『ラン・ローラ・ラン』(98)を観て衝撃を受けて以来、
ワタクシはトム・ティクヴァ監督作を毎回チェックしているのですが、
(中には『パフューム ある人殺しの物語』(07)のように生理的に受け付けなかった作品もありますが)
とりわけティクヴァ自身も曲作りに参加している音楽(サントラ)に興味がありまして、
今回の『王様のためのホログラム』(16)も映画を観るより先にサントラ盤を買ってしまいました。
音楽はティクヴァとジョニー・クリメック。
いつもだったらここにラインホルト・ハイルが加わって、
3人体勢の通称”Pale 3″で音楽を手掛けているはずなのですが、
今回はハイルの名前がない。
これは一体どうしたことかと思って調べみたのですが、
ハイルとクリメックのコンビとしての活動が2011年で終わってしまったようで、
結果的にPale 3としての活動もおしまいということになったらしい。
とは言ってもケンカ別れなどではないようで、
例えばハイルはTVシリーズ『HELIX』(14)の音楽を一人で担当しているけれども、
『クラウド アトラス』(12)はPale 3で音楽を手掛けているし、
『アイ、フランケンシュタイン』(14)や『Haunt』(14)の音楽もラインホルト・ハイル&ジョニー・クリメック名義だったりします。
「コンビとしての活動は終わったけど、作品によっては二人(もしくは三人)で一緒に音楽を手掛けますよ」という感じなのでしょう。
このチームの音楽は基本的にはジャーマン・テクノの意匠を感じさせるサウンドですが、
『パフューム ある人殺しの物語』(07)では、
指揮:サイモン・ラトル、演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団というクラシック路線、
『クラウド アトラス』も「クラウド・アトラス六重奏」が高い評価を得ていて、
なかなかクオリティの高いオーケストラ音楽を聴かせてくれます。
今回の『王様のためのホログラム』も、
テクノな要素はほとんどなくて、
指揮:クリスチャン・ヤルヴィ、演奏:MDR交響楽団というこだわりのオーケストラ・スコアになってます。
中東が舞台ということで、
そこに中東風のメロディーや楽器の音色を加えた感じ。
サントラを聴いた感じだと、
中東由来の擦弦楽器・撥弦楽器のような音色が聞こえてくるのですが、
ブックレットの情報を見た限りでは、
民族楽器の演奏者や楽器名のクレジットがないのです。
Guitar performances by ○○ と記載されているので、
ギターを民族楽器っぽく弾いているのか、
ギター属の民族楽器を全部ひっくるめてそう記述しているのかのどちらかでしょう。
サウンド的にはテクノっぽい音はほとんどないのですが、
弦の響きにアンビエント/サウンドスケープ的なものを感じさせたり、
打楽器の正確無比なリズムパターンや弦の反復フレーズに、
どことなくエレクトロニカ/フォークトロニカのような趣が感じられたり、
実にティクヴァ&クリメックのコンビらしい先鋭的なスコアになってます。
ヒューマン・コメディの音楽という感じではありませんねコレは。
サントラはスコアのみで全11曲、
収録時間は43分くらい。
以前『ザ・バンク/墜ちた巨像』(09)や『クラウド アトラス』のサントラを買った方、
現代音楽に関心のある方なら結構楽しめるサントラ盤ではないかと思います。