ハリウッド映画音楽界での女性作曲家の活躍に期待したい、というお話。

明日はいよいよ第89回アカデミー賞授賞式ということで、
昨年末あたりから作曲賞ノミネート作品のサントラ盤を買いそろえていたのですが、
先日『ジャッキー/ファーストレディー 最後の使命』(16)のサントラ盤を購入して、
候補作品フルコンプとなりました。

『ジャッキー』は従来の伝記映画の音楽とはひと味違うサウンドで面白いのですが、
ワタクシ的にはレスリー・バーバーの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)の方が好みの音でして、
こちらはアカデミー賞にノミネートされずちょっと残念だったのですが、
サントラ盤の曲目を見て何となくその理由が分かりました。

恐らく「楽曲の中で既存のクラシック曲の占める割合が多いから」ということなのでしょう。
でもなぁ、だからといってバーバーの音楽がノミネートに値しないと判断するのはちょっと違うのではないかなぁ、と思ったりもするのですが…。

まあそれはさておき――

 

『ジャッキー』の音楽を手掛けたのはミカ・レヴィということで、
女性作曲家がアカデミー賞作曲賞にノミネートされるのは、
レイチェル・ポートマンの『ショコラ』(00)以来になるのかな。
ポートマンの場合は『ショコラ』と前年の『サイダーハウス・ルール』(99)でノミネート、
『エマ』(96)でミュージカル/コメディ部門での作曲賞受賞という結果でした。

アカデミー賞作曲賞が「ドラマ部門」と「ミュージカル/コメディ部門」に分かれていた頃、
後者で同賞を受賞したもう一人の女性作曲家が、
『フル・モンティ』(97)のアン・ダドリーだったというわけです。

 

映画音楽業界の第一線で活動している女性映画音楽家はまだ少ないし、
90年代当時も「女性作曲家=ヒューマンドラマ/ロマコメ専門」という認識だったようですが、
いやいや彼女たちは特定のジャンルに囚われない活躍をしてますよ、と。

前述のポートマンはジョナサン・デミの『クライシス・オブ・アメリカ』(04)や『シャレード』(02)、まさかの第二次大戦捕虜収容所映画『ジャスティス』(02)の音楽を担当しているし、
ダドリーは『狂っちゃいないぜ!』(99)や『アメリカン・ヒストリーX』(99)、『クライング・ゲーム』(92)の音楽を担当してるし、今回もイザベル・ユペールが女優賞候補になっている『Elle』(16)の音楽を手掛けてたりします。

『グラディエーター』(00)でジマーさんと共演したリサ・ジェラードも、『インサイダー』(99)や『クジラの島の少女』(02)、『ジェーン』(16)などの音楽で個性を発揮しています。

もう少し古いところでは、
若き日のダニー・エルフマンを支えた故シャーリー・ウォーカーも『ファイナル・デスティネーション』シリーズや、ジョン・カーペンターの『透明人間』(92)などホラー映画の音楽を手掛けていましたねー。

 

で、この話の流れでワタクシが忘れられない女性作曲家の方がひとりいらっしゃいまして、
それは誰かと申しますと、
『ヴェニスの商人』(05)のジョスリン・プークなのであります。

ワタクシ『ヴェニスの商人』のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂いたのですが、
当時の自分は映画音楽物書きの仕事を始めてまだ2年くらいで、
まあ早い話が未熟者だったわけです。

しかし自分も一応は某国立大の英文科で学んだ身でもありますし、
作品が作品なので中途半端な音楽解説は書けないだろうということで、
恐れ多くもプーク女史にインタビューを申し込んだのですが、
いくつか申し込みの手順を踏んだ後に快諾して下さいまして、
「よござんす、ご質問を伺いましょう」と、『ヴェニスの商人』の音楽についていろいろ教えてくれたのでした。

 

『ヴェニスの商人』は様々な民族楽器を使った非常に多面的な音楽で、
エドガー・アラン・ポーやジョン・ミルトンの詩を使った歌があったりもしたのですが、
なぜこういう民族楽器を使ったのか、
なぜポーやミルトンの詩をあえて選んだのか、
当方の質問にとても丁寧に答えて下さったのでした。
プーク女史の説明を聞いていて、
とても聡明な方だなーと思ったものです。
彼女はピーター・ガブリエルのレーベル「REAL WORLD」から自身のソロアルバムを出していたりもしたので、
あらゆる時代・あらゆる国の音楽に精通した作曲家だったのですね。
貴重な体験をさせて頂きました。

 

まあそんなわけで、
女性作曲家の底力というか、
無限の可能性というか、
優れた音楽感覚を傍目で見てきたワタクシと致しましては、
今後の映画音楽界での更なる活躍に期待したいと思うのであります。

 

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