映画鑑賞前にサントラ盤を聴いた時は、
「『スカイフォール』(13)の時よりさらに渋く（地味に）なったなぁ」
…という印象だった『007 スペクター』(15)の音楽ですが、
先日映画本編を観てきたらだいぶ印象が変わりました。
メキシコシティのオープニング。
Tambucoのパーカッションがドンツクドンツクと鳴り響く中、
「死者の日」の雑踏を行くジェームズ・ボンドの動きを１カット長回しで追い続けるカメラ。
ボンドがホテル（？）の一室で骸骨模様のマスクを取って素顔を見せたその時、
フルートで１フレーズだけ慎ましく流れる「ジェームズ・ボンドのテーマ」。
そしてカメラは長回しのままボンドの極秘ミッションを追い続け、
音楽も徐々に徐々にスリルを増して盛り上がっていく…という、
ブライアン・デ・パルマが嫉妬しそうな演出。
この一連の場面の音楽の盛り上がり方や、
「ジェームズ・ボンドのテーマ」が流れるタイミングが完璧でした。
ワタクシこのオープニングを観て、
『スペクター』の音楽の印象が一気に変わったのでした。
サントラ盤だと”Los Muertos Vivos Estan”の演奏時間が短く編集されているし、
その後のシーンの曲（Day of The Dead）が18曲目に離れて収録されているので、
映画本編のような段階的に盛り上がっていく高揚感が味わえないんですよね。。
このあたりはストーリーの進行に沿って曲を収録してほしかった気がします。
『スカイフォール』に続いて（あるいはそれ以上に）、
今回も「ジェームズ・ボンドのテーマ」が高らかに鳴り響く場面はほとんどないのですが、
ダニエル・ボンドの場合はこれでいいんじゃないかとワタクシは思っております。
ダニエル・クレイグは歴代ボンド俳優の中で最もニヒルでハードボイルドな印象なので、
どことなくスティーヴ・マックイーンに近い”男の魅力”を感じるのです。
したがって抑制されたキャラが魅力のダニエル・ボンドには、
ハデに「ジェームズ・ボンドのテーマ」が鳴るようなスコアよりも、
リアル志向のシブ目のスコアの方が合ってるかな、と。
以前も書きましたが「ジェームズ・ボンドのテーマ」というのは一種のファンタジー音楽なので、
やり過ぎるとドラマのバランスが崩れてしまう可能性があるわけで。
ピアース・ブロスナンのボンドの時はハデな音楽でも全く違和感がなかったのですが、
やはりニヒルなダニエル・クレイグにはダークでストイックな音楽がよく似合う。
（…とワタクシは思うのですが）
前回の『スカイフォール』も今回の『スペクター』も、
トーマス・ニューマンは「ジェームズ・ボンドのテーマをフルートで演奏する」というこだわりがあるようですね。
今回はロンドン・ヴォイセズのコーラス隊を使っているのが印象的でした。
『スペクター』では前回にも増して音響系というか、
アンビエント・ミュージック風の音作りをしたスコアが多めではありましたが、
アバンタイトルのヘリでのファイトや、
Mr.ヒンクスとのカーチェイス、
雪上の飛行機アクション、
列車でのMr.ヒンクスとのドツキ合い、
Mたちが合流してからのクライマックスのアクションシーンなどでは、
厚みのあるオーケストラ・スコアを聴かせてくれていたし、
トータル的にはメリハリのついた楽曲構成になっていたような気がします。
トーマス・ニューマン好きのワタクシと致しましては、
ギターとダルシマーの繊細な音色が特徴的なトーマス・ニューマンのサウンドが、
007という超有名ブランドの大作映画で２度も聴くことが出来て嬉しかったりするのです。
しかし今回はせっかくサム・スミスと同じユニバーサルからサントラ盤が出たのに、
主題歌のWriting’s On The Wallが未収録というのは何とも世知辛い話ですね…。
（あの”大物”マドンナですら『007／ダイ・アナザー・デイ』(03)のサントラには主題歌が入ってたのに…）
「主題歌はシングルで売りたいからサントラには入れさせない」というアーティスト側の意向が働いてのことなのでしょうけれども。
音楽業界が今のような状況だったら、
『タイタニック』(97)のサントラにもセリーヌ・ディオンの主題歌は収録されなかったんでしょうね…。
…とまぁ話が脱線してしまいましたが、
『スペクター』の音楽は映画を観てからサントラを聴いた方が、
オリジナル・スコアの味わい深さが増すような気がします。
サントラの曲順を映画のストーリー進行に合わせて自分で並べ替えるとなおいいかもしれません。
