ホルテンさんとKaadaさん

…というわけで、本日は前回の『ホルテンさんのはじめての冒険』の話の続き。
Kaadaさんの音楽についてもうちょっと詳しく書く、という事でございました。

ビクターのTさんからお仕事の依頼を頂いてから、Kaadaさんについていろいろ調べてみたわけですが、母国ノルウェーでCloroformという3人組のオルタナ系ガレージ・ロック・バンドを結成していたり、Faith No Moreのマイク・パットンと組んでアルバムをリリースしていたり…と、どう考えても鉄道員のオジサンの映画とイメージが結びつかなかったんですな。

で、Kaadaさんのアルバムも購入しました。『Thank You for Giving Me Your Valuable Time』(1st)と『Music for Moviebikers』(2nd)の2枚を鑑賞(ジャケット画像提供:ROMZ RECORD)。

『Thank You…』は古き良きアメリカン・ポップス(サーフロックとかフィフティーズ・ポップスとか)をブレイクビーツでバラバラに解体して再構築した感じの内容。David HolmesとかThe Free Associationのアルバムみたいな感じでしょうかね。やっぱりホルテンさんの音楽とはほど遠いトンがった感じ。Cloroformもこんな感じの音楽でしたが。

で、もう一方の『Music for…』を聴くと「あ、なるほどねぇ」と『ホルテンさん』への登板も思わず納得。こちらの音楽はインスト主体の室内楽的アルバムで、雪国の寂寥感や素朴さが感じられる作品。いわゆる「架空のサウンドトラック」系のアルバムですね。ガレージロックと室内楽という音楽のギャップがスゴイです。

で、まぁKaadaさんの音楽をリサーチした上で本人にインタビューを敢行したのですが、ワタクシと歳が近いせいか、Kaadaさんも「Hey, Mol、メール読んだぜ!何でも聞いてくれよ!」ってなノリで、二つ返事で取材に応じてくれました。いやー気さくな人でひと安心でした(英語が通じてよかった、という点が一番安心したわけですが…)。

インタビューの詳細はCD封入のライナーノーツを読んで頂くとして、要点をかいつまんでお話ししますと、Kaadaさんは母国でもあえてインディーズ系の異色な映画を選んで作曲しているそうな。確かに『Natural Born Star』のジャケットを見ると、中身も相当変わった映画なんだろうなと思ってしまいますが。Kaadaさん曰く「ありきたりなロマコメ映画は興味ないんだよね」だそうです。ドクトク路線まっしぐらという印象でした。

そんなKaadaさんの音楽があったからこそ、『ホルテンさん』もベタなお涙頂戴ドラマになる事もなく、切なくもシュールな異色の人情ドラマに仕上がったんだろうなぁ、と思いました。

『ホルテンさん』の音楽で出色なのは、ラップスティール・ギターが哀愁のメロディーを奏でるオープニング曲「ベルゲン急行が行く」と、ホルテンさんが空港をたらい回しにされるシーンのトボケた曲「空港をウロウロ」でしょうか。

前回も書きましたが、サントラ盤はビクターエンタテインメントより好評発売中。

ハリウッド映画では味わえない、スカンジナビアン・ミュージックの独特な世界をぜひぜひお楽しみ下さい。

『ホルテンさんのはじめての冒険』オリジナル・サウンドトラック
音楽:Kaada(コーダ)
品番:VICP-64652
定価:2,625円

    

ホルテンさんのはじめての冒険

本日は北国ノルウェー発の人情ドラマ、『ホルテンさんのはじめての冒険』についてのお話。

「ホルテンさん」ことオッド・ホルテンは、ノルウェー鉄道・ベルゲン急行のベテラン運転士。一人暮らしのアパートで規則正しい生活を送る無口で生真面目な67歳のオジサマです。

ところが定年退職を迎えた最後の勤務の日に寝坊して、自分が運転するはずの電車に乗り遅れた事からさぁ大変、ホルテンさんの規則正しい毎日は次から次へと”脱線”していくのでありました、というのが大まかなストーリー。

言ってみれば、この映画は無口で朴訥としたホルテンさんのロードムービーという感じ。で、ホルテンさんは道中いろいろな人と会うわけですが、これがまた皆さん味のあるキャラばかりでいい感じなんですな。ある意味「ゆるキャラ」というか。

人なつっこいノールダール少年や、レストラン「ヴァルキュリーエン」の飄々とした老ウェイター、「ワシゃー目隠しされても物が見えるんじゃよ」とのたまい、ホルテンさんを恐怖の「目隠しドライブ」に連れて行くシッセネール、マニアックな「鉄道音当てゲーム」に熱中するノルウェー鉄道の職員の皆さんなど、心の温かい、けれども何だか心の奥底に哀しみを抱えていそうな、それでいてシュールな登場人物がホルテンさんの前に現れては、ホルテンさんに何らかの影響を与えていくと。

イマドキの日本映画だったら、さしずめもう20年近く顔を合わせていない息子(もしくは娘)とか、昔の恋人とか、余命幾ばくもない親友というような「分かり易い」キャラを登場させて、観客を全力で泣かせにかかるのかもしれませんが(エンドクレジットではきっとコテコテのバラード曲なんか流れたりするのでしょう)、この映画にはそういう意図はないようです。

人間描写は割とあっさりしていて、ホルテンさんが何を感じ、何を思っているかは映画を観た人が好きなように解釈していいような作りになってます。これが押しつけがましくなくて大変よい感じなんですな。ホルテンさんの珍道中を見ながら、「いろいろあるけど、人生って悪くないなぁ」と独りごちる。それがこの映画の楽しみ方なのかもしれません。

その他にも「世界の車窓から」に出て来そうなベルゲン急行の勇姿や、レトロでお洒落なノルウェーの町並みとか雪景色も美しく、一見の価値があります。そういや久しぶりにケータイやパソコンが話に絡んでこない映画を観ましたが、こういう素朴な作りの映画もいいもんですね。

映画はBunkamura ル・シネマ他で今週21日から公開。地方都市でも順次公開していくそうなので、詳しくは公式サイト(www.horten-san.jp)でご確認下さい。

…というわけで、当ブログ恒例のサントラ盤のご紹介。以前のブログでちょこっとお話したKaada(コーダ)というノルウェーのミュージシャンが音楽を担当しております。室内楽を思わせるストリングスにギター、ヴィブラフォン、木管、パーカッションなどを導入した哀愁のアコースティック・スコアを聴かせてくれます。

これがまたラウンジ系というかイージーリスニング系というか、マッタリとした味わいで、聴けば聴くほど味が出てくる音楽なのですが、ワタクシがインタビューを敢行したKaadaさんの紹介も含めて、詳しくは次回お話ししたいと思います。

サントラ盤はビクターエンタテインメントより好評発売中。

『ホルテンさんのはじめての冒険』オリジナル・サウンドトラック
音楽:Kaada(コーダ)
品番:VICP-64652
定価:2,625円

   

Mr. ブルックス 完璧なる殺人鬼

こういう映画を「面白い!」と言ってしまうのは、このご時世ヒジョーに不謹慎なのかも
しれませんが、まぁでもフィクションですからね。そのあたりは勘弁して下さい。

…というわけで、本日は2月6日DVDリリースの『Mr. ブルックス 完璧なる殺人鬼』(07)のお話。

ワタクシ、ケビン・コスナーが「アメリカの良心」的なキャラを演じていた頃(『ボディガード』
(92)とか『ワイアット・アープ』(94)のあたり)は何だか「俺はアメリカン・ヒーローなんだぜぇ」
という俺様オーラが出ていてあまり好きではなかったのですが、「自称エルヴィスの非嫡
出児」のイカレたカジノ強盗を演じた『スコーピオン』(01)を観て「コスナーもやるじゃん」と、
彼の役者根性を見直した次第です。

コスナーも悪役を演じる面白味のようなものが分かったのか、今回の『Mr. ブルックス』でも
タイトルロールのブルックス氏を余裕たっぷりに演じてくれています。

ブルックス氏は「表向きは良き父・良き夫で成功した実業家。その正体は殺人依存症の
シリアルキラー」という矛盾したキャラクターなわけですが、その別人格「マーシャル」を
演じているのがコスナーではなくウィリアム・ハートというところがミソ。

ある時はブルックス氏の殺人衝動を煽る邪悪な存在として、またある時は窮地に陥った
ブルックス氏の参謀役としてサポートするマーシャルを演技派ハートが演じる事によって、
人物描写に深みが増しているんですな。

ここでコスナーが一人でブルックス氏とマーシャルの両方を演じていたら、この映画は
ラジー賞確定だったハズ(一人二役とか三役とか演じると、だいたいロクな映画になり
ませんので…)。

本編を観ればお気づきになると思いますが、ブルックス氏とマーシャルが並んで座っている
シーンなどでは、同じ方向を振り返ったり、笑い出したりするタイミングが両者の間でピッタリ
合ってます。さすが同一人物の別人格、という感じでしょうか。作り込みの細かさに感心します。

そう、この映画は細部まで徹底的に作り込まれているのですね。ブルックス氏をゆする胡散
臭い青年、一連の連続殺人を捜査する女刑事アトウッド(デミ・ムーア)、彼女の離婚した
亭主と、訴訟担当の女弁護士、アトウッドに恨みを持つ脱獄犯、そしてブルックス氏の一人娘
ジェーン…と、一見何の繋がりもなさそうなエピソードが終盤で一気に収束する脚本が秀逸です。
ちゃんと前半で伏線も張られているし、実に緻密かつフェアな作り。

ま、ラストは賛否両論あるみたいですが、あれはアレでいいのではないかと。「あの一歩手前の
シーンで終わった方がいいのでは?」という意見も分からんでもないんですが、それだとブルッ
クス氏の理知的で狡猾な部分が弱くなってしまいますからね。あの終わり方で正解でしょう。

この映画の音楽はラミン・ジャワディ(Ramin Djawadi)が担当しております。最近だと『アイアン
マン』(08)の音楽で有名ですが、サウンド的にはTVシリーズの『プリズン・ブレイク』の時の
音楽に近い感じです。打ち込みとかサンプリングを多用したサウンドというか。時折ノイジーな
ギターリフなんかを挿入したりして、ポスト・ロック風のかなりカッコイイ音楽に仕上がっております。
オススメ曲は「The Thumbprint Killer」かな。

ブルックス氏のテーマも「善人モード」と「悪人モード」の2つが用意されていて、なかなか芸が
細かい。割とメロディーもしっかりしているので、ジマー系サウンドが好きな方は”買い”の一枚
でしょう。

ラストで流れるザ・ヴェイルズの「Vicious Traditions」もしっかり収録。

サントラ盤はビクターエンタテインメントより発売中。

『Mr. ブルックス 完璧なる殺人鬼』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ラミン・ジャワディ
品番:VICP-64112
定価:2,520円

   

アンダーカヴァー

昨日はホアキン・フェニックス主演の激シブ映画『アンダーカヴァー』(07)を観て参りました。

この作品、邦題がこんな感じなので、『インファナル・アフェア』(02)のようなハードな潜入捜査ものを
期待して観に行った人も多かったようです。でも実は屈折した家族の絆を描いたドラマなんですな。

ま、何しろ監督が『リトル・オデッサ』(94)と『裏切り者』(00)を撮ったジェームズ・グレイなので、
内容もまた推して知るべしというわけです。

ボビー・グルシンスキー(ホアキン・フェニックス)という男は警官の家系に生まれた次男坊なの
だけれども、家業に背を向けて、ナイトクラブのオーナーとして成功したヤクザな男。そんな彼が
クラブに出入りするロシアン・マフィアと警察の抗争に巻き込まれて、父親(ロバート・デュヴァル)や
兄のジョゼフ(マーク・ウォールバーグ)が襲われた事から、人生の岐路に立たされるというお話。

ホアキンはグレイ監督の前作『裏切り者』で、地下鉄修理会社を経営するジェームズ・カーンの
愛娘(シャーリーズ・セロン)と結婚して、「白人のように成功したい」と渇望するラテン系青年役で
鬼気迫る演技を見せていたわけですが、今回もいい芝居を見せてくれるのですよ。

父親や兄と不仲なはずなのに、心のどこかでは繋がっていたいと願っているような物腰とか、
エリート警察官の兄に対してずっとコンプレックスを感じて生きてきたんだろうな、と思わせる
翳りのある佇まいとか、セリフに頼らず表情だけで語ってしまうあたりはさすがだなと。

一方のマーク・ウォールバーグはと申しますと、序盤こそ『ディパーテッド』(06)の時のような血気
盛んなタフガイぶりを見せつけるものの、ロシアン・マフィアに襲われて以降、すっかり死の恐怖に
取り憑かれて覇気がなくなってしまうんですな。この時のウォールバーグの演技がやけにリアルで、
ホアキンが屈強になっていくのと対照的に、彼がどんどん「ヘタレ」になっていく様子はとても哀れ
でした(それだけ真に迫っているという事で)。そりゃ、一度あんな目に遭ったらトラウマになりますわな。

グレイの映画は『リトル・オデッサ』といい『裏切り者』といい、銃弾一発の重み(取りも直さず、
それは人の「死」の重みという事にもなるわけですが)が非常にヘヴィです。『リトル・オデッサ』を
ご覧になった方なら、エドワード・ファーロングが絶命したシーンはかなりショックだったのでは
ないかと思います。

そして本作でも、ガンファイト・シーンや豪雨の中のカーチェイス・シーンではカタルシスと無縁の
ドンヨリとした空気を醸し出しています。この映画を観た後では、とても「スタイリッシュなガン・アク
ション!」なんて形容詞は軽々と使えなくなります。「死の重み」がズシリと伝わる演出というか。

凡庸なリメイクに終わってしまった『ディパーテッド』よりも、ワタクシは本作の方が好きです。
この重暗い雰囲気とか、きれい事とか予定調和な終わり方で片付けない家族の絆の描き方とか。

ちなみに映画の舞台は1988年のNYという事で、ボビーのナイトクラブではブロンディーの”Heart of Glass”
とか”Rapture”、デヴィッド・ボウイの”Let’s Dance”(名曲!)のような当時のパワーポップスが
ガンガン流れます。こういう既製曲で80年代の狂乱を彩りつつ、ヴォイチェック・キラールの陰鬱な
スコアでグルシンスキー一家の悲劇を綴るという「明」と「暗」のコントラストが秀逸です。

サントラ盤も要チェック(クラッシュの”Magnificent 7″は未収録ですが)

   

ランディ・エデルマンの音楽が好きなので、『ハムナプトラ3/呪われた皇帝の秘宝』サントラ盤の音楽解説が書けて嬉しかったというお話。

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、『ハムナプトラ3/呪われた皇帝の秘宝』(08)のサントラ盤に音楽解説を書かせて頂きました。スコア作曲はランディ・エデルマン。
国内盤サントラはもう廃盤&在庫切れなので、デジタル版へのリンクを貼っておきます。

The Mummy: Tomb Of The Dragon Emperor Original Motion Picture Soundtrack – amazon music

物語についてはもはや説明不要でしょう。冒険野郎リック・オコーネル(ブレンダン・フレイザー)とその仲間たちがミイラ退治を繰り広げるアクション・アドベンチャー・シリーズの第3作目です。今回は舞台をエジプトから中国に移し、ジェット・リー扮する皇帝とその配下の兵馬俑軍団相手に荒唐無稽なドツキ合いを繰り広げております。

物語の舞台が中国に移った時点で少々嫌な予感がしていたのですが(そもそもその時点で邦題の『ハムナプトラ』ではないわけですし)、エヴリン役もレイチェル・ワイズからマリア・ベロに替わったり(念のためフォローしておきますとマリア・ベロは演技派の名女優ですし自分は好きです)、リックの息子のアレックスにイマイチ好感が持てなかったり、全体的にモヤモヤする映画でございました。

このように作品の出来に関しては正直微妙な感じだった『ハムナプトラ3』ですが、音楽はなかなか良かったです。第1作のジェリー・ゴールドスミス、第2作のアラン・シルヴェストリと来て、今回はロブ・コーエン監督のお気に入り作曲家ランディ・エデルマンが音楽を担当しております。

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