Man on Wire / フィリップ・プティの人生観

・・・というわけで、前回の続きです。今回は映画本編について。

先日のブログでも少し触れさせて頂きましたが、この映画はフィリップ・プティという
フランスの大道芸人/綱渡り師のドキュメンタリー作品です。

このプティさんという方は1974年に今は無きワールド・トレード・センターのツインタワーに
ワイヤーを張り、地上からの高さ約400mの場所で長時間の綱渡り(45分間で8往復)を
敢行したというとんでもない人です。あれは「芸」というより命を懸けた「アート」です。
劇中でもWTCで綱渡りを敢行した時の写真が登場するのですが、この世のものとは思えない
美しさと、死と隣り合わせの緊張感に圧倒されてしまいます。この映像だけでも必見かと。

映画本編を見てみると、プティとその仲間たちは「WTCで綱渡りプロジェクト」を実行するため、
それはもういろんな事をやったもんだと当時を振り返っています(彼らが見せる友情もこの映画の
見所のひとつ。今は疎遠になってるっぽいけど)。

身分を偽ってWTCの情報を集めたり、内通者/協力者と連絡を取ったり、立ち入り禁止の場所に
忍び込んだり・・・と、彼らのやった事はほとんどスパイです。あるいはオーシャンズ11ならぬ
プティ’s 9とでも申しましょうか。プロの強盗集団と変わらないんじゃないかという感じです。

「そこまでして、何でこんな事をやったんですか?」と誰しも思うでしょうが、プティは
「その質問、聞き飽きた。理由なんてないんだ」と毎回答えているそうなので、本当の理由は
この先ずっと分からないままだと思います。

多分、理由なんかどうでもいいんだろうなと思います。人間、他人から見れば意味のない事とか
無謀な事にアツくなる瞬間というのが誰でもありますが、そういうものに熱中した時の自分を
振り返ってみると、そもそもの動機とか目的なんていうのは大した事じゃなかったりするわけで。

この映画で最も胸を打つメッセージは、どんな突飛な事(あるいは無謀な事)でも本気で
取り組めば、それは素晴らしいものになり得るのだという事でしょう。

たとえ誰かにとって意味のない事でも、別の誰かにとってはすごく意味のあるものだったりも
するわけで、言い換えればこの世に「意味のないもの」などないんですよ、と。だからどんな
事であれ、物事に挑戦する気持ちを忘れてはいけない、とプティさんは教えてくれているのでは
ないかなぁ、と思うのです。

こういう言葉は文化人気取りのタレントとかコメンテーターとかに言われても、イマイチ説得力に
欠けますが、プティさんに「人生は何でも挑戦する事に価値がある」と言われたら、そりゃもう
「はい、全くその通りです!」と納得してしまうしかないでしょう。やっぱり事を成し遂げた人の
言葉は含蓄と説得力があります。

映画は6/13から新宿テアトルタイムズスクエアにて公開。全国順次ロードショーで、仙台でも
8月頃に上映予定との事(詳しくは公式サイトをご覧下さい)。

それにしてもこの映画、マイケル・ナイマンの音楽と映像が絶妙にマッチしてますな。
『ピアノ・レッスン』(93)や『英国式庭園殺人事件』(82)など、極めて個性の強い映画のために
書き下ろした音楽が、綱渡り師のドキュメンタリー映像とここまで見事な融合を果たすとは、
正直驚きでした。これも選曲の妙というやつでしょうか。

  

Man on Wire / マイケル・ナイマンの音楽

manonwire

先日、綱渡り師フィリップ・プティの実像に迫る『マン・オン・ワイヤー』というドキュメンタリー映画のサントラ盤のお仕事をやらせて頂きました。

ユニバーサルミュージックからこの作品のサントラ盤がリリースになりましたが、
音楽をあのマイケル・ナイマンが担当しております。

担当、というのはちょっと適切な表現じゃないかもしれません。
と申しますのも、この映画の音楽はナイマン本人の了承を得た上で、
彼の過去音源を”再利用”する形で構成されているからなんです。

 

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ハリソン・フォードの家族ヒーローっぷりに拍手!『ファイヤーウォール』

今度の「日曜洋画劇場」で『ファイヤーウォール』(06)を放送するという事で、
本日はそのお話。

ランブリング・レコーズのMさんからライナーノーツの執筆依頼を頂いたのは、
2006年1月下旬の事でした。
原稿の〆切りが2/17で、
映画の内覧試写が2/10という結構ギリギリなスケジュールだったのですが、
いざ本編を観たら〆切りの事など忘れて、
二人で「いやーなかなか面白かったですねぇ」と言いながら、
しばし映画談義で盛り上がってしまったのを覚えています。

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『ディパーテッド』スコア盤のごく私的な思い出話。

今から遡ること2年と数ヶ月前、フレイヴァー・オブ・サウンド様から『ディパーテッド』スコア盤のライナーノーツのお仕事を頂きました。
音楽はデヴィッド・クローネンバーグ作品でおなじみのハワード・ショア。

名作『インファナル・アフェア』(02)のハリウッド・リメイクという事で、オリジナル版を観て男泣きしてしまった自分には不満な点も結構あったりするのですが、それでもこの映画は自分にとって特別な作品なのです。多分、これから先もずっと。

何故かというと、このサントラの仕事でチャーリーさん(Charlie DeChant)とご縁が出来たようなものだからです。

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バビロン A.D.

今回はヴィン・ディーゼル兄貴久々の主演作『バビロン A.D.』のお話。

日本版ポスターなどのメインビジュアルは割と『フィフス・エレメント』(97)的な
近未来イメージになっておりますが、映画本編は何というかこう、もっと薄汚い
荒廃した感じの世界です。何しろ「戦争やテロで秩序が崩壊した未来」という
設定なので。世紀末的世界観を愛好する人には、結構グッと来るビジュアル
かもしれません。

物語はと申しますと、ディーゼル兄貴が演じる傭兵トーロップが、腐れ縁の
マフィア・ゴルスキー(ジェラール・ドパルデュー)からの「オーロラっちゅー
若い女をモンゴルの修道院からニューヨークまで運んでくれや」という
明らかにヤバそうな依頼を受けた事から、壮絶な戦いに身を投じる事に
なるというストーリーです(かなり大雑把ですが)。

兄貴の仁義溢れる行動や、肉弾戦やスノーモービルを駆使したアクションなど、
結構いい感じでストーリーが進みまして、「いいぞいいぞ」と思うんですが、
なぁぁんか終盤の展開が強引&尻切れな感じなんですよね。

明らかに途中のドラマをブッツリ切った感のある編集が気になって、どうにも
居心地が悪いのです。特にラストがなぁ・・・。「そこで終わるのか?」という感じ。

というのもこの映画、どうやらスタジオ側が勝手に短く編集したらしいんですな。
上映時間90分なので、元々はあと10分か20分くらい長かったんじゃないかと。

自分の作品を勝手にいじられたって事で、監督のマチュー・カソヴィッツは
それはもう大激怒したそうです。映画の最終編集権が監督の手に行かない
ような契約内容だったんでしょうか。気の毒としか言いようがありません。

そんなわけで、大幅に時間を短縮された映画本編では結局何が言いたかった
のか分からない部分もあるかと思います。その説明が足りない部分を補完
してくれるのが、アトリ・オルヴァルッソンの音楽なんですな。

アトリさんは『バンテージ・ポイント』(08)の音楽で名前が知られるように
なった人で、ジマー軍団の一人です。

『バンテージ・ポイント』の時は、デジタルビートをガンガン鳴らしたリズム
重視のスコアを作曲していましたが、『バビロン A.D.』では一転、オーケス
トラと合唱隊を導入して荘厳なミサ曲のようなスコアを書き下ろしています。
これを聞いただけで「この映画、単なるアクション映画じゃないな」と思って
頂けるハズ(ま、製作のゴタゴタのせいで本編はアレな出来でしたけど)。

映画のクライマックスで流れる「Babylon Requiem」という曲が大迫力で、
なかなか聴き応えがありますぞ。

今回、スコアの中で「Agnus Dei」と「Dies Irae」というラテン語のミサ曲の
歌詞を引用しているのですが、なぜこの2曲が選ばれたのかというのにも
ちゃんと理由があるんですねぇ。さてその理由とは?

・・・申し訳ありませんが、それはランブリング・レコーズさんから発売中の
日本版サントラCDをご購入頂いて、ライナーノーツを読んで頂ければと
思います。いやーワタクシもライナーを書いた手前、CDを買って頂けると
有難いので・・・。

他にもアトリさんにインタビューして、いろいろ小ネタをいろいろ書かせて
頂きましたので、買って損はさせません(笑)。ぜひぜひ国内盤をよろしく
お願い致します。

今日は映画館(泉コロナワールド)に行って、この映画のパンフレットを
買ってきました。インタビューでお世話になったアトリさんに日本版CDと
一緒に送る予定です。ライナーを英訳しないといけないから、先方に
発送するまで数日かかるな、こりゃ。

『バビロン A.D.』オリジナル・サウンドトラック
音楽:アトリ・オルヴァルッソン
品番:GNCE-7047
定価:2,625円