ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。
前回の投稿では「マイケル・ブルックにインタビュー出来ましたよ~」という話を書いたので、今回はどんな感じの音楽なのかをご紹介したいと思います。
マイケル・ブルックはキャリア初期にダニエル・ラノワやブライアン・イーノと交流を深めたミュージシャン。
したがって彼が作り出す音楽もアンビエント/ニューエイジ系ということになるわけですが、今回は「アンビエント/ニューエイジ系」と「オーソドックスな映画音楽」の中間的なサウンドといった感じ。
ブルックの過去の作品を挙げて音楽の雰囲気をご説明するならば、『不都合な真実』(06)ほどアンビエント寄りではないけれども、『ブルックリン』(15)ほど古典的なスタイルの映画音楽でもない。方向性としては『ウォールフラワー』(12)のスコアに最も近いサウンドではないかと思います。
一般にギタリストが映画音楽を手掛けると、メイン楽器(=主旋律を弾く楽器)もギターになることが多いのですが、ブルックはギタリストであるにもかかわらず、メインテーマのメロディをピアノで奏でています。
本作のスコアにおいてギターはエレクトリックギターの持続音や、アコースティックギターのアルペジオを用いて、主にアンビエントな音空間を作り出す役割を担っています。
ブルックのソロ作品やダニエル・ラノワ/ブライアン・イーノとのコラボ作品を振り返ってみると、『ボストン ストロング』はギターの使い方ひとつ取っても実に彼らしさが出た音楽になっているのではないかと。
「ボストン ストロング(ボストンよ 強くあれ)」とか「ダメな僕だから“英雄”になれた」という言葉が並ぶ本作ではありますが、その音楽はというと、とても静かで繊細なトーンになっています。
筋肉モリモリマッチョな肉体とか特殊能力とは違う強さ、「周囲の人たちに叱咤激励されながら、少しずつ困難を乗り越えていく」という平凡な男の中に宿った”内なる力(Inner Strength)”を描いた「静かに熱い、希望を感じさせる音楽」と言えるでしょう。
ドキュメンタリー映画の音楽に近い一歩引いた感じのサウンドとでも申しましょうか(そのうちテレビのドキュメンタリー番組のBGMとかでサントラの音源が使われそうな予感)。
シンプルなピアノのメロディだけで、ジェフ・ボーマンという男の人となりを過不足なく描いてしまったブルックの洞察力はお見事というしかありません。音楽設計に全くムダがない。
そして一般的なサントラだったらこういう曲は収録されないだろうな、というような曲もアルバムに収録されているのが興味深い。(アルバム4曲目の”Out of Breath”と5曲目の”A Moment of Pause”がそれ)
普通の人(筆者含む)が「これ音楽じゃなくて効果音じゃないの?」と思ってしまうような曲でも、マイケル・ブルックにとっては「音楽」という認識のようで、このあたりさすがラノワやイーノと一緒に仕事をしてきた人だなーと思った次第です。
…というわけで、ブライアン・イーノやクリフ・マルティネス、トーマス・ニューマンなどの実験的な音楽(特にアンビエント系)がお好きな方にオススメしたいアルバムとなっています。マイケル・ブルックの珠玉のアンビエント・スコアをお楽しみ下さい。
『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ブルック
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3275
発売日:2018/04/25
定価:2,400円+税