2015年最後に劇場で観た映画は『クリード チャンプを継ぐ男』(15)でした。
映画を観る前に「リアルサウンド映画部」というサイトのレビューを読んだのですが、
http://realsound.jp/movie/2015/11/post-477.html
権利関係の問題からだろうか、
本作ではあのビル・コンティの音楽が鳴らない。
(中略)
観る前にそのことを知ると、
おそらく誰もが「ビル・コンティの音楽がない『ロッキー』なんて」と思うだろうが、
それにもかかわらず、ここにはオリジナルに比肩する感動がある。
…と書かれてあって、
ああ、やっぱり監督・脚本がスタローンじゃなくなって、
主役が若い黒人青年(アポロの息子)になると、
音楽もヒップホップ推しになってしまうんだなぁと思ったのですが、
いざ映画本編を観てみたら……
ビル・コンティの音楽、
ちゃんと鳴ってるじゃないですか!
しかも、
“Gonna Fly Now (Theme From ROCKY)”と、
“Going The Distance”の2曲。
うーん、上記リンク先のレビューを書かれた方は、
ヒップホップに気を取られてコンティのメロディーを聞き逃したのだろうか…?
まぁ今回の”Gonna Fly Now”はブラスで高らかに鳴る感じではなく、
しっとり、しんみりとピアノで奏でられるのですが、
『クリード』のロッキー・バルボアはクリードのコーチ兼セコンドだし、
『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)からさらに9年経った”老兵”で、
しかも病魔に冒されているという設定なので、
この控えめな音楽配置と繊細なアレンジで正解と言えるでしょう。
セコンドが主役のボクサーよりも目立ってしまってはいけませんし。
しかしこの”Gonna Fly Now”のピアノバージョン、
劇中でメロディーの流れ出すタイミングがまた絶妙なのですよ…。
とはいえ映画のクライマックスからラストにかけては、
“Gonna Fly Now”のイントロ部分のブラスが高らかに鳴り響き、
その後にルートヴィッヒ・ヨーランソンが作曲した「クリードのテーマ」と、
コンティ作曲の”Going The Distance”の泣きのメロディーがメドレーで流れるという、
『ロッキー』シリーズのファン感涙必至の演出が用意されておりまして、
ワタクシ不覚にも目頭が熱くなってしまいました。。
個人的には”老いたロッキー”を描くのは問題なかったのですが、
“ロッキーが大病を患う”というのは正直あまり見たくありませんでした。
「過酷なボクシングの後遺症」という設定ならまだしも、
「ガンを患う」というのはちょっと…。
「そこまでして泣かせにかからなくても…」と思ったわけです。
ところがヨーランソンの切なくも熱い音楽演出のおかげか、
「困難に直面しても諦めるな!最後まで戦うんだ!」
…というストレートなメッセージが伝わってきて、
思ったより湿っぽいドラマにならなかったのがよかったですね。
それにしても本作のルートヴィッヒ・ヨーランソンの音楽は素晴らしかった。
『ロッキー』シリーズの音楽をかなり研究したそうですが、
ビル・コンティの音楽の特徴をよく掴んだオリジナル・スコアに仕上がっているように思います。
本編ではヒップホップも使われていたけど、
ヨーランソンのスコアがヒップホップに食われることもなく、
「クリードのテーマ」の美メロも相まって、ちゃんと音楽が自己主張してる。
スコアと歌モノの使用バランスもちょうどよかったんじゃないかなー。
「クリードのテーマ」のドラマティックなメロディーは、
どことなくフィリー・ソウルのゴージャスなオーケストラ・サウンドを連想させます。
なおヨーランソンは単にコンティの音楽をなぞっているだけでなく、
若手コンポーザーらしい”新しい試み”もやっておりまして、
「ボクサーのトレーニング中の音をサンプリングして音ネタに使う」という手法を用いています。
スパーリングの音とかステップの音をリズムに使ったりしているようです。
テッサ・トンプソン演じるヒロインが歌う曲もヨーランソンが作曲しているようで、
なかなか引き出しの多そうなアーティストです。
今回は「ロッキーのテーマ」という”お題”が与えられた作品でしたが、
今後彼が完全オリジナル曲で挑む作品が俄然楽しみになりました。
ルートヴィッヒ・ヨーランソンという名前、覚えておいて損はないと思います。
(一度聞いたら忘れられない語感の名前もでありますし)
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