steve Jobs』(15)が日本公開待機中。
ペンバートンに流れが来てますねー。
ペンバートンはギタリストでもあるので、
『悪の法則』の時はメキシコ音楽+ブルースというような独特なスコアを披露していましたが、
今回の『U.N.K.L.E.』は60年代ヨーロピアン・ロック風のエレキギター・サウンドもさることながら、
フルートのグルーヴィーでノリノリな音色が面白すぎる。
懐かしのジェスロ・タルのイアン・アンダーソンを彷彿とさせる演奏です。
(絶妙な音のかすれ具合とかそんな感じ)
アルバム4曲目の”Escape From East Berlin”で聴くことのできる、
フルートとハモンド・オルガンの競演が実に痛快であります。
そして『シャーロック・ホームズ』でも存在感を放っていたツィンバロムや、
ドラマ版『ハンニバル』でレクター博士も弾いていたハープシコード、
そしてペンバートン自身が弾くマーキソフォン(トレモロ効果の出せるハープの一種)といった、
打弦楽器&撥弦楽器の硬質できらびやかな音のアンサンブルがこれまた面白い。
ドラムス2人、ベース2人、パーカッション4人のリズム隊によって生み出される、
強力かつノリノリのグルーヴも心地よくてグッド。
サントラ盤ブックレットに記載されているペンバートンのライナーノーツによると、
今回の音楽は映画本編同様60年代の雰囲気を出すため、
楽器や録音機材にあえてヴィンテージものを多く使ったようです。
ペンバートン自身もUnivoxのヴィンテージ・ギターを弾いているみたいですし。
その甲斐あってかスコアの音質が実に60年代テイストな感じで、
サントラに収録されている他の懐メロ(ロバータ・フラックやTom Ze and Valdezなど)とも見事に馴染んでます。
レコーディング中にペンバートンがいろんなアイデアを何度も試したり、
「もう1回演ってもらっていいかな?」とミュージシャンに頻繁にリクエストしたりしたので、
「コントロール・ルームのコロンボ」というアダ名をつけられたらしいですが、
それはつまりやっつけ仕事的に作った音楽ではなくて、
細部までこだわりにこだわり抜いて仕上げた音楽ということになりますね。
実際、今回の『U.N.C.L.E.』の音楽はとてもよく出来てます。
まぁ『ミッション:インポッシブル』シリーズのように、
TV版のテーマ曲をフル活用した音楽ではないので、
その点を不満に感じるオリジナルの『0011 ナポレオン・ソロ』のファン、
あるいはジェリー・ゴールドスミスのファンの方もいらっしゃるかもしれませんが、
ここまで徹底的にこだわって60年代テイストのサウンドを再現した、
ダニエル・ペンバートンの手腕はもっと評価されていいのではないかと思います。
ガイ・リッチー監督の新作という割には、
自分が思ったほどこの映画の紹介記事で音楽に触れられていないようですが、
『コードネーム U.N.C.L.E.』の音楽はかなり力が入ってますので、
是非そのあたりも注目して観て頂きたいなーと思います。
サントラは断然「買い」です。