若手作曲家ニコラス・ブリテルが『ムーンライト』で描いた「ピアノとヴァイオリンのポエム」

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『ムーンライト』(16)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。

そして文字数の関係でライナーノーツに書けなかったこともいくつあったので、
それを弊社のブログで補完させて頂きます、
…ということを以前のブログでお話ししたのでした。

前回はワタクシのニコラス・ブリテルの音楽への飽くなき好奇心について書かせて頂いたので、
今回は『ムーンライト』の音楽の概要をざっくりご紹介させて頂きます。

 

さてその『ムーンライト』のスコアですが、
ブリテル自身は「ピアノとヴァイオリンのポエム」と表現しておりまして、
ブリテルのピアノとティム・フェインのヴァイオリンのソロ演奏を大きくフィーチャーしたオーケストラ・スコアとなっています。

1曲あたりのプレイタイムが非常に短くて、
サントラ盤に収録されたブリテルの曲はほとんどが1分台。
(26秒とか48秒の曲もあります)
ボリューム的に言えば音楽の量は非常に少ないのですが、
不思議と短さや物足りなさは感じません。
弦とピアノが織りなすメロディーがため息が出るほど美しくて、
曲の短さなど全く問題ではなくなってしまいます。

前述の「ピアノとヴァイオリンのポエム」というのは、
主にこの映画のメインテーマでもある「リトル(=シャロン)のテーマ」を指しているのですが、
同じメロディーを「リトルのテーマ」「シャロンのテーマ」「ブラックのテーマ」とチャプターごとに変奏させることで、
「容姿(=編曲)が変わっても中身(=メロディー)は子供の頃と同じ」というシャロンの姿を音楽的に描いておりまして、これは実にうまい手法だなと思いました。
音の響きのちょっとした違いで、シャロンの心理状態の変化がすごくよく分かる音楽になっているのです。
これは言葉にしてもうまく伝わらないので、
是非映画本編をご覧になって体感して頂きたいところです。
シャロンの心が揺れる時、
弦もトレモロ奏法で震える音になる、という音楽演出が秀逸でした。

メインテーマの他にも、
映画の予告編で使われたフアンがシャロンに水泳を教えるシーンの曲や、
大人になったケヴィンがシャロン(=ブラック)の夢に現れるシーンの曲など、
印象的なフレーズの楽曲が2つほどあるのですが、
この旋律が何を意味するのかと思いを巡らせてみると、
いろんな考えが頭の中に浮かんできて、
本作の音楽の奥深さに気づかされるのではないかと思います。

先ほど「音楽(スコア)の量が少ない」と書きましたが、
この映画の場合はこれで正解だと思います。
カンバスの隅から隅まで彩色するような饒舌な音楽だと、
きっとドラマのリアリズムが薄れてしまってたと思うのですね。
無口で感情を表に出さない(出せない)シャロンのキャラクターに合わせて、
音楽も必要最低限の量と慎ましやかな旋律で、
シャロンの最も重要な心の揺れ動きをピンポイントで描き出すという。
だからこそ切ない。そして美しい。

なお『ムーンライト』のスコアでは”チョップド&スクリュード”というサザン・ヒップホップの手法が使われているのですが、
文章が長くなってきたのでこれについてはまた次回。

 

『ムーンライト』オリジナル・サウンドトラック(amazon)
音楽:ニコラス・ブリテル
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3186
発売日:2017/04/07
定価:2,400円+税

 

 

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