先日チネ・ラヴィータで『高慢と偏見とゾンビ』(15)を観てきました。
ワタクシ学生時代に英文学をかじっておりましたし、
『プライドと偏見』(05)も鑑賞済みでしたが、
今回の『高慢と偏見とゾンビ』は思った以上に真面目に”高慢と偏見”してました。
この映画、英文学のパロディ作品だからと言って、
殺陣のシーンやエンドクレジットで歌モノを流してみたり、
シンセやエレキギターを使った音楽をガンガン流さなかったのが好印象でした。
大真面目に「高慢と偏見」のドラマをやっているからこそ、
“ゾンビ”という異色のキーワードが出てくるのが可笑しいわけで。
で、その文芸作品meetsゴシックホラー的な趣のある音楽を書いてるのが、
フェルナンド・ベラスケスというスペイン出身の若手作曲家なのでした。
ワタクシがベラスケスの音楽に注目したのは、
恐怖のエレベーター映画『デビル』(10)や、
ギレルモ・デル・トロ製作の『MAMA』(13)あたりだったでしょうか。
最近だと『クリムゾン・ピーク』(15)の音楽が秀逸でした。
ベラスケスは自身を映画音楽家というより、
クラシック/現代音楽作曲家と捉えてほしいと思っているようで、
『クリムゾン・ピーク』の国内盤ライナーノーツによると、
若い頃(10年くらい前)は映画音楽に対してかなりシニカルな見解を述べていたようです。
他人様の文章を引用・転載するのはやめておきますが、
ひとことで言ってしまえば、
「映画音楽はクラシック音楽の模倣に過ぎない」といった旨の発言をしておりまして、
ワタクシ、この発言を読んでからベラスケスの好感度がちょっと下がってしまったんですよね…。
「言いてぇこたぁ分かるけど、それを言っちゃあおしめぇよ」的な。
(ベラスケスの詳しい発言をご覧になりたい方は『クリムゾン・ピーク』国内盤を買ってみて下さい)
とはいえ、件の発言から10年経って性格が丸くなったのか、
映画音楽の仕事が好調でシニカルな見方が変わったのか、
最近は『ヘラクレス』(14)の音楽なども担当したりもしているので、
今のベラスケスは昔とは考え方も変わってきているのかもしれません。
…というわけで『高慢と偏見とゾンビ』の音楽ですが、
同じホラー映画でも『クリムゾン・ピーク』が”子守歌”の要素が入った音楽だったのに対し、
今回は活劇タッチの威勢のいいホラー音楽と、
洗練された文芸ドラマ音楽が合体したスコアになってます。
『クリムゾン・ピーク』に比べると躍動感を感じさせる音楽とでも申しましょうか。
ベネット・シスターズやダーシー様がゾンビ共をバッタバッタと斬っていくシーンでも、
音楽はとてもお上品なフルオケ・スコアに仕上がっております。
ワタクシ音楽だけを聴いた時は、
1曲目のAn Illustrated History of England 1700-1800などで、
何で急に東洋音階風のメロディーが流れてくるのか分からなかったのですが、
映画本編を観たらあっさり解決しました。
「ダーシー様は日本で剣術を、ベネット・シスターズは中国でカンフーを学んだ」という設定だからだったんですねー。
アクションシーンではオケヒット的な音がエリザベスの殺陣の動きとシンクロしていたり、
生真面目な音楽の中で”遊び”の要素を時折入れてくるのもニクい演出でした。
まあ若い頃に「映画音楽<クラシック音楽」と規定したベラスケスではありますが、
パロディ映画だからといって手を抜かず、
真摯に曲作りに取り組んだ高水準の音楽に仕上がっているのではないかと思います。
サントラ盤は全23曲で収録時間も1時間くらい。
なかなか聴き応えのある内容です。
あまり数が流通していないようですが、
印象的なメロディーも聴かせてくれているので、
ゴシックホラー音楽が好きな方は買ってみてもよろしいのではないかと。