Man on Wire / マイケル・ナイマンの音楽

manonwire

先日、綱渡り師フィリップ・プティの実像に迫る『マン・オン・ワイヤー』というドキュメンタリー映画のサントラ盤のお仕事をやらせて頂きました。

ユニバーサルミュージックからこの作品のサントラ盤がリリースになりましたが、
音楽をあのマイケル・ナイマンが担当しております。

担当、というのはちょっと適切な表現じゃないかもしれません。
と申しますのも、この映画の音楽はナイマン本人の了承を得た上で、
彼の過去音源を”再利用”する形で構成されているからなんです。

 

なぜこういう構成になったのか、という経緯については
プティとジェームズ・マーシュ監督が寄稿したライナーノーツに全て書いてあります。
で、これがまた長い文章でございまして。
その結果ライナーノーツの翻訳に文字数の大半を割く事になり、
ナイマンの音楽についてほとんど言及出来なかったので、
その分はここでフォローさせて頂きたいと思います。

拙文も長くなりますが、しばしお付き合い頂ければ幸いです。

マイケル・ナイマンといえば現代音楽の重鎮といった存在ですが、
何となく見た目も気難しい英国紳士という印象を受けます(何となく、ですよ)。

自分の音楽にも相当こだわりのありそうな彼が、
よく音源の二次使用の許可を出したなぁ、と思ったのですが、
考えてみればナイマン自身も自作曲を別の作品に”再利用”しているケースが過去に多々あったという事実を思い出しました。

例えば『コックと泥棒、その妻と愛人』(89)の「Memorial」という曲は、
1985年にヘイゼル・スタジアムで起こったサッカーのサポーターの乱闘事件(いわゆる「ヘイゼルの悲劇」)の犠牲者に捧げた曲の一部だという話ですし、
その『コックと泥棒・・・』で使われなかった音楽を『アンネの日記』(95)で使ったという記述もあります。
また、フランス革命200周年記念の委託作品『La Traversee de Paris』には、
『プロスペローの本』(91)で使われたスコア「Miranda Previsited」の原型となった曲が収録されています。

果たしてこれは「曲の使い回し=手抜き」なのか? もちろん答えは「否」でしょう。

ナイマンにとっては映画のために書き下ろした曲であれ、式典用の委託作品であれ、
自分の作った曲は誰のものでもない自分の作品、という思いが強いのだと思います。

もう少し飛躍させて解釈すると、
「自分の曲をどう使おうと私の自由」という考え方を持っているのではないかと思うわけです。
完成度の高い曲、思い入れのある曲なら、機会があれば他の作品でも積極的に使っていきたいと考えているのではなかろうかと。

だから、ナイマンに自分の作品(映画とか)を気に入ってもらえさえすれば、
比較的すんなり曲を使わせてくれるんじゃないかという気もします。

・・・というわけで、今回のサントラ盤は「フィリップ・プティが選ぶベスト・オブ・マイケル・ナイマン」みたいな内容になってます。
2001年に発売されたベスト盤が最近は入手困難になってきたので、
今後手軽に入手可能なナイマン・ベストとして重宝されそうな気がします。

ちなみに、今回のライナーノーツの翻訳は、
研究生時代にお世話になった東北大学文学部の原英一教授(現東京女子大学現代教養学部教授)にお願いしました。
ここで改めてお礼申し上げます。どうもありがとうございました。

 

『マン・オン・ワイヤー』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ナイマン、ジョシュア・ラルフ他
品番:UCCL1143
定価:2,500円