『バリー・シール アメリカをはめた男』サントラ盤の私的推し曲はこの曲とあの曲です!の巻

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、トム・クルーズ主演のアンチヒーロークライムアクション映画『バリー・シール アメリカをはめた男』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。

オリジナル・スコアの作曲は『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)のクリストフ・ベック。
アメリカではVarese Sarabandeからのサントラリリースということで、「ベックのスコア盤のライナーノーツを書くのは初めてだから楽しみだな」と思っていたのですが、トラックリストが発表になってみたら、何とまさかのソングコンピレーション盤でした。
「Vareseもコンピ盤を出すことあるんだ」と思いましたが、よく考えれば『ロング・トレイル!』(15)とか『ゴールド 金塊の行方』(16)もコンピ盤だったなぁ、と。

…というわけで、『バリー・シール』のサントラ収録曲は以下の通り。

1. A Fifth of Beethoven / Walter Murphy & The Big Apple Band
2. One Way Out / The Allman Brothers Band
3. Blue Bayou / Linda Ronstadt
4. Seguro Lo Hara Otro / John Ever Villa
5. Black Widow Blues / Townes Van Zandt
6. Hooked On Classics (Part 1 & 2) / Louis Clark & The Royal Philharmonic Orchestra
7. I Don’t Need You / The Troyes
8. Loud N’ Restless / Loosely Tight
9. What Makes A Good Man? / The Heavy
10. What Now? / Christophe Beck (Score)
11. Sandanistas y Reagan / Christophe Beck (Score)
12. Heading to the States / Christophe Beck (Score)

「ワルな主人公の破天荒でブッ飛んだ実話の映画化作品」で「ドラッグ絡み」ということで、サントラの内容も『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)や『ブロウ』(01)系の「アガる懐メロコンピ」になってます。

内訳としては70年代の曲が3曲、60年代の曲が2曲、80年代の曲が2曲、2010年代の曲が2曲、スコアが3曲といった感じ。超有名曲からマニアックな曲までバラエティに富んだ内容です。

オールマン・ブラザーズ・バンドとかリンダ・ロンシュタットはあまりにも有名なので、ここでは紹介を割愛させて頂くとして、ライナーノーツの中でいろいろ紹介したかったけど、文字数の都合で全部書き切れなかったアーティストがおりましたので当方のブログにて補完させて頂きます。

で、ワタクシがもっと文字数を割いて紹介したかったのは誰かと申しますと、アルバム5曲目のBlack Widow Bluesを歌うタウンズ・ヴァン・ザントなのです。

ジャンル的にはカントリーとかブルース系のミュージシャンということなるのかな。
この方は自身のヒット曲というのはほとんどないのですが、他のアーティストに提供した曲や、他のアーティストによってカヴァーされた曲がヒットしていたりして、アメリカの音楽界ではリスペクトされている人なんですね(2004年にドキュメンタリー映画も作られているほど)。

で、映画のサウンドトラックにヴァン・ザントの曲が使われる機会も多くて、『ビッグ・リボウスキ』(98)のDead Flowersとか、『ヒットマンズ・レクイエム』(08)のSt. John the Gambler、『クレイジー・ハート』(10)のIf I Needed You、『最後の追跡』(16)のDollar Bill Bluesなど、ワタクシが持っているサントラ盤にも結構ヴァン・ザントの曲が収録されているのです。

ちょっとシブ目の映画…というか、舞台が荒野とかカウボーイハットを被った人が出てくる映画での楽曲使用率が高い。そんな感じの曲を歌う人です。
男臭さと悲哀と枯れた味わいを漂わせたヴォーカルと詞の世界がなかなかイイ。
そんなわけで、ワタクシのイチ押し曲その1はタウンズ・ヴァン・ザントなのでした。

そしてもうひとつ注目しておきたい曲が、The HeavyのWhat Makes A Good Man? です。
The Heavyは「ペプシネックス ゼロ」のCM曲”Same Ol'”で話題になったUKのバンド。
ワタクシの場合は『ザ・ファイター』(10)とか『ブラック&ホワイト』(12)で使われたHow You Like Me Now? のインパクトが強かったのですが(『コウノトリ大作戦!』(16)での曲の使い方が最高)。

これ以外の曲は基本的に懐メロで統一してきたのに、何で最近の曲が収録されているのか?
それはWhat Makes A Good Man? こそ事実上の『バリー・シール』のテーマ曲にあたるものだから…ではないかと思うのです。

この曲の歌詞がバリー・シールの人生そのものというか、「人間関係なんかどうでもいい/俺にとって経験だけが意味のあるものさ」「何が大事かは自分が決める/他人が引いた線の上を歩く人生なんて何の意味もない」…というようなことを歌っているし(注:大雑把な訳です)、何よりサビの部分で繰り返されるフレーズ、

To tell me now
And show me how
To understand
What makes a good man?

さあ 言ってみろよ
そして 見せてみろよ
俺に分かるように
善人ってのが何なのかを

…というのが、CIAやホワイトハウスに向けて放つ強烈なメッセージになっているのではないかと。
「お前らの言う”正しい行い”ってのが何なのか俺に分かるように教えてくれよ」というバリー・シールの主張(あるいはバリーというキャラを通して語られる映画の作り手側からの主張)がこの曲に込められていると。このように思うわけなのです。

そう考えると、全ての劇中使用曲に何らかの意味があったりするのかな、と思えてきて、サントラ盤もぐっと味わい深くなっていく。単にレコードレーベルとタイアップして”ウケる曲”を集めたコンピ盤とは一線を画するディープな内容のサントラに仕上がっていると思います。

『バリー・シール アメリカをはめた男』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ヴァリアス(クリストフ・ベックほか)
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3219
発売日:2017/10/18
定価:2,400円+税

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