アドレナリン:ハイ・ボルテージ

crank high voltage

先週仕事で東京に行ってきた際、遅ればせながら『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』(09)を鑑賞。仙台の上映館は家から遠くて不便だったので、だったら新宿バルト9で見てくるからいいや、という事になったわけです。

前作『アドレナリン』(06)は、「アドレナリンを出し続けないと即、死亡!」という奇抜なアイデア、トニー・スコットも真っ青のガチャガチャした映像、そして大真面目にバカアクションを演じるジェイソン・ステイサムの迫真の演技が奇跡の融合を果たした傑作B級アクション映画。レーティングが前作のR-15からR-18にアップした本作は、きっと前作以上のものを見せてくれるはず・・・と、期待して観に行ったのですが、ま、結論としては「奇跡ってものは、2度は起きないもんなんだな」という感じでした。

いや、確かにスゴイ事はやっているんですが、個人的な感想を述べさせて頂くと、それでも前作のインパクトは超えられなかったなぁ、と思った次第でして。

今回のシェブ・チェリオス(ステイサム)は、いろいろあってバッテリー式の人工心臓を埋め込まれたため、「充電しないと即、死亡!」という状況に陥ってしまうわけですが、充電したければとりあえず何らかの形で電気を喰らえばいいので(わざとスタンガンを喰らうとか、車のバッテリーを身体に繋げるとか)、前作のような「どうすればアドレナリンを一定以上放出できるのか?」「おお、その手があったか!」・・・というアイデアの閃きが感じられないのがちと残念なところ。

あと、シェブのガールフレンド、イヴ(エイミー・スマート)のキャラが変わったのも残念。前作の天然系おとぼけ癒しキャラのままでいてほしかったのに・・・。

レーティングが上がった事で覚悟はしていたのですが、今回はエログロ描写がかなり過激になってます。ヘタなホラー映画以上にスゴイです。しかし無意味に下品な描写が増えたのは個人的にマイナスでした。

ま、前作も決して上品な映画じゃありませんでしたが、チャイナタウンのアレとかカーチェイス中のアレとか、前作の場合、下品な描写には「全てはアドレナリンを放出するため」という理由が一応あったわけです。でも今回の『ハイ・ボルテージ』は、エッチな描写に大して意味がないのがツライ。「下ネタはごくたまに織り交ぜる事でギャグにメリハリがつく。ただ下品なネタは言語道断」と『魁!! クロマティ高校』の山口ノボルも言ってましたが、ま、そういう事です。(出典:『魁!! クロマティ高校 入学案内』より)

と、まぁ期待ほどではなかった続編ではありますが、音楽にはキラリと光るものがありました。パンフレットでは全然触れられてませんでしたが、本作のオリジナル・スコアは、何とあのマイク・パットン(元Faith No More、Mr. Bungle、Fantomas等々)が作曲しているのです。

前作は既製曲のイカれた選曲と、ポール・ハスリンガーのハードロック・スコアで構成されてましたが、パットンのスコアも相当ヤバイ。全編に渡ってギターを派手にかき鳴らし、ドコドコとドラムを打ち鳴らす。サンプリング/プログラミングも多用し、真っ当な映画音楽家では躊躇しそうなマッドな領域にも軽々と足を踏み入れてます。

一見、場当たり的にヤケクソな音楽を作っているように見えて、きちんと映画のメインテーマ的なメロディー(「たららーーん♪ たららーーん♪」というアレ。詳しくはサントラ2曲目の”Chelios”を聴いて下さい)があって、それを転調したり、アレンジを変えて変奏する効率的な作曲法でスコアを書いているのがまたニクい。さすが「奇才」マイク・パットン。

「電気」とか「充電」という本作の重要な要素をキッチリ表現した、ノイジーでアッパーでハイテンションなサウンドは一聴の価値あり。フツーの音楽に食傷気味のチャレンジ精神旺盛な音楽ファンは、Lakeshore Recordsより発売中の輸入盤をお試しあれ。

前作『アドレナリン』については、後日改めてという事で。

  

ワイルド・スピードMAX(オリジナル・スコアについて)

fast and furious

・・・というわけで、本日は『ワイルド・スピードMAX』の音楽についてのお話です。
音楽といっても、ここでご紹介するのはオリジナル・スコア。歌モノではありません。

スコアの作曲を担当したのは、近年「アクション映画の音楽ならオレに任せろ!」ってな
フィルモグラフィをモノにしてしまっている作曲家、ブライアン・タイラーです。

前作『TOKYO DRIFT』(06)に続いての登板という事で、彼はこのシリーズで初めて連続
登板を果たした作曲家という事になりました(1作目はBT、2作目はデヴィッド・アーノルド、
3作目はタイラー・・・と、監督が代わる度に作曲家も毎回変わっていたのです)。

『TOKYO DRIFT』のスコア盤リリースの時、ライナーノーツ用にタイラーさんにインタビュー
したのですが、あの時は映画音楽家というよりロックバンドのあんちゃん的なノリでいろいろ
語ってくれました。とはいえ、まぁ年に4、5本の映画音楽を担当する多忙な人だし、さすがに
今回は忙しいだろうなーと思いつつ取材のアポを取ってみたら、意外とあっさりOKが出ました。
素晴らしい。

・・・というわけで、今回も国内版スコア・アルバムのライナーノーツ用に「(音楽を担当する
映画の)作品選びのポイント」、「ジャスティン・リン監督との出会い」、「タイラーが語る
『ワイルド・スピードMAX』の音楽」・・・という感じでいろいろ語ってもらいました。

例によって、詳しくはランブリング・レコーズからリリースになった国内盤をお買い求め頂いて、
拙稿に目を通して頂ければと思います。こういう俗っぽい映画でも、結構いろいろ考えたり
分析したりして作曲してるんだなーという事がよく分かるお話でした。

しかも、インタビューから数週間後に「〆切りには間に合ったかな?」なーんて気を遣って
くれるナイスガイっぷりも見せてくれました。こういう気遣いがとっても嬉しい今日この頃。

さて今回のスコア。サウンド的には『TOKYO DRIFT』と同様、タイラーさんが演奏する
ラウドなギター、ドラム、ベース、シンセサイザーにオーケストラを組み合わせたハード
ロック調のスコアです。いわゆるアクション映画における「タイラー節」ってやつでしょうか。
『TOKYO DRIFT』ではかなり鳴らしまくってましたが、今回もかなりイッちゃってます。

一部で「『TOKYO DRIFT』との違いが分からん」という意見もありますが、よーく聴くと
音楽のトーンが微妙に異なります。何と言っても、今回はスコアでも「笑い」の要素がない。
前作のサントラだと、例えば”Hot Fuji”とか”Sumo”あたりのスコアは若干コミカルな要素が
ありましたが、今回は全体的にシリアス仕様になってます。

さらに今回はカーアクション・シーンで既製のヒップホップとかハードロックではなく、タイラー
さんのスコアで盛り上げてくれるのがスコア・ファンとしては嬉しいところ。映画冒頭の
タンクローリー襲撃シーンの”Landtrain”、道路封鎖なしのストリート・レース時の”Dom vs
Brian”、メキシコ国境の隠しトンネル内を疾走するシーンの”Tunnel”など、タイラーさんの
激アツ・スコアが炸裂。多分、本作がシリーズで一番スコア比率の高い作品なんじゃないかと
思います(歌モノはパーティーのシーンとかで使ってます)。

個人的には、アルバムの中でもイカレ系な感じの”Outta Sight”や”Fast and Furious”が
ラウドかつノイジーでお気に入り。メロディーを堪能したい方はメインテーマをフィーチャーした
“Suite”をどうぞ。78分近くスコアをCDに収録しているので、そういう意味でもお得な感じです。

『ワイルド・スピードMAX』オリジナル・サウンドトラック・スコア
音楽:ブライアン・タイラー
品番:GNCE7061
定価:2,625円

  

ワイルド・スピードMAX

fast and furious poster

『ワイルド・スピード』シリーズといえば、ニトロ搭載のチューンドカーを乗り回して「イェーーィ!」
とか言いながら公道レースに明け暮れる走り屋の方々を描いた痛快カーアクション映画・・・
なわけですが、シリーズ4作目ともなるとさすがに内容の方も変わってきたなぁ、という印象を
受けました。

何というか、今回は「マジ」なのです。

映画冒頭のドミニク(ヴィン・ディーゼル)とその仲間たちによる大型タンクローリー襲撃とか、
麻薬組織のボス主宰の「運び屋選抜・道路封鎖なしのストリートレース」とか、「メキシコ
国境隠しトンネル・運び屋ミッション」など、どれも命がけの真剣勝負なのです。

これまでのシリーズでは「公道レース=走り屋の趣味/娯楽」といった要素が少なからず
ありましたが、今回は笑いの要素がかなり少なめ(「凄すぎて笑える」という事があるかも
しれませんが)。ドラマ的にも男気溢れる復讐劇&刑事ドラマとしての側面がクローズアップ
されているので、このあたりはシリーズのファンの評価が分かれるところかもしれません。

ワタクシは1作目の時も「おお、『ハートブルー』(91)のような展開だなぁ」と思いながら本編を
観ていたので、刑事ドラマっぽい内容になったのは個人的にアリでした。こういう『ワイルド・
スピード』もいいじゃない? みたいな感じで。

『MAX』の目玉は、やはり1作目のオリジナル・キャスト(ディーゼル、ポール・ウォーカー、
ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースター)の再結集という事になるでしょう。1作目の
『ワイルド・スピード』の公開が2001年だから、だいたい8年経っているわけなんですが、
皆さんほとんどあの頃のまんま。お若いです。

ドミニクとブライアン(ウォーカー)の友情は既に1作目で描かれているので、今回のそういった
描写は割とあっさりしてます。シリーズのファンなら2人の関係は既に知っているから、いちいち
繰り返して説明せんでもいいだろう、って事なのでしょう。ドラマパートに時間を割きすぎると
映画全体のテンポが悪くなるので、ま、これで正解かもしれないなーと思いましたが。

さて映画の冒頭で、前作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(06)で死んだはずのハン
(サン・カン)が登場して「アレ?」と思った方もいらっしゃるかと思いますが、実は本作、
映画の中の時間軸では1作目から5年後のストーリー、つまり『TOKYO DRIFT』の少し前
という設定になってます。

そうする事に何の意味があるの? と言われると返答に困るのですが、ま、多分ジャスティン・
リン監督がまたサン・カンを使いたかったんだろうな、と。何しろ彼は全てのリン監督作品に
出演しているお気に入りの俳優(というかダチ)ですから。

確か『TOKYO DRIFT』のDVDの音声解説で言っていたと思うのですが、このハンという
キャラはリン監督の『Better Luck Tomorrow』(02)に登場したキャラの「その後」を
イメージして作ったのだそうです。思い入れのあるキャラなんだろうな。

冒頭のタンクローリー襲撃の後、ドミニクに「東京でレースするんだ(ニヤニヤ)」とシアワセ
そうな顔をしていましたが、あー、その後東京でDKとモメて死んでしまうんだな、と思うと
何だか少し切なくなってしまうのでした。

音楽についてはまた今度。

(つづく)

  

豪華ミュージシャンが粋なフュージョン・サウンドを聴かせてくれる『デュプリシティ』のサントラ盤

duplicity

ワタクシはジュリア・ロバーツが苦手なので、
劇場公開時はスルーしていたのですが、
ま、DVDレンタルなら見てもいいかな、という事で『デュプリシティ』(09)を鑑賞。

ジュリア嫌いの自分がなぜ本作を見るに至ったかというと、
先日サントラ盤を購入したところ、
ジェームズ・ニュートン・ハワード(以下JNH)のスコアが実によかったので、
本編の方もどんな感じか見てみたくなったわけでございます。

 

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ハートブルー(パトリック・スウェイジに捧ぐ)

2009年9月14日、俳優のパトリック・スウェイジが亡くなりました。享年57歳。死因は
すい臓ガンとの事でした。病気とは無縁そうなマッチョな風体のお方(バレエ・ダンサー
出身)だっただけに、その早すぎる死が本当に惜しまれます。

一般的には『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)や『ダーティ・ダンシング』(87)で広く
知られているスウェイジでありますが、『3人のエンジェル』(95)のドラァグ・クイーン役や
『ドニー・ダーコ』(01)の胡散臭い自己啓発セミナーの教祖役、B級アクション『ブラック・
ドッグ』(98)のトラック野郎役など、型にはまらない個性的なキャラを約30年に渡って演じ
続けてきた個性派アクターでした。

その中で彼の代表作を一つ挙げるとするならば、筆者の場合は断然キャサリン・ビグロー
監督作『ハートブルー』(91)をチョイスしたいと思います。

初めてこの映画を観たのは高校生の頃で、確かTVの深夜枠で放送していた時だったと思うの
ですが、スウェイジ扮するサーファーのボディ(注:役名です)が実にカッコよかった。
ボディは東洋思想に通じる独自の人生観のような物を持っていて、サーファー仲間だけでなく、
彼らを追うFBI捜査官のジョニー・ユタ(キアヌ・リーヴス)すらも魅了してしまうカリスマ的な男
という設定でした。これがスウェイジの持つワイルドな雰囲気と絶妙にマッチしていたのです。

もちろん、ユタとボディはFBIと銀行強盗という立場なので、いずれは敵対する関係になるわけ
ですが、それでも心の中では互いをリスペクトしているのではないか、と思わせる「男の友情」
の描写が実に熱い。ラストの締め方もお互いの敬意というか友情が垣間見えて、不覚にも当時
ジーンと来てしまいました。

この作品を未見の方は、今からでも是非ご覧下さい。映画を見終わった頃には、『ゴースト』
ではなく、あえてこの作品をスウェイジの代表作にチョイスした筆者の気持ちもきっと理解して
頂ける・・・ハズ。

余談ですが、ユタと相棒のベテラン捜査官パパス(ゲイリー・ビジー)との親子のような関係も
グッド。特にパパスが張り込み中に新聞のマンガ欄を読んでだらしなくバカ笑いするシーンが
最高。ビグロー監督はこういう男同士の何気ないやり取りの描写がうまいんですよねー。新作
『The Hurt Locker』(09)も楽しみです。

オリジナル・スコアの作曲を手掛けたのは、先日『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』(08)で
ご紹介したマーク・アイシャム。映画公開当時リリースになったサントラ盤にはスコアが
1曲も収録されなかったのですが、2008年にLa-La Landから2000枚限定でスコア盤が
リリースになりました。実に17年越しのリリース。映画の根強い人気が分かるというものです。

改めて聴いてみて思うのですが、やっぱ名曲だわコレ。映画の公開から18年経っているのに
まったく色褪せていません。確かにシンセの音は「80-90年代前半の音」というチープな感じは
否めないのですが、楽曲全体のクオリティは今でも十分通用する完成度。
特にアイシャムさん自身が「今でも自分のデモ・リールに入れている」というスカイダイビングの
シーンの曲”Skydive”が出色。空を舞う清々しさと浮遊感が巧みに表現された名曲です。

あとは『ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!』(07)でもネタにされていた「ユタがボディを
撃てず、空に向かって銃を乱射」するチェイス・シーンの曲”Car / Foot Chase”も有名ですね。

・・・というわけで、”Skydive”と”Night Surfing”、そして映画のラストを締めくくる”Freedom”を
スウェイジ氏への追悼歌とさせて頂きたいと思います。

レスト・イン・ピース。