ワイルド・スピードMAX

fast and furious poster

『ワイルド・スピード』シリーズといえば、ニトロ搭載のチューンドカーを乗り回して「イェーーィ!」
とか言いながら公道レースに明け暮れる走り屋の方々を描いた痛快カーアクション映画・・・
なわけですが、シリーズ4作目ともなるとさすがに内容の方も変わってきたなぁ、という印象を
受けました。

何というか、今回は「マジ」なのです。

映画冒頭のドミニク(ヴィン・ディーゼル)とその仲間たちによる大型タンクローリー襲撃とか、
麻薬組織のボス主宰の「運び屋選抜・道路封鎖なしのストリートレース」とか、「メキシコ
国境隠しトンネル・運び屋ミッション」など、どれも命がけの真剣勝負なのです。

これまでのシリーズでは「公道レース=走り屋の趣味/娯楽」といった要素が少なからず
ありましたが、今回は笑いの要素がかなり少なめ(「凄すぎて笑える」という事があるかも
しれませんが)。ドラマ的にも男気溢れる復讐劇&刑事ドラマとしての側面がクローズアップ
されているので、このあたりはシリーズのファンの評価が分かれるところかもしれません。

ワタクシは1作目の時も「おお、『ハートブルー』(91)のような展開だなぁ」と思いながら本編を
観ていたので、刑事ドラマっぽい内容になったのは個人的にアリでした。こういう『ワイルド・
スピード』もいいじゃない? みたいな感じで。

『MAX』の目玉は、やはり1作目のオリジナル・キャスト(ディーゼル、ポール・ウォーカー、
ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースター)の再結集という事になるでしょう。1作目の
『ワイルド・スピード』の公開が2001年だから、だいたい8年経っているわけなんですが、
皆さんほとんどあの頃のまんま。お若いです。

ドミニクとブライアン(ウォーカー)の友情は既に1作目で描かれているので、今回のそういった
描写は割とあっさりしてます。シリーズのファンなら2人の関係は既に知っているから、いちいち
繰り返して説明せんでもいいだろう、って事なのでしょう。ドラマパートに時間を割きすぎると
映画全体のテンポが悪くなるので、ま、これで正解かもしれないなーと思いましたが。

さて映画の冒頭で、前作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(06)で死んだはずのハン
(サン・カン)が登場して「アレ?」と思った方もいらっしゃるかと思いますが、実は本作、
映画の中の時間軸では1作目から5年後のストーリー、つまり『TOKYO DRIFT』の少し前
という設定になってます。

そうする事に何の意味があるの? と言われると返答に困るのですが、ま、多分ジャスティン・
リン監督がまたサン・カンを使いたかったんだろうな、と。何しろ彼は全てのリン監督作品に
出演しているお気に入りの俳優(というかダチ)ですから。

確か『TOKYO DRIFT』のDVDの音声解説で言っていたと思うのですが、このハンという
キャラはリン監督の『Better Luck Tomorrow』(02)に登場したキャラの「その後」を
イメージして作ったのだそうです。思い入れのあるキャラなんだろうな。

冒頭のタンクローリー襲撃の後、ドミニクに「東京でレースするんだ(ニヤニヤ)」とシアワセ
そうな顔をしていましたが、あー、その後東京でDKとモメて死んでしまうんだな、と思うと
何だか少し切なくなってしまうのでした。

音楽についてはまた今度。

(つづく)

  

豪華ミュージシャンが粋なフュージョン・サウンドを聴かせてくれる『デュプリシティ』のサントラ盤

duplicity

ワタクシはジュリア・ロバーツが苦手なので、
劇場公開時はスルーしていたのですが、
ま、DVDレンタルなら見てもいいかな、という事で『デュプリシティ』(09)を鑑賞。

ジュリア嫌いの自分がなぜ本作を見るに至ったかというと、
先日サントラ盤を購入したところ、
ジェームズ・ニュートン・ハワード(以下JNH)のスコアが実によかったので、
本編の方もどんな感じか見てみたくなったわけでございます。

 

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ハートブルー(パトリック・スウェイジに捧ぐ)

2009年9月14日、俳優のパトリック・スウェイジが亡くなりました。享年57歳。死因は
すい臓ガンとの事でした。病気とは無縁そうなマッチョな風体のお方(バレエ・ダンサー
出身)だっただけに、その早すぎる死が本当に惜しまれます。

一般的には『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)や『ダーティ・ダンシング』(87)で広く
知られているスウェイジでありますが、『3人のエンジェル』(95)のドラァグ・クイーン役や
『ドニー・ダーコ』(01)の胡散臭い自己啓発セミナーの教祖役、B級アクション『ブラック・
ドッグ』(98)のトラック野郎役など、型にはまらない個性的なキャラを約30年に渡って演じ
続けてきた個性派アクターでした。

その中で彼の代表作を一つ挙げるとするならば、筆者の場合は断然キャサリン・ビグロー
監督作『ハートブルー』(91)をチョイスしたいと思います。

初めてこの映画を観たのは高校生の頃で、確かTVの深夜枠で放送していた時だったと思うの
ですが、スウェイジ扮するサーファーのボディ(注:役名です)が実にカッコよかった。
ボディは東洋思想に通じる独自の人生観のような物を持っていて、サーファー仲間だけでなく、
彼らを追うFBI捜査官のジョニー・ユタ(キアヌ・リーヴス)すらも魅了してしまうカリスマ的な男
という設定でした。これがスウェイジの持つワイルドな雰囲気と絶妙にマッチしていたのです。

もちろん、ユタとボディはFBIと銀行強盗という立場なので、いずれは敵対する関係になるわけ
ですが、それでも心の中では互いをリスペクトしているのではないか、と思わせる「男の友情」
の描写が実に熱い。ラストの締め方もお互いの敬意というか友情が垣間見えて、不覚にも当時
ジーンと来てしまいました。

この作品を未見の方は、今からでも是非ご覧下さい。映画を見終わった頃には、『ゴースト』
ではなく、あえてこの作品をスウェイジの代表作にチョイスした筆者の気持ちもきっと理解して
頂ける・・・ハズ。

余談ですが、ユタと相棒のベテラン捜査官パパス(ゲイリー・ビジー)との親子のような関係も
グッド。特にパパスが張り込み中に新聞のマンガ欄を読んでだらしなくバカ笑いするシーンが
最高。ビグロー監督はこういう男同士の何気ないやり取りの描写がうまいんですよねー。新作
『The Hurt Locker』(09)も楽しみです。

オリジナル・スコアの作曲を手掛けたのは、先日『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』(08)で
ご紹介したマーク・アイシャム。映画公開当時リリースになったサントラ盤にはスコアが
1曲も収録されなかったのですが、2008年にLa-La Landから2000枚限定でスコア盤が
リリースになりました。実に17年越しのリリース。映画の根強い人気が分かるというものです。

改めて聴いてみて思うのですが、やっぱ名曲だわコレ。映画の公開から18年経っているのに
まったく色褪せていません。確かにシンセの音は「80-90年代前半の音」というチープな感じは
否めないのですが、楽曲全体のクオリティは今でも十分通用する完成度。
特にアイシャムさん自身が「今でも自分のデモ・リールに入れている」というスカイダイビングの
シーンの曲”Skydive”が出色。空を舞う清々しさと浮遊感が巧みに表現された名曲です。

あとは『ホット・ファズ/俺たちスーパーポリスメン!』(07)でもネタにされていた「ユタがボディを
撃てず、空に向かって銃を乱射」するチェイス・シーンの曲”Car / Foot Chase”も有名ですね。

・・・というわけで、”Skydive”と”Night Surfing”、そして映画のラストを締めくくる”Freedom”を
スウェイジ氏への追悼歌とさせて頂きたいと思います。

レスト・イン・ピース。

  

改造車!パンクス!UKロック!『ドゥームズデイ』には男のロマンが詰まってる!の巻

『ディセント』(05)のニール・マーシャル監督待望の新作、遂に日本公開!・・・って事で、
『ドゥームズデイ』(08)を観てきました。

シルバーウィーク期間中はチケットを買う際に、
窓口で「世界の終わり」と言うと1,000円で観られる「お得すぎてすいま千円キャンペーン」を実施中との事で、
ちゃっかり利用させて頂きました。
まー別に窓口で「すいま千円」とダジャレを言うわけではなかったので別にいいかと。

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正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(音楽について)

前回のブログで映画本編については大体ご紹介してしまったのですが、補足・・・というか小ネタを一点だけ。実はこの映画、ショーン・ペンが小さな役で出演していたのですが、諸般の事情で出演シーンがまるまるカットされてしまったそうです。はてさて、一体どんなキャラクターを演じたのでしょうかねぇ。ちょっと気になります。

ま、それはさておき、本日は『正義のゆくえ』の物語を彩る音楽について。

本作のオリジナル・スコアはマーク・アイシャムが担当しています。『クラッシュ』(04)、『告発のとき』(07)、『帰らない日々』(07)など、このところ社会派ドラマの仕事が続いておりますが、映画のジャンルはもちろん、音楽的にもクラシック、ジャズ、ロック、アンビエントなどあらゆる様式に柔軟に対応出来る多才な人です。

個人的に、学生時代に聴いた『ハートブルー』(91)のシンセ・スコアや『蜘蛛女』(94)のエレクトリック・ジャズの音楽に感銘を受けて以来アイシャムさんのファンだったので、今回のライナーノーツは楽しんでお仕事させて頂きました。念願叶って、アイシャムさんにインタビューまで出来ましたし。

実は以前『告発のとき』のライナーノーツを担当する事になった時にも、アイシャムさんにはインタビューを試みたのですが、その時は先方のスケジュールの都合でうまくいきませんでした。しかし誠意ある交渉(単にしつこかっただけかもしれない)の結果、今回は二つ返事でOK。いろいろ話を聞かせてもらいました。いやー、いい人でよかった。大御所なのに全然気取ったところがないのです。

輸入盤ではなく、あえて国内盤を買って下さる映画/サントラ・ファンのために、ブックレット用インタビューでは「群像劇の曲作りの面白さ」、「『正義のゆくえ』の作曲コンセプト」、「映画の中で特に印象に残った場面」などについてアイシャムさんに熱く語ってもらいました。

詳しくはランブリング・レコーズさんから9/2にリリースになったサントラ盤をお買い求め頂いて、拙稿に目を通して頂ければと思います。

オリジナル・スコアもかなりクオリティ高いです。『クラッシュ』のようなアンビエント・ミュージック的な味わいを持たせつつ、生ギターやピアノ(アイシャムさんが弾いてます)でじっくり哀愁の調べを聴かせるタイプの音楽、と申しましょうか。電子音と生楽器のバランスが絶妙です。

決して主張の強いサウンドではないのですが、CDを聴いているうちに、物悲しいメロディーがリスナーの心にじわーっと浸透していくような、そういう音楽です。CD2曲目の”Drive to Mexico”とか、6曲目の”ICE Raid”あたりは切なくて泣けますよ。

ドラマに必要とされている感情の揺れ動きを的確に描き出し、だからといって過剰におセンチな雰囲気にはしない絶妙なバランス感覚の音楽。社会派群像ドラマの音楽はかくあるべし、という感じのサウンドトラックです。オススメ。

そういえば、アイシャムさんは12日にLAのThe Baked Potatoというライブハウス(?)でライブを演ったそうです。この方は腕利きのジャズ・トランペット奏者ですからねー。いつかこの目でナマ演奏を見て(聴いて)みたいもんです。

アイシャムさんのトランペットの腕前については、そのうち書かせて頂きます。

『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マーク・アイシャム
品番:GNCE7056
定価:2,625円