いつものピクサー映画とちょっと違う『アーロと少年』の音楽(マイケル&ジェフ・ダナ名作選)

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前回は『アーロと少年』(15)のサントラ盤に関するごく私的な話を書かせて頂きましたが、
今回はちゃんと音楽を解説…というかご紹介します。

とはいえここでサントラ盤のライナーノーツ原稿と同じ内容を書いてしまったら、
せっかくのライナーノーツ原稿の意味がなくなってしまうので、
ちょっと違った切り口から『アーロと少年』の音楽をご紹介したいと思います。

 

さてこの『アーロと少年』ですが、
どうも製作が難航していたらしく、
監督や声優のキャストが交代したのですが、
音楽も当初は『ファインディング・ニモ』(03)や『WALL・E/ウォーリー』(08)のトーマス・ニューマンだったのが、
監督交代を受けてマイケル&ジェフ・ダナ兄弟に決まったという経緯がありました。

さてマイケル&ジェフ・ダナといえば、
『エキゾチカ』(94)や『8mm』(99)、『処刑人』(99)など、
ワールドミュージックの要素を採り入れた音楽で人気を集めた作曲家ですが、
最近はワールドミュージック系の音はちょっと控えめになっていて、
どちらかというと『マネーボール』(11)のようなミニマル路線に行っていたのですが、
今回の『アーロと少年』では久々にワールドミュージック系の音を聞かせてくれています。

もともとトーマス・ニューマンが音楽を担当する予定だったから、
いずれにしろこういう路線のサウンドになったとは思うのですが、
やはりダナ兄弟はやることがひと味違う。

 

まず使う楽器がマニアック。
ギターやバンジョー、フィドルなどはまだポピュラーですが、
ジュンブシュとかサズ、ハーポレック、シターンなど、
子供向けのアニメ映画ではあまり見かけない楽器をたくさん使ってます。
そしてスライドホイッスルやトイピアノなど、
恐竜映画らしくないオモチャ系の楽器も使ったりしてます。
これは多分、アーロ(恐竜)とスポット(野生児)という「子供」が主人公の物語だからでしょう。
こういった古今東西のユニークな楽器をオーケストラと一緒に演奏するわけですが、
これが非常に面白いサウンドになっておりまして、
手作り感覚の素朴で暖かみのある音楽に仕上がっているんですねー。

そしてメロディーのキレイさにも心奪われる。
恐竜映画の音楽というと、パーカッションドコドコ系のぶっとい音をイメージしますが、
『アーロと少年』の音楽はとても繊細でメロディアス。
そして前回ちょっとお話しした通り、
ダナ兄弟のアルバム『ケルティック・ロマンス』の曲にも似た雰囲気のスコア曲があったりして、
これがなかなか面白い(フィドルの音色が「ケルロマ」の曲っぽいのです)。

 

ちなみにワタクシ初めてこのサントラを聴いた時、
「何か西部劇っぽい音楽だなー」と思いました。
西部劇と言ってもマカロニ・ウェスタンのような殺伐とした枯れたものではなくて、
アメリカ製の古き良き西部劇の音楽ですが、
フィドルの軽快な演奏が西部開拓時代の雰囲気を連想させるのです。
分かりやすく言うと、『バック・トゥ・ザ・フューチャー PARTIII』(90)の音楽ですね。
特にあのドクとクララがダンスするシーンの曲。
あんな感じの音楽が今回流れてくるわけですよ。恐竜映画なのに。
これはなかなかユニークな音楽演出ではないかと。

 

あと、これはライナーノーツ原稿の文字数の関係で書けなかったのですが、
スコアの中にホーメイ(またはホーミー。”喉歌”というやつです)を使っている曲があって、
これは多分「言葉を持たない人間(=原始人)たちの意思伝達の”声”」という意味合いで使われているのではないかと。
このあたりのワールドミュージックの使い方の巧さが、
さすがダナ兄弟!という感じですね。

…というわけで、
ざっくり音楽紹介をするつもりが、かなり長々と書いてしまいました。
それでも詳細な音楽解説は避けたつもりなので、
詳しくはワタクシがダナ兄弟にインタビューしたライナーノーツ原稿をご覧頂ければと思います。
終盤の音楽が切なくて泣けますよ。
ワタクシいい歳こいて、試写の時にラストでウルッと来てしまいました。

 

マイケル&ジェフ・ダナ兄弟、今回もいい仕事をしております。
あ、そうそう。
マイケルさんは『アーロと少年』と同時上映の短編映画『ボクのスーパーチーム』(15)の音楽もやってますので、そちらもお楽しみに。

『アーロと少年』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ダナ&ジェフ・ダナ
レーベル:Walt Disney Records/エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ
品番:AVCW-63127
発売日:2016/03/09
価格:2,500円(+税)

 

※2018年8月25日追記
Walt Disney Recordsのライセンスがエイベックスからユニバーサルミュージックに移ったのに合わせて、『アーロと少年』のサントラ盤もユニバーサルからリイシューされるようです。

 

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