ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『アメリカン・アサシン』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。
音楽は『ゼロ・グラビティ』(13)のスティーブン・プライス。
ワタクシ、プライスのサントラ盤ライナーノーツは以前『ゼロ・グラビティ』(13)と『フューリー』(14)も担当させて頂きまして、
日本盤未発売の『スーサイド・スクワッド』(16)も含めてこの方の音楽はかなり聴きこんでいるのですが、
今回もかなりの力作に仕上がっています。
登場キャラが多すぎた『スーサイド・スクワッド』よりも、
本作の方が引き締まったサウンドになっていて聴きやすいのではないか、というのが個人的な感想です。
スティーブン・プライスというと「エドガー・ライトとデヴィッド・エアーの専属作曲家」とか、
アルフォンソ・キュアロンのような「アカデミー賞監督のスペシャルな映画御用達の作曲家」というイメージでしたが、
そんなプライスに娯楽アクション映画の作曲依頼をしてもいい時代(?)になったんですねー。
『アメリカン・アサシン』はテロリストに恋人を殺された青年ミッチ・ラップ(ディラン・オブライエン)が、
私怨からCIAの対テロ特殊チームに加入して活躍する姿を描いたハードアクション映画です。
物語としては「序章」「特訓編」「実戦編」の3部構成になっていたかな、という感じ。
通常こういった「国家の敵」と戦うスパイや特殊部隊員、組織のエージェントというのは、戦いの根底に”愛国心”があるのではないかと思います。
ジェームズ・ボンド然り、
ジャック・バウアー然り、
ジャック・ライアン然り。
あのジェイソン・ボーンでさえ、
一応最初は愛国心から「トレッドストーン計画」に志願したわけで。
だからスパイ(=シークレット・エージェント)映画の音楽には、
多くの場合どこか愛国的でヒロイックなテーマ曲が存在する。
ところがさすがスティーブン・プライスと言うべきか、
『アメリカン・アサシン』の音楽にはひと捻り加えてあって、
特徴的なメインテーマは確かに存在するのだけれども、
愛国的・英雄的なメロディとは一線を画するものになっているのです。
そこが実に面白い。
先ほど”私怨”という言葉を使いましたが、
本作の主人公ミッチは「無差別テロで恋人を殺される」という悲劇を経験して「テロリスト絶対転がすマン」になった人物なので、
決して愛国心からCIAに参加したわけではない。
それどころか「ただ復讐のためにCIAを利用した男」なのです。
そんなミッチが「テロとの戦い」に身を投じる”動機”となっているのは、「怒り」と「悲しみ」のふたつ。
それがそのまま本作の音楽にも反映されているのです。
どのメロディがどのテーマなのかということは、
サントラ盤ライナーノーツに詳しく書かせて頂いたので、
詳しくはそちらをご覧頂ければ幸いに存じます。
プライスさんの音楽は割と難解な部類に入りますが、
今回は比較的読み解きやすいスコアではないかと思います。
で、そのミッチは全編「テロリスト絶対転がすマン」と化してるので、
プライスの音楽も非常にジャギー(Jagged)というかエッジィ(Edgy)というか、
オケとシンセを組み合わせてエフェクトと多用した、
ミッチの殺気立った内面を表現したようなザクザク・ギザギザした質感のサウンドとなっています。
これが聴いていると非常にクセになる。
『ゼロ・グラビティ』のデブリ飛来シーンや、
『フューリー』の戦車バトルシーンの時のような音楽がたっぷり聴ける感じ。
リモート・コントロール・プロダクションズの方々とか、
ブライアン・タイラー、デヴィッド・アーノルドが手掛けたスパイ・アクション音楽とも異なるサウンドに仕上がっているので、
「ちょっといつもと違う感じのアクションスコアが聴いてみたいなー」という方にオススメのサントラ盤です。
『ゼログラ』『フューリー』『スースク』でスティーブン・プライスの音楽にハマった方は、
映画を観る前にサントラ盤を買ってしまっても全然オッケーではないかと。
(実際、筆者は映画本編を観る前にサントラを買いました)
『アメリカン・アサシン』オリジナル・サウンドトラック
音楽:スティーヴン・プライス
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3285
発売日:2018/06/13
定価:2,400円+税