『ユダヤ人を救った動物園』の音楽がハリー・グレッグソン=ウィリアムズというのはちょっと意外だった、という話。

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。

ワタクシ、ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ(以下HGW)のサントラ盤ライナーノーツは何度か書かせて頂いておりまして、
古くは『ヴェロニカ・ゲリン』(03)や『マイ・ボディガード』(04)、
『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』(10)を経て、
DSDリマスター盤の『シュレック』(01)に最近だと『イコライザー』(14)という感じなのですが、
「HGW=アクション映画への登板が多い作曲家」というイメージなので、
この映画の音楽を手掛けることになったのはちょっと意外でした。

 

近年HGWは『ブラックハット』(15)の「本人の知らぬ間にほぼ全曲スコア差し替えトラブル」や、
『エイリアン:コヴェナント』(17)のプロジェクト離脱など、
何だか気の毒な扱いを受けることが何度かありました。
そんな中、キャサリン・ハードウィック監督の『マイ・ベスト・フレンド』(15)の音楽を担当して、
本作で再び女性監督(=ニキ・カーロ)の作品に登板したというのが興味深い。
女性監督による、女性主人公のヒューマンドラマ作品で、
アクション映画の世界からちょっと離れて、
自分の音楽に更なる磨きをかけてみようと思ったのか。
(ジョン・パウエルもそういう時期がありましたし)

 

そうは言っても、これまでトニー・スコット映画などでバリバリのアクション・スコアを鳴らしていた彼が、
「武力ではなく”全ての命は等しく守られるべきもの”という強い信念と優しさでドイツ軍と戦った女性」を
どう音楽で描くのか興味津々なわけです。

で、ライナーノーツを書くにあたってアルバムをじっくり聴いてみたのですが、
いつものキレッキレのアクション・スコアとは趣を異にするものの、
サウンド的には”HGWらしさ”がしっかり感じられる音楽になってました。

どのあたりが「HGWらしい」のかと申しますと、
電子楽器/電子音の導入具合。
第二次世界大戦の頃の話だから、
アコースティックなオーケストラ・スコアで行くのかなーと思ったのですが、
結構な割合で電子音を使ってます。
シンセ系のもわっとした重低音やマーティン・ティルマンのエレクトリック・チェロを使っているし、
デヴィッド・トーンを彷彿とさせるアンビエント系のループギター・サウンドを鳴らしていたりします。
ピアノ演奏はHGW自らが担当。

で、ワタクシこのアルバムを聴いているうちにふと思ったのですが、
『ユダヤ人を救った動物園』の音楽は前述の『ヴェロニカ・ゲリン』や、
HGWの初期作『陰謀のシナリオ』(97)に近いものがありますな。

奇しくもどちらも女性が主人公の作品ですが。
こういう路線のHGWの音楽は最近ほとんどお目にかかれなかったので、
(強いて言うなら2007年の『ゴーン・ベイビー・ゴーン』がこの路線に近いか?)
「普段と違うHGWサウンド」が聞けるという点では資料的価値の高いアルバムになってます。

…というわけで、ステレオタイプな「女性主人公の実録ドラマ」とは一線を画するサウンドに仕上がっておりますので、
是非こちらの映画のサントラ盤を手に取って頂ければと思います。

 

『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3228
発売日:2017/11/29
定価:2,400円+税

 

 

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