弊社リリース作品『ケルティック・ロマンス』の作曲家、
マイケル・ダナ&ジェフ・ダナが手掛けた映画音楽作品を紹介する不定期連載企画。
このネタの投稿がご無沙汰してしまいましたが、
WOWOWシネマのシェイクスピア没後400年特集で、
ジェフ・ダナが音楽を担当した『O(オー)』(01)を放送するということで、
ちょうどいいタイミングだったので『O』の音楽について書かせて頂きます。
90年代後半~2000年くらいまで、
「舞台を現代に移したシェイクスピア映画」がいくつか作られた時期がありましたが、
『O』は「オセロ」の世界を高校のバスケチームに移し替えるという、
なかなかイロモノというか異色な映画になっております。
元々の話も「イアーゴの姦計に嵌って嫉妬に狂った艦隊司令官が妻を殺してしまう」という話だったので、
その部分をうまく抽出すれば「ティーンエイジャーの恋愛と嫉妬」というドラマに昇華出来るわけで、
ドラマの流れは原作に割と忠実だし、
結構うまく脚色していたような気がします。
ちなみにジョシュ・ハートネットがイアーゴにあたるヒューゴ役を演じております。
確かこの映画、1999年に公開予定だったものの、
例のコロンバインの銃乱射事件があって、
アメリカで劇場公開が2001年に延期になったという記憶があります。
つまりアメリカ国内ではこの映画の中で描かれているようなことも、
決して絵空事ではないということですね。。
監督は俳優としても知られるティム・ブレイク・ネルソン。
『インクレディブル・ハルク』(08)とか『マイノリティ・リポート』(02)とか、
ちょっとギークな感じのキャラを得意とする人ですね。
監督としてはこの『O』が長編2作目で、
本作でジェフ・ダナと組んで以来、
『灰の記憶』(01)や『マッド・ブラザー』(09)など、
全ての監督作で音楽担当にジェフさんを指名しています。
つまりそれだけ『O』の音楽に感銘を受けたということになるわけです。
ではその『O』のジェフ・ダナの音楽はどういうものだったのか。
ネルソン監督のライナーノーツをそのまま引用するなら、
「19世紀のオペラと最新のヒップホップの架け橋になるようなオーケストラ音楽」
…だったのでした。
…とはいっても、
ジェフは安直にオーケストラにヒップホップのリズムを乗せるような音楽を書いたりしていません。
それどころかヴィエール(中世のフィドル)やハーディ・ガーディなどの古楽器を、
ジェフ自身が弾くキーボードやラップスティール、
ダルシマーやハープ、ヴィヴラフォンなどと一緒にオーケストラと演奏させるという、
「中世古楽器 meets 近代オーケストラ楽器」なスコアを書き下ろしたのでした。
近代オーケストラ楽器の”まろみ”のある音色の中で、
フィドルやハーディ・ガーディのやや荒削りな音の存在感が際立っていて、
スコアに緊張感を持たせることに成功していると言えるでしょう。
『ケルティック・ロマンス』でもダナ兄弟は古楽器を使っているのですが、
『ケルロマ』のライナーノーツ用に彼らに話を聞いた時も、
ジェフさんは中世古楽器への興味と関心、シンパシーのようなものを語っていたので、
音楽嗜好に全くブレがありません。
(『ケルロマ』は『O』より前にリリースした作品)
『O』のスコアは音楽の方向性も『ケルロマ』に近いものがあるので、
ワタクシこの映画のサントラは結構好きですねー。
なおスコア盤には映画本編で使われたヒップホップは収録されていませんが、
ヴェルディのオペラ「アヴェ・マリア」は収録されていますので、
オペラとジェフさんのスコアの一体感を味わって頂ければと思います。