ワールド・オブ・ライズ

今回は20日から劇場公開になる映画『ワールド・オブ・ライズ』のお話。

デイヴィッド・イグネイシアスの小説『Body of Lies』をリドリー・スコット監督が映画化した作品で、テロ組織とCIA、ヨルダン情報局との熾烈な情報戦(騙し合いとも言いますが)を描いた物語です。

近年のアクション/スリラー映画で悪役に描かれる事の多いCIAですが、本作もまた然り。テロ組織壊滅のためなら部下の使い捨ても辞さない(もちろん、一般市民に犠牲者が出てもお構いなし)という冷酷非情かつ身勝手な一面を見せております。

その無慈悲な作戦を立案するCIA局員ホフマンをメタボ体型のラッセル・クロウが演じているのですが、このキャラが実に憎たらしい(笑)。自分自身はアメリカ国内の安全な場所から動かず、家事とか子供の送り迎えをしながら、衛星電話を使って中東の”戦場”にいる部下のフェリス(レオナルド・ディカプリオ)に命令を送ったりするわけです。この部下のコキ使い方とか、ヨルダン情報局に対する慇懃無礼な態度を見ていると、ホフマンというキャラクターはCIAのみならず、現代アメリカの「イヤな部分」を象徴する存在なのではないか、と思ってしまいます(他国の文化に全く敬意を払わないあたりが特に)。こりゃアメリカも嫌われるわ、と思わず納得。

メジャースタジオ製作の娯楽映画で、こういうアメリカの暗部を赤裸々に描けるリドリー・スコット監督はやっぱりすごい人だなぁと思った次第。御年71歳になっても全然日和ったりしていません。

レオ様とアンマン在住の看護婦アイシャのロマンスのシーンがイマイチ説得力に欠けるのを除けば、スパイ映画としてなかなか見応えのある作品に仕上がっているのではないかと思います。
ロマンスシーンが魅力に欠けるのは、リドリーというよりウィリアム・モナハンの脚本がマズいのでしょう。『ディパーテッド』の女医さんとのシーンもとってつけたようなノリだったし。

さて本作の音楽は、ここ最近リドリー・スコットの専属作曲家となっているマーク・ストレイテンフェルドが担当しています。この方、ハンス・ジマーのアシスタントとして長く下積みをしていた作曲家なのですが、今回のスコアでは所謂”ジマー節”が全く登場せず、重低音を効かせたシブイ音楽を披露しています。

ストレイテンフェルドの前作『アメリカン・ギャングスター』(07)も相当シブイ音楽でしたが、あの映画の「フランク・ルーカスのテーマ」が中近東テイストになったスコアとイメージして頂けると分かりやすいかと。キャッチーさには欠けますが、中東由来の楽器とリズム隊の重厚なグルーヴが心地よい酩酊感を生み出しており、何度もリピートしてCDを聴いていると、このドンヨリしたサウンドがクセになって参ります。エスノ・サウンドに興味がある方にオススメ。

ちなみにストレイテンフェルドは作曲のインスピレーションを得るために、映画のロケ地であるモロッコへ行ったそうなのですが、「中東が舞台の映画なのに、モロッコに行ってリサーチになるの?」と思った方もいらっしゃるかと思います。実際、僕もライナーノーツを書いていてそう思いました(笑)。まあ単身アンマンへ行くのは危険だったでしょうし、モロッコはアフリカとはいえアラブ
文化が入ってきている国でもあるので、リサーチには事欠かなかったのでしょう。多分。

ちなみに本作のエンドクレジットではGuns N’ Rosesの新曲”If The World”と、ストレイテンフェルド、マイク・パットン、サージ・タンキアンの3人による書き下ろし曲”Bird’s Eye”がフィーチャーされています。この2曲はサントラ盤未収録ですが、”If The World”はガンズの新譜”Chinese Democracy”で、”Bird’s Eye”はiTunes Music Storeで聴く事が出来ますぞ。

国内版サウンドトラックCDはランブリング・レコーズより発売中。

『ワールド・オブ・ライズ』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マーク・ストレイテンフェルド
品番:GNCE7038
定価:2,625円

   

サバイバーシリーズ

本題に入る前に(むしろコチラの方が重要かもしれませんが)、サーバーメンテナンスのお知らせです。
平成20年12月10日(水) AM 2:00 〜 AM 7:00、つまり今日の深夜から明け方までの間という事に
なりますが、Marigold Music Mail Orderで使用しているASPサービスColor Me Shop! Proで
サーバーメンテナンスがあるそうです。この時間帯は一部機能が不安定になるかもしれませんので、
ご利用の際はお気をつけ下さい。

さて表題の件ですが、ワタクシWWEのPPVでサバイバーシリーズは結構楽しみにしているのですが、
この特番の名物である団体戦の顔ぶれがいつの間にか決まっていて、「あれ?」と思ってしまいました。
いや、普段だったら10人タッグ戦のメンツが決まるまで1ヶ月くらいかけてドラマが展開するのですが、
今年はさしたるドラマもなくメンバーが発表になっていたので…。

サバイバーシリーズのドラマといえば、数年前は結構面白かったんですけどね。個人的にはストーン
コールドのGM更迭を賭けてチーム・ビショフとチーム・ストーンコールドが激突した年がベストかな、と。
(ジェリコ&クリスチャンの極悪非道っぷりと、HBKの孤軍奮闘・自己陶酔演技が見ものです)

スマックダウンとRAWの番組間抗争が激化して、そのままSD対RAWのチームで戦った事もあったかな?
あとはカート・アングルとブロック・レスナーの抗争が発展して、二人の組んだチームが激突した年も
あったと思います。確かエミネムもどきのヒールキャラを演じていたジョン・シナがベビーターンしたのも、
その年のサバイバーシリーズがキッカケだったのではないかと思います。
あの頃のシナはあんまり客に媚びないキャラで、あっさりしていて良かったなぁ(今はちょっと…ねぇ)。

何にしても、以前の方が抗争に至る経緯が凝っていて面白かったな、と思うわけです。

最近のWWE(特にRAW)はストーリーの要素が弱くて、7年ほど番組を見てきたワタクシとしてはちょっと
物足りない印象です。脚本家の皆さんは以前のようにパンチの効いたストーリー作りをして頂きたいなぁと
思った次第です。

まぁ、何だかんだ言ってもPPVは見るわけですが。

  

WALL・E / ウォーリー

ピクサー最新作『WALL・E / ウォーリー』が遂に劇場公開になりました。

ワタクシがサントラ盤ライナーノーツの仕事でマスコミ試写に行ったのが9月18日。
あまりにもいい映画だったので、もう一回観たいな〜と思ったら、仙台では字幕版の
劇場公開がMOVIX仙台のみで、しかも上映は1日2回だけ(12/7現在)。ううむ、
日本語吹替えの上映がデフォルトなのか。字幕で観たいんだけどな…。

ま、それはさておき。映画について既にあちこちのブログやwebサイトで語られて
いるとは思いますが、ゴミ処理ロボット・ウォーリーがとにかく健気で泣けるんです。
友達のゴキブリくん一匹以外誰もいなくなった地球で黙々とゴミを圧縮・整理する
作業に勤しみ、ゴミの中から自分だけの宝物を探す姿は、ウォーリーの愛らしい
仕草のおかげで、寂しそうだけど実は結構楽しんでいるんじゃないかと思えてしまう
のです。何ともいじらしい。

仕事を終えて帰宅したら、キャタピラを脱いで家に上がる仕草なんざ、お行儀の良さに
思わず褒めてあげたくなります。

で、その旧型ロボットのウォーリーは地球に降りてきた探査用新型ロボットのイヴに
一目惚れするわけですが、プレス資料によるとイヴは「真っ白に輝くピカピカのボディ
を持った”天使”」というような事が書かれてあります。しかし彼女はヒロインと言うより、
どっちかというと「姐さん」的なキャラで、おもむろにキャノン砲をブッ放したり、ウォー
リーの部屋でドッカンドッカンと重たそうな音を立ててダンスを踊ったり、ウォーリーの
宝物を壊してしらばっくれてみたり、結構ガサツな一面があるんですな。

言うなれば「ちょっと気の強そうな年上のお姉さんと、彼女に一目惚れして、気を惹く
ためにあの手この手でアプローチを試みる純朴な少年のラブストーリー」といった感じで、
ウォーリーの一生懸命な姿と「無償の愛」に胸を打たれるんですよ、これが。柄にもなく
「純愛っていいなぁ」と思ったり。

ちなみに29世紀のアメリカはBNLという巨大企業が国を動かしているという設定なの
ですが、実際にありそうな話ではないかと思います。つい最近も、アメリカの自動車
業界ビッグ3が公聴会で政府に向かって「俺たちに公的資金を導入しないと国の
経済がとんでもない事になるぜ」と脅しをかけている姿がTVで放送されていましたが、
アレを観ていると「巨大企業のほうが政府より力があるんだろうな」と思わずにはいら
れません。結局、公的資金を導入する方向に進んでるみたいですし…。

話が逸れましたが、『WALL・E』の音楽はアンドリュー・スタントン監督と『ファインディ
ング・ニモ』(03)で仕事をしたトーマス・ニューマンが担当しています。基本的に全編
オーケストラを使ったスコアなのですが、普通SF映画で使わないような民族楽器
(ジュンジュンとかエオリアン・ハープとかヴァリハとか…)を大量に導入しているあたりが
実にニューマンらしいのではないかと思います。聴いていて気持ちいい曲、トボけて
いて微笑ましい曲、シンフォニックな曲などバリエーションも豊富で、もちろんウォーリー
お気に入り『ハロー!ドーリー』(69)の挿入歌も収録されています。

日本盤はテーマ曲「Down to Earth」の歌詞対訳がついているので、詞の内容が
気になった方はぜひぜひエイベックスより発売中の日本盤サウンドトラックを
お買い求め下さい。

『ウォーリー』オリジナル・サウンドトラック

音楽:トーマス・ニューマン
品番:AVCW12706
定価:2,600円

   

floating 6 pupas

先週の日曜日、PUPAの東京公演(@渋谷C.C.Lemonホール)に行ってきました。

リキッドルームのお披露目ライブもすごく良かったのですが、やっぱりアルバムを
じっくり聞き込んでから観るライブは格別だなぁ〜と思った次第です。

生楽器と電子音が奏でるハーモニーが実に心地よいライブでした。まさに夢心地。
しかも今回はPUPAの曲だけではなく、高野寛さんの新曲”LOV”や原田知世さんの
“Are You There”(バカラックのカヴァー)、”ロマンス”、(高橋)幸宏さんの”ETERNITY”に
懐かしの名曲”It’s Gonna Work Out”(!)まで披露してくれるなどサービス満点。
そういえばNHKホールの”Wild & Moody”ツアーの時もこの曲で盛り上がったなぁ〜
などと20数年前の興奮がふっと蘇って参りました。

幸宏さんの生ドラムも”Unfixed Stars”、”Sunny Day Blue”、”Glass”、”Are You There”、
“ロマンス”でたっぷり堪能出来ました。

特別ゲストの細野さんは”Glass”、”Are You There”、”Creaks”とアンコールで登場。
ウソかホントか分かりませんが、リハなしのぶっつけ本番でベースを弾く事になったそうで、
演奏前に「これどういう曲だったっけ?」みたいな感じで譜面をしげしげと眺めるゆる〜い姿が
妙に印象に残ってます(幸宏さんに「おジイちゃんじゃないんだから」とか言われていたような)。

もちろん演奏はバッチリ決まってました。あの太いベース音がうねって幸宏さんのドラムと
渾然一体になる気持ちよさは、ファンの方にはもう説明不要でしょう。

当日は映像収録していたので、たぶんDVD化されるんじゃないかと。
ついでにライブ盤も出てほしいなぁ。

ちなみにワタクシはプレミアムシートのチケットを購入したのですが、特製ブックレットは
先頃のリキッドルームや夏フェスの写真集と、リキッドルームのライブ映像4曲+”Anywhere”の
PVを収めたDVDといった感じの内容です(仕事が忙しくてまだDVD本編を見ていないのですが)。
グッズを買い漁ったうえに、10日にはYMO(HASYMO)のロンドン/スペイン公演のCDが出るので、
今月は散財決定です。

終演後、恐らくこれからPUPAメンバーの楽屋に向かうと思われる鮎川誠さん&シーナさんを発見。
相変わらず「ロッカーです!」というオーラを放っていてカッコよかったです。

   

スピード・レーサー

映画『スピード・レーサー』のDVDがリリースになりました。

ワタクシがこの映画のサントラ盤ライナーノーツの仕事を担当したのは、
5月中旬頃でした。サロンパスルーブル丸の内の完成披露試写で本編を
見たのですが、極彩色のギラギラしたヴィジュアルに目がヤラレました。
DVDを見る時は、お部屋を明るくして鑑賞することをお勧めします。

資料によると、ウォシャウスキー兄弟は「ファミリー映画を作りたかった」と
言っているようなのですが、ううむ、どうなんだろう。この作品は懐かしの
アニメ『マッハGoGoGo』をハリウッドで実写化したもの。となればターゲットは
「子供の頃にアニメを見ていた大人」なのではないかと思うのですが、
それならシナリオをもっと大人向けにした方がよかったのでは?とワタクシは
思いました。

しかし、来年公開予定の『ドラゴンボール』実写版の出来がかなりヤバそうな
感じなので、それに比べたらこの映画は『マッハGoGoGo』への愛やリスペクトに
溢れていて、真摯な映画になっているんじゃないかと思います。

…とまぁ、内容的には難点もあるのですが、音楽は文句のつけようがありません。
『Mr.インクレディブル』(04)や『M:I:3』(06)のマイケル・ジアッキノが作曲を担当して
いるのですが、全編ド派手なオーケストラ・サウンドをカマしてくれておりまして、
これが実に気持ちよくて最高なのです。

ジアッキノ自身、子供の頃に原作アニメに熱中していたクチらしく、越部信義氏の
作曲したテーマ曲のメロディーをスコアの中に引用しているので、聴いていて
何とも懐かしい気分にさせてくれます(エレキギターの音も何となくレトロっぽいし)。
テクノ/ハードロック系のスカしたサントラにしなかったあたりに、原作のイメージを
大切にした製作スタッフの「愛」を感じます。

CDのハイライトは、何と言ってもエンドクレジットで流れる[20]の”Speed Racer”
でしょう。オリジナル主題歌のインスト・カヴァー曲なのですが、日本の歌謡曲の
雰囲気を忠実に再現したアレンジと、サンプリングされた「マッハGo!」の掛け声に
感涙必至。リップサービスで「日本のアニメは最高だぜ!」とおっしゃって下さる
ハリウッドの方がよくいますが、ジアッキノの『スピード・レーサー』愛はホンモノです。
多分。

国内盤CDはランブリング・レコーズより発売中。

『スピード・レーサー』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マイケル・ジアッキノ
品番:GNCE7024
定価:2,625円