ミッキー・ローク in “The Wrestler”

「ミッキー・ローク完全復活!」という批評やレビューをあちこちで目にして以来、
見たくて見たくて仕方がなかった『レスラー』をやっと鑑賞。

参った。予想していた事とはいえ、男泣きしてしまいました。

俳優として「落ち目」とされていたロークが、全盛期を過ぎた中年プロレスラーを
演じるという事で、様々なメディアで「ローク自身の人生とシンクロした名演技!」
という賛辞が並んでいるわけですが、そもそもミッキー・ロークという人はこういう
破滅的な人生を送っている男を演じさせると抜群に巧い役者だったんではないかと。

『ランブルフィッシュ』(83)や『エンゼル・ハート』(87)はもちろん、『ホームボーイ』(88)、
『ジョニー・ハンサム』(89)などなど、ロークほどカタギの人生に適合できない
(あるいはする気がない)男の悲哀を表現出来る役者は、後にも先にもなかなか
いないのではないかと思います。B級映画でチンケな悪党を演じていても、何だか
死に際に独特な悲壮感を漂わせていましたし。

で、本作の主人公ランディ・”ザ・ラム”・ロビンソン。彼は全盛期の80年代に絶大な
人気を誇ったものの、20年経った今は身体にガタが来てしまった落ち目のプロレスラー。
衰えてしまったけれども、自身のキャリアに対するプライドは今も失っていない。

そのかわり私生活はボロボロ。なじみのストリッパー・キャシディ(マリサ・トメイ)には
ふとした心のすれ違いから個人的な交際を断られ、疎遠だった一人娘とは関係修復の
機会を自ら台無しにして、挙げ句の果てには絶縁宣言されてしまう。日銭を稼ぐための
スーパーマーケットのバイトも己のプライドがそれを許さず、結局ブチ切れて辞めてしまう。
思うにランディはカタギの生活を送るには不器用すぎる男だったのでしょう。ここがまた
切なくて泣けるんです。

「自分にとって、痛いのは(試合で傷つく事はなく)外の現実の方だった」と悟った
ランディは、ガタガタになった身体に鞭打って、宿敵アヤトッラー(アーネスト・ミラー)
との20周年記念マッチに挑みます。「リングの上こそ俺が一番自分らしくいられる
場所なんだ!」と言わんばかりに。

ランディはドサ周りの興行中に心臓発作を起こし、医者から「もう一度リングに上がったら、
命の保証はありませんよ」と言われていたわけですが、それでも会場に集まったファンの
ため、そして自分が自分らしくあるために、必殺技「ラム・ジャム」(トップロープからの
フライング・ボディプレス・・・でいいのかな?)を繰り出します。あのトップロープに上った
時の感極まった表情・・・。切なくて、でもすごく神々しくて、泣けました。不器用だけれども、
一本筋の通った男の生き様に号泣です。

プロレスとミッキー・ロークと80年代ハードロックが好きな方は必見です。
人生の辛さや孤独さを背中で語る、ランディ(=ローク)の後ろ姿にシビレて下さい。

・・・というわけで話は変わって本作の音楽ですが、ランディは「80年代に絶大な人気のあった
レスラー」という設定なので、劇中でも80年代ハードロックがガンガン流れます。ランディの
入場曲はQuiet Riotの”Bang Your Head (Metal Health)”だし、彼がボロ車の中で聴いている
曲はCinderellaの”Don’t Know What You Got (Till It’s Gone)”やRattの”I’m Insane”など、
珠玉のハードロック・ナンバーばかり。彼にとっては、80年代の栄光の記憶が唯一の心の拠り所
という事なのでしょう。ああ、切ない・・・!

「80年代のハードロックは最高だった。ガンズ、デフ・レパード、モトリー・クルー・・・。なのに
90年代にニルヴァーナが出てきて音楽がシリアスになっちまった。90年代はクソだ」みたいな
ランディとキャシディのセリフのやり取りがあって、バーでRattの”Round and Round”を2人で
歌い出すシーンがあるのですが、あの時の2人の表情がとてもよかったです。

で、ランディ最後の試合の入場曲はGuns N’ Rosesの名曲”Sweet Child O’ Mine”。
この「ランディにとって特別な試合」という雰囲気を感じさせてくれる選曲センスが最高です。
このシーンも、ある意味男泣き必至の粋な演出ですね。

サントラ盤はKOCH RECORDSから輸入盤が出ています(ブルース・スプリングスティーンの
主題歌は未収録)。また、先日調べたらitunesでクリント・マンセル作曲のスコアが1曲購入
可能になってました(メドレー形式で8分前後の曲)。ギターでスラッシュが参加しているので、
興味のある方はこちらもどうぞ。

  

Disney / PIXAR Greatest

去る4月上旬のこと。
エイベックスのM氏から「ディズニー/ピクサー グレイテスト」なるベスト盤をリリースするという話を伺いました。
で、このライナーノーツ製作の依頼を頂いた時、
「ディズニーのベスト盤かぁ。きっと歌モノのコンピ盤なんだろうな」と思ったのですが、
話を聞いてみると「40%がヴォーカル、60%がスコアになります」というお返事が。

おぉ、これはいいアルバムになるかも、と高まる期待。
さらに話を聞くと、今後収録曲が増えるかもしれないとの事。

もる:「歌モノが増えるんでしょうか?」

M氏:「いや、スコアが増えそうな感じですねぇ」

・・・というわけで、当初は全18曲を収録予定だったのですが、
数日後に送られてきた音源では、本当にスコアが増えて全25曲になってました。

さて肝心のCDの内容はと申しますと、
『トイ・ストーリー』(95)から近作『WALL・E』(08)まで、
ピクサー・アニメーション・スタジオが製作した珠玉のCGアニメの中から、
選りすぐりの主題歌・挿入歌・スコアをコンパイルした便利なベスト盤となっております。

内訳としては、歌モノが11曲、ランディ・ニューマンのスコアが6曲、
トーマス・ニューマンのスコアが5曲、
マイケル・ジアッキノのスコアが3曲という感じです。

そしてこのベスト盤の最大の目玉は、
ピクサー最新作『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)からスコアが1曲収録されている点でしょう。
何しろ本国では『カールじいさん』のサントラが、
よりによって配信限定リリースという「やってはいけない事」をディズニーがやってしったので、
悲しい事に日本でもサントラがCDでリリースされるかどうか分からない状態なのです。

ワタクシは日頃から、
「アルバムは音源とジャケットとライナーノーツ(or 歌詞カード)があってこそ成り立つもの」と考えている人間なので、
一応この前エイベックス(のM氏)に「日本では是非CDで発売を!」とリクエストしてみましたが、どうなるかなぁ・・・。
(追記:後にIntradaからCD版が限定リリースされました)

ま、とりあえず現時点では『カールじいさん』の音がCDで聴けるのはこのアルバムだけ、という事になるわけです。
そういう意味では貴重な1枚ではないかと。

歌モノは例によってブックレットに歌詞・対訳がついているので、
その点でもなかなか便利なアイテムではないかと思います。
サラ・マクラクランの”When She Loved Me”(『トイ・ストーリー2』[99]の挿入歌)なんて久々に聴きましたが、
これはいつ聴いても名曲ですな。

他にもランディ・ニューマン、シェリル・クロウ、ジェームズ・テイラー、
ラスカル・フラッツ、カミーユ、ピーター・ガブリエル、
ビリー・クリスタル&ジョン・グッドマンのボーカル曲を収録。
ピクサー・ファンなら、どれがどの映画の挿入歌なのか一発で分かるでしょう。

日本盤はダイアモンド☆ユカイ(『トイ・ストーリー』[95])と
石塚英彦&田中裕二(『モンスターズ・インク』)の日本語版主題歌/挿入歌が収録されていますが、
これはちょっと微妙なデキかもしれないです…(ボソッ)。
やっぱり「英語の歌詞を和訳して、原曲のメロディーに合わせて歌う」というのは無理があるような。
言葉のリズム感も違いますからねー。

ま、こういう機会に日本語版主題歌を聴いてみるのもオツなものではないか、と思ったりもするわけですが、
その点を差し引いても、手堅い選曲でハズレなしのベスト盤に仕上がってます。

『ディズニー/ピクサー・グレイテスト』
音楽:Various Artists
品番:AVCW-12727
定価:2,600円

  

Man on Wire / マイケル・ナイマンの音楽

manonwire

先日、綱渡り師フィリップ・プティの実像に迫る『マン・オン・ワイヤー』というドキュメンタリー映画のサントラ盤のお仕事をやらせて頂きました。

ユニバーサルミュージックからこの作品のサントラ盤がリリースになりましたが、
音楽をあのマイケル・ナイマンが担当しております。

担当、というのはちょっと適切な表現じゃないかもしれません。
と申しますのも、この映画の音楽はナイマン本人の了承を得た上で、
彼の過去音源を”再利用”する形で構成されているからなんです。

 

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ハリソン・フォードの家族ヒーローっぷりに拍手!『ファイヤーウォール』

今度の「日曜洋画劇場」で『ファイヤーウォール』(06)を放送するという事で、
本日はそのお話。

ランブリング・レコーズのMさんからライナーノーツの執筆依頼を頂いたのは、
2006年1月下旬の事でした。
原稿の〆切りが2/17で、
映画の内覧試写が2/10という結構ギリギリなスケジュールだったのですが、
いざ本編を観たら〆切りの事など忘れて、
二人で「いやーなかなか面白かったですねぇ」と言いながら、
しばし映画談義で盛り上がってしまったのを覚えています。

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バンコック・デンジャラス

「ニコラス・ケイジの不自然な髪型が気になって、映画に集中出来ない」など、本筋と
あまり関係のない感想が聞こえてくる『バンコック・デンジャラス』(08)を日曜に鑑賞。
(確かに『ダ・ヴィンチ・コード』(06)のトム・ハンクスみたいな不自然な髪型でしたが・・・ )

オキサイド・パン&ダニー・パン監督のタイ映画『レイン』(00)のセルフ・リメイクなのですが、
やはりというか何というか、かなりキャラ設定をいじってます。

オリジナル版の主人公は耳の聞こえない青年コンでしたが、リメイク版の主役は彼を
プロの殺し屋に鍛え上げるジョー(ニコラス・ケイジ)の方です。で、コンの「生まれつき
耳が聞こえない」という設定は薬局勤務の女性フォン(チャーリー・ヤン)に転用され、
フォンと恋に落ちるのはコンではなくジョーになってます(ちなみにリメイク版のコンは
クラブダンサーのオームというおねーちゃんに萌え萌えになります)。

ま、前評判よりはそこそこ楽しめた映画だったように思うのですが、最大の難点は
ケイジの髪型・・・ではなく、「彼が冷酷無比な殺し屋に見えない」という事ですな。

基本的にケイジは悪役を演じる時も、どこかしら茶目っ気というか愛嬌を持たせるタイプの
役者なので、暗殺者を演じるにはどうも人間味がありすぎるような気がしました。
「ケイジが演じてるキャラなら、絶対ただの冷徹な殺し屋じゃないよねー」という先入観を
持って映画を観てしまうというか。その辺がちょっと緊張感に欠けるかなぁ、と思いました。

『ディア・ハンター』(78)とか『デッド・ゾーン』(83)の頃のクリストファーウォーケンとか、
『エンゼル・ハート』(87)の頃のミッキー・ロークあたりだと、こういう役がハマるのかな。
やっぱり暗殺成功率99%の殺し屋を演じるなら、もっとニヒルな感じでないと。

フォンの前でタイの激辛料理を食って悶絶した時の「困り顔」が、一番ニコラス・ケイジ
らしい瞬間だったような気がします(笑)。殺し屋としてこれはどうかと思うなぁ。

ただ、あの切ないラストで映画がスパッと終わるのは良かったです。もしこれがブラッカイマー
映画だったら、ジョーの「あの行動」の後に「コンとオームの結婚式」とか「フォンのその後」
みたいな余計な映像を足して、エンドタイトルでベタな主題歌(もちろんバラード)を流して
映画の余韻を台無しにするような気がするので・・・。

本作の音楽は、超売れっ子作曲家のブライアン・タイラーが担当しています。この方、
以前は割といろんなジャンルの映画の音楽を手掛けていたように思うのですが、最近は
『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(06)、『イーグル・アイ』(08)、『ランボー 最後の
戦場』(08)とか、アクション映画の仕事が続いている様子。

果たして今回の音楽はというと、ほぼ上記作品と同じ感じ。オーケストラに打ち込みと
ナマの打楽器のリズムを組み合わせた、「燃えるアクション・スコア」を鳴らしています。
タイラー自身も自らオーケストラを指揮している他、パーカッション、ギター、ピアノ、
数種類の弦楽器を演奏してます。

ま、どの楽団が演奏してもあんまり変わらない感じのサウンドかな、と思うのですが、
演奏はこだわりのプラハ交響楽団。なぜにプラハ・フィル?そういえば映画の冒頭で
ジョーがプラハで仕事していたけど、それが理由じゃないよなぁ。

何はともあれ、音楽はよい感じです。ジョーの暗殺ミッション時に流れる「Assassin」は
オーケストラのキレのある演奏と強烈なビートがなかなかアツいし、後の悲恋を予感
させる「Fon’s Theme」の哀愁のメロディーは男泣き必至。

一部で「鳴らしすぎ」とか「騒々しい」と評される最近のタイラーですが、このテのB級
(準A級)アクション映画は、これぐらい派手に鳴らしてくれないと逆に物足りませんって。

サントラ盤は輸入盤で入手可能。スコアが78分弱収録されているので、CDのお値段
から考えるとかなりお得な気がします。