ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『リミット・オブ・アサシン』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。
音楽担当は『デッドプール2』(18)も好評な売れっ子タイラー・ベイツ。
そしてエンディングテーマ”God’s Gonna Cut You Down”を歌うのはあのマリリン・マンソン。
前回のブログではマンソンの曲についてあれこれ書かせて頂きました。
その前回のブログの中でも申し上げた通り、
『リミット・オブ・アサシン』の音楽についてはライナーノーツでほとんど書き尽くしてしまったため、
ブログ用のボツネタもほとんど残っていません。。
しかしサントラ盤のPRのためにももう少し何か書かなきゃイカンだろうということで、
何とかネタを絞り出してサントラ盤の聴きどころをご紹介致します。
前述のデップー2を筆頭に、
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズなど、
大作映画のフルオケ音楽を作曲する機会が多いベイツさんですが、
今回の『リミット・オブ・アサシン』は低予算アクション映画ということで、
シンセサイザーのサンプリング音源がメイン。
そこにエキゾチックな歌唱を聞かせるソロ・ボーカリストとパーカッショニスト、ベイツ自らもギターヴァイオルで参加という感じの構成になってます。
で、そのベイツさんが弾いているギターヴァイオルが本盤の聴きどころとなっているのです。
ギターヴァイオルというのは「弓で弾くエレクトリック・ギター」と思って頂ければ分かりやすいかと。
タイラー・ベイツは映画音楽家であると同時に腕利きギタリストでもあるのですが、
初期の『300 <スリーハンドレッド>』(06)から『ジョン・ウィック』(14)、そして本作などでギターヴァイオルを弾きまくっておりまして、
以前『地球が静止する日』(08)のサントラ盤ライナーノーツでベイツさんにインタビューした時も、
ギターヴァイオルがどれだけ音楽表現の幅を広げてくれたか熱く語ってくれていました。
…まぁその割には「キネマ旬報」に『地球が静止する日』のサントラ評が載った時、
批評家の人に「ギターヴァイオルがそれほど効果を発揮したとは思えない」的なことを書かれてしまっていて、
「そりゃちょっとあんまりじゃないかい…?」と思ったのを記憶しております。
が、しかし。
今回の『リミット・オブ・アサシン』ではギターヴァイオルのユニークな音が存分に味わえます。
サウンドとしてはエレクトリック・チェロのような音という感じなのですが、
何しろ”ギター”なのでコードが弾けるしいろいろな特殊奏法も出来るので、
エレクトリック・チェロとも違うサウンドが作り出せる。
そして本作でベイツさんはループ・ステーションを使ってギターヴァイオルの多重録音を行っておりまして、非常に多彩な音を生み出しているのです。
予算の都合上、生のオーケストラが使えなかったであろう本作において、
音に厚みと多様性を与える重要な役割を果たしているのがこの楽器というわけです。
ブックレットのクレジットを見ると、
マンソンの”God’s Gonna Cut You Down”の方には、
Tyler Bates – Guitars, Bass, Melodica, Guitarviol と書いてあるけれども、
スコアの方は Guitarviol: Tyler Bates としか書かれていないので、
スコアの中でエレクトリックギターっぽく聞こえる音も、
全部ギターヴァイオルで鳴らしているということになりますね。
ここ最近のタイラー・ベイツのサントラの中でも、
「ギターヴァイオルという楽器が鳴らす音」が最も認識しやすい作品になっているのではないかと思います。
まぁ何が言いたいかと申しますと、
「面白いサウンドに仕上がっているから是非サントラを買って聴いて下さい!」ということです。
こういう映画なので基本はザラザラしたエッジィな音楽なのだけれども、
時々アンビエントなサウンドが流れてきて、
(映画本編の展開を知っていると)不意に涙腺を刺激されてしまう、
意外なところで泣かせてくれる音楽でもあります。
そのあたりについてはライナーノーツで詳しく書かせて頂きましたので、ベイツさんの音楽に耳を傾けながら、拙稿に目を通して頂ければ幸いに存じます。
“God’s Gonna Cut You Down”の小ネタもライナーノーツの中でいろいろ書きましたので、こちらも併せてご一読頂ければと。
『リミット・オブ・アサシン』オリジナル・サウンドトラック
音楽:タイラー・ベイツ
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3283
発売日:2018/06/06
定価:2,400円+税