『リミット・オブ・アサシン』のサントラ盤にマリリン・マンソンのエンディングテーマが収録できた理由

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『リミット・オブ・アサシン』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。

『ジョン・ウィック』製作チームのアクション映画ということで、
この映画も「ナメてた相手が実は凄腕の殺し屋だった」系のストーリーなのですが、
いやーーー面白かったですねコレ。
映画の劇場公開規模がそれほど大きくないと聞いてワタクシ心配していたのですが、
規模はどうあれアクション映画としては大変よく出来ておりまして、
ワタクシ、サントラ盤ライナーノーツ執筆の仕事があったとはいえ、
面白すぎて映画本編を6回ほど繰り返して観てしまいました。

トラヴィス・コンラッド(イーサン・ホーク)の哀愁漂う姿。
そのトラヴィスの元傭兵仲間ジム(ポール・アンダーソン)との微妙な距離感で保たれた男の友情。
傷心のトラヴィスを支える義父フランク(ルトガー・ハウアー)の”タダのオヤジじゃない”感。
情など微塵も持ってなさそうな組織の元締め(リアム・カニンガム)の冷血漢っぷり。

皆さんいい味を出しているんですよ、これが。

音楽担当はタイラー・ベイツ。
6月はちょうど『デッドプール2』(18)も日本公開になっているので、
ちょっとした「タイラー・ベイツ強化月間」ですねー。

ワタクシこの映画が好きすぎて、
そしてタイラー・ベイツさんの音楽も好きすぎて、
『リミット・オブ・アサシン』の音楽についてはライナーノーツでほとんど書き尽くしてしまったため、
ブログ用に温存しているネタもほとんど残っていなかったりします。

そこで字数の都合上ライナーノーツで書き切れなかった、
マリリン・マンソンのエンディングテーマについて少し書かせて頂きたいと思います。

 

『リミット・オブ・アサシン』のサントラ盤は、
エンドクレジットで流れるマリリン・マンソンの”God’s Gonna Cut You Down”がバッチリ収録されているという、
あの『ジョン・ウィック』でも為し得なかった偉業(?)を達成しております。

ではなぜ今回はそれが可能になったのか?

勘のいい方はもうお気づきになっているかもしれませんが、
『ジョン・ウィック』で使われた”Killing Strangers”はマンソンのアルバム「ザ・ペイル・エンペラー」収録曲なので、
ライセンスの関係でサントラ盤には入れられなかったけれども、
今回の”God’s Gonna Cut You Down”は『リミット・オブ・アサシン』のためにレコーディングした新曲なので、
サントラ盤への収録が可能になったというわけではないかと。

マンソンのニューアルバム「ヘヴン・アップサイド・ダウン」は、
当初2月リリース予定でレコーディングが進められていたものの、
仕上がりに満足できずアルバムの発売を10月に延期し、
レコーディングが”延長戦”に突入したという出来事がありました。

■参考資料
マリリン・マンソン 『Heaven Upside Down』 混迷を極める米国社会が、ふたたびアンチクライスト・スーパースターを目覚めさせてしまった! | COLUMN – Mikiki
http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/15545

 

で、レコーディング作業が延長戦に突入した間も、
アルバムプロデューサーであるベイツさんのもとには映画音楽の作曲依頼が続々と入ってきたので、
マンソンのレコーディングと映画音楽の仕事を並行してやっていたであろうことは容易に想像がつくわけです。
どちらも自分のスタジオで作業しているのだから、
「せっかくだから映画の挿入歌もこのメンバー(マンソンのアルバムのレコーディングメンバー)で作っちゃうか?」ということになったのでしょう。

その結果、「ヘヴン・アップサイド・ダウン」のレコーディングと同時期に作業していたであろう『アトミック・ブロンド』(17)のサントラにはミニストリーのカヴァー”Stigmata”が収録できたし、
本作『リミット・オブ・アサシン』にはジョニー・キャッシュのカヴァーである”God’s Gonna Cut You Down”が収録できたと。
そういう事情があったのではないかなと思います。

 

“God’s Gonna Cut You Down”は一応ジョニー・キャッシュのカヴァーということになっていますが、
正確には古いトラディショナル・フォーク・ソングでして、
いろんなミュージシャンがこの曲を歌ってます。
プレスリーも”Run On”のタイトルでカヴァーしてますが、
ヘヴィな歌詞とは対照的な軽快なアレンジで歌ってます。

マンソンのカヴァーはジョニー・キャッシュ版のアレンジに近いものとなっているので、「ジョニー・キャッシュのカヴァー」という表現も決して間違いではない。

そのうちマンソンのシングルB面とかレアトラック集に収録されたりするのかなーと思ったのですが、
何かのインタビューで「この曲(God’s Gonna Cut You Down)は映画のために作った曲だから、自分のアルバムに入れる予定はねぇな」と言っていたので、
現状、この曲が聴けるのは『リミット・オブ・アサシン』のサントラだけということになりそうです。

「ペイル・エンペラー」で聞かせた土臭いアメリカン・ルーツ・ミュージックの要素を感じさせる、
マンソン流の激シブトラッド・フォークを本盤で是非味わって頂ければと思います。

 

『リミット・オブ・アサシン』オリジナル・サウンドトラック
音楽:タイラー・ベイツ
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3283
発売日:2018/06/06
定価:2,400円+税

 

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