ジャズ、ミニマリズム、エモーショナル…『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』の音楽を味わうの巻

trumbo

先日twitterではちょこっとお知らせ致しましたが、
ワタクシ『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』(15)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。

スコア作曲はセオドア・シャピロ。
(発音的にはShapiroは”シャパイロ”だと思いますが、映画のプレス資料に表記を統一しました)
『プラダを着た悪魔』(06)や『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(08)など、
コメディ映画の音楽で名前を見かけることの多い作曲家…なのですが、
アメリカン・コメディは日本で劇場未公開のままDVDスルーになることが多いので、
多作な割に日本ではイマイチ知名度が低い方でもあります。
本作のジェイ・ローチ監督とは過去に3回(うちコメディ映画2本)コンビを組んでいるので、
その流れで今回の起用に至ったというわけです。

近年ほぼコメディ映画専門の作曲家と化しているシャピロが、
赤狩りに翻弄された悲運の脚本家の実録ドラマの音楽を手掛けるというので、
当初はどんな音楽になるのか全く見当がつきませんでした。
予告編では後半部分で「感動巨編!」系の音楽が流れていたので、
同じ赤狩りを題材にしていて舞台となる時代も近い、
『マジェスティック』(01)のマーク・アイシャムの音楽みたいな感じになるのかな、とも思ったり。

で、いざランブリングさんから頂いた音源を聴いてみたら予想と全然違いました。
しかしこれが味があって非常に面白いサウンドだったのであります。

 

『トランボ』の音楽をひとことで説明するなら「ジャズテイストのスコア」ということになるのですが、
オーソドックスなシネ・ジャズというよりはちょっとヒネった感じで、
サウンドの方向性としてはデヴィッド・シャイアの『カンバセーション …盗聴…』(74)とか、
『ゾディアック』(07)に近いものがあるような印象です。
ストリングスとかホーンセクションも使っているのだけれども、
ピアノの旋律が印象的なジャズテイストのスコアというか何というか。

ヒューマンドラマだけど感動を押し売りせず、
社会派的なテーマを描いているけど重すぎず、
それでも心に訴えかける何かがある、
…という絶妙なさじ加減の音楽に仕上がっています。

 

オケの編成は弦4部と金管・木管(クラリネット&サックス)、
ピアノ、ハープ、アップライトベース、ドラムスという構成…なのですが、
アルバムに耳を傾けると、
上記の楽器とは明らかに異なる雰囲気の音が鳴っている。
最初はパーカッションの類だと思ったのですが、
打楽器奏者のクレジットがドラムスしかいない。
で、いろいろ調べてみたところ、
どうやらシャピロは『トランボ』の音楽にプリペアド・ピアノを使っているらしい
こういう実録社会派映画でプリペアド・ピアノを使った音楽はあまり聴いたことがなかったので、
『トランボ』はなかなか新鮮な音楽体験が出来ましたねー。

この楽器はジョン・ケージが1940年代に”発明”したものということなので、
『トランボ』で描かれる時代にこの音が鳴っていても、
時代考証としては間違いではない。
ではなぜシャピロはプリペアド・ピアノをこの映画に使おうとしたのか。

これはシャピロ本人に話を聞かなければ真相は分かりませんが、
ワタクシが推察するに、
たぶんシャピロはトランボの「異端者」「革新的・型破りな人」という人物像を、
音楽的に表現したかったんではないかなと思います。
ジョン・ケージが音楽界で異端の存在だったように、
当時の映画業界で体制に異を唱え続けたトランボもある意味”異端”だったわけで、
普遍的なオーケストラと”異色の楽器(プリペアド・ピアノ)”を共演させることによって、
「ダルトン・トランボここにあり」というメッセージを音楽の中に刻みつけたのではないかなと。
ま、あくまでこれはワタクシの仮説ではありますが…。

で、『トランボ』の音楽はこういった楽器の使い方の面白さはもちろん、
メインテーマ/サブテーマの聴かせ方もしっかりしています。
サウンド的には同一音型の反復が印象的で、ミニマリスティックな趣もありますね。
社会派ドラマの音楽だけれども、
堅苦しくないサウンドに仕上がっているのが素晴らしい。
セオドア・シャピロ、なかなかデキる作曲家さんですよ。

 

なおサントラ盤にはシャピロのスコアの他に、
ホンキング・サックスの王様ビッグ・ジェイ・マクニーリーの「Willie The Cool Cat」と、
ビリー・ホリディの『Ain’t Nobody’s Business If I Do』を収録してます。
ホンキング・サックスというのは、
大雑把に言ってしまえば「車のホーンのようにデカい音でブロウしまくるサックス」…でしょうか。
まぁこの曲を聴けば一発でご理解頂けると思います。
当時最も脂が乗っていたビッグ・ジェイの旦那がアツいブロウをカマしてくれてますので。

「Ain’t Nobody’s Business If I Do」は古いブルースのカヴァーソング。
ワタクシこの曲を以前別な映画で聴いたなーと思ったのですが、
仕事場の棚を調べてみたらデンゼルの『青いドレスの女』(95)でした。
あの映画のサントラも激シブ・ブルースコンピ盤でしたね。。
なのでこの曲はジャズというよりブルースだと思います。

 

『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』オリジナル・サウンドトラック
音楽:セオドア・シャピロ
レーベル:Rambling Records
品番:RBCP-2989
発売日:2016/07/06
価格:2,400円(+税)

 

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