先月、サントラ盤ライナーノーツの仕事で『ルーム』(15)の試写を観てきました。
話には聞いていましたが、凄い映画でした。。
「感動した」とか「泣いた」とか、もうそういうレベルの話ではなくて、
観終わった後、「この世界で生きていくってどういうことなんだろう？」と数日考え込んでしまうような、
衝撃的かつ忘れがたい作品になっています。
こういう映画は事前情報をあまり入れずに観た方がいいと思うので、
ここでは映画の内容には極力触れずに、
音楽のことを中心に書かせて頂こうと思います。
『ルーム』の音楽を手掛けたのは、アイルランドの作曲家スティーヴン・レニックス。
レニー・アブラハムソン監督とは９歳の頃からの友達らしく、
彼の全ての監督作品で音楽を担当しています。
アブラハムソン監督の前作『FRANK -フランク-』(14)はサントラ盤も出ておりまして、
レニックスは劇中のオリジナル・スコアだけでなく、
奇才フランクのバンド「ソロンフォルブス」の持ち歌を全部作曲しています。
今回はRTEコンサート・オーケストラの演奏によるスコアなので、
『FRANK』の時とは全く雰囲気が異なるのですが、
「切ない余韻を残すスコア」という点では共通するものがあるような気もします。
『ルーム』は本編が118分で、
サントラの収録時間は約44分。
そのうちThis Will Destroy Youの「The Mighty Rio Grande」が11分くらいあるので、
レニックスのスコアは30分程度ということになります。
映画本編で音楽の占める割合が少な目ではあるのですが、
それでもママとジャックの内面を緻密に描き出しているのでした。
『ルーム』の音楽は全編ピアノとストリングスが主体の、
おとぎ話のオープニングのような繊細なスコアで統一されています。
恐らく本作の音楽は「ジャックの視点」から見た世界を描いているからでしょう。
ハードな物語ですが、音楽は一貫して繊細で、
優しさすら感じさせる曲調になっております。
したがって「監禁」という言葉から連想されるような、
おどろおどろしい曲は全くと言っていいほどありません。
本作の”絶対悪”であるところの監禁魔＝オールド・ニックが登場する場面では、
基本的に音楽が流れません（脱出シークエンスは例外）。
“無音”であるがゆえに、
オールド・ニックの得体の知れない恐ろしさを感じさせる巧い演出になっています。
『ルーム』のスコアには印象的なメロディー（主題にあたるもの）が２つ、
その旋律を奏でるメイン楽器もストリングスとピアノの２つ、
映画の前半と後半で音楽が２つの異なる表情を見せるようになっていて…と、
部屋の「中」と「外」という物語構成や、
「ママ」と「ジャック」という二人の主人公の内面描写に合わせて、
スコアも二層構造というか二部構成というか、そんな感じになってます。
映画後半の展開に触れることになってしまうので、
あまり詳しくは書けませんが、
「ママとジャックでは外の世界の受け止め方が全く違う」ということが、
音楽でもちゃんと表現されていたのには「これはすごい」と思いました。
そして終盤でこれまでと違ったメロディーが登場するのですが、
ここがまた美麗なメロディーが似合うとても素敵なシーンでしてね。。
ああ、こんな見事な音楽なのに、
なぜアカデミー賞の作曲賞にノミネートされなかったのか…。
…と、まぁそれはさておき、
この映画は”部屋”の「中」と「外」の二部構成になっているのですが、
ワタクシ中盤の脱出シークエンスも結構重要なのではないかなと思っておりまして、
映画版の『ルーム』は三部構成になっていると（勝手に）解釈しております。
で、そのジャック君の決死の脱出シークエンス場面で流れるレニックスのアンビエント・ミュージック風のスコアと、
前述のThe Mighty Rio Grandeの使い方が素晴らしかったことも追記しておきたいと思います。
アブラハムソン監督か、音楽監督かは分かりませんが、
あの場面にこの曲を選んだ人のセンスは見事だと思います。
映像と曲が完璧にマッチしているので、
映画をご覧になる際は、そういった所にも是非注目して観て頂きたいと思います。
The Mighty Rio Grandeは『マネーボール』(11)での使われ方もよかったけど、
『ルーム』での使い方はそれ以上だったように感じましたね。。
サントラ盤のライナーノーツでは、
もっと内容を掘り下げた音楽解説を書かせて頂きましたので、
映画をご覧になった後にでも目を通して頂ければ幸いです。
『ルーム』オリジナル・サウンドトラック
音楽：スティーヴン・レニックス
レーベル：Rambling Records
品番：RBCP-2985
発売日：2016/03/23
価格：2,400円（＋税）
