プリズン・ブレイク(Season 1 & 2)

今月から『プリズン・ブレイク』ファイナル・シーズンのレンタル開始という事で、
ドラマをずーっと観てきたワタクシなどは、
何かこう、最終シーズンを迎えて感慨深いものがありますな。

ランブリング・レコーズさんからリリースになっている、
『プリズン・ブレイク』のサントラ盤(シーズン1と2の音楽を収録)のライナーノーツを書かせて頂いたのですが、
その際に何度も何度も本編を観たせいか、
キャラクターに愛着が湧いてしまいました。
大半がフダ付きの悪党なのにねぇ…。

視聴者人気が高いキャラは誰なんでしょう。
うーん、マリクルースひと筋で義理堅いチンピラのスクレ(アマウリー・ノラスコ)とか、
ロバート・ネッパーの怪演と、
若本規夫氏の強烈な日本語吹替えの相乗効果でキャラが立ちまくりのティーバッグとか、
もともと隠れファンの多かったウィリアム・フィクトナーが演じるマホーン捜査官あたりでしょうか。

個人的には、彼らに加えてベリック(ウェイド・ウィリアムズ)にも注目してます。
この人、自業自得とはいえ刑務官→賞金稼ぎ→囚人と波乱の人生を送るハメになって実に哀れを誘うんですが、
結構間が抜けていて言動が笑えるところがミソかな、と。

シーズン3の話になりますが、
パナマの刑務所でズルして決闘で勝ってしまうくだりなんかは、
ベリックの憎めない小悪党ぶりがうまく出ていてナイス・エピソードです。
この人に今後どういうドラマが用意されているのか、密かに楽しみだったりします。

さて『プリズン・ブレイク』の音楽なのですが、
ハンス・ジマーの主宰する音楽家集団「リモート・コントロール」所属のラミン・ジャワディが担当しています。
『Mr.ブルックス完璧なる殺人鬼』(07)や『アイアンマン』(08)など、
このドラマの仕事を経て一気に売れっ子になりました。

サントラ盤にはシーズン1と2の代表的なスコアが収録されているのですが、
ドラマの主要キャラはシーズン1でほぼ全員出揃っているので、
いわゆる彼らのテーマ曲的な音楽はCDにほとんど収録されています。

「プリズン・ブレイクのテーマ」とでも言うべき「Strings of Prisoners」を始め、
ティーバッグが画面に登場する時のフリーキーな曲(T-Bag’s Coming For Dinner)とか、
アコースティック・ギターを使ったスクレのテーマ曲(Sucre’s Dilemma)など、
4シーズン通して使われているメロディーも多々あります。

スコアの基本構成は「シンセ・ストリングス+打ち込みのリズム+生楽器(orサンプリング)」みたいな感じです。
『プリズン・ブレイク』の音楽で最も耳に残る「♪ すきゃぼぼぼー」という掠れたバンブー・フルートのような音も、
多分サンプリングで作ってます。

『24 -TWENTY FOUR-』のようにヒロイックなメロディーを聴かせるタイプの音楽ではありませんが、
「漢(おとこ)っぽさ」を感じさせる硬派なスコアという印象ですね。
渋カッコイイです。

ジャワディはクラウス・バデルトの『リクルート』(03)とか、
ジマーの『バットマン ビギンズ』(05)などの追加音楽を担当しているのですが、
『プリズン・ブレイク』のサントラ盤を聴いてから(追加音楽を手掛けた)別な映画のサントラを改めて聴き直すと、
「ジャワディはこの曲(あるいはスコアのこの部分)を担当したんじゃないの?」とピンと来る箇所が結構あります。

お手元にジマー/ジャワディ関連のCDのある方は、ぜひお試しあれ。

『プリズン・ブレイク』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ラミン・ジャワディ
品番:GNCE-7004
定価:2,625円

ワールド・オブ・ライズ

今回は20日から劇場公開になる映画『ワールド・オブ・ライズ』のお話。

デイヴィッド・イグネイシアスの小説『Body of Lies』をリドリー・スコット監督が映画化した作品で、テロ組織とCIA、ヨルダン情報局との熾烈な情報戦(騙し合いとも言いますが)を描いた物語です。

近年のアクション/スリラー映画で悪役に描かれる事の多いCIAですが、本作もまた然り。テロ組織壊滅のためなら部下の使い捨ても辞さない(もちろん、一般市民に犠牲者が出てもお構いなし)という冷酷非情かつ身勝手な一面を見せております。

その無慈悲な作戦を立案するCIA局員ホフマンをメタボ体型のラッセル・クロウが演じているのですが、このキャラが実に憎たらしい(笑)。自分自身はアメリカ国内の安全な場所から動かず、家事とか子供の送り迎えをしながら、衛星電話を使って中東の”戦場”にいる部下のフェリス(レオナルド・ディカプリオ)に命令を送ったりするわけです。この部下のコキ使い方とか、ヨルダン情報局に対する慇懃無礼な態度を見ていると、ホフマンというキャラクターはCIAのみならず、現代アメリカの「イヤな部分」を象徴する存在なのではないか、と思ってしまいます(他国の文化に全く敬意を払わないあたりが特に)。こりゃアメリカも嫌われるわ、と思わず納得。

メジャースタジオ製作の娯楽映画で、こういうアメリカの暗部を赤裸々に描けるリドリー・スコット監督はやっぱりすごい人だなぁと思った次第。御年71歳になっても全然日和ったりしていません。

レオ様とアンマン在住の看護婦アイシャのロマンスのシーンがイマイチ説得力に欠けるのを除けば、スパイ映画としてなかなか見応えのある作品に仕上がっているのではないかと思います。
ロマンスシーンが魅力に欠けるのは、リドリーというよりウィリアム・モナハンの脚本がマズいのでしょう。『ディパーテッド』の女医さんとのシーンもとってつけたようなノリだったし。

さて本作の音楽は、ここ最近リドリー・スコットの専属作曲家となっているマーク・ストレイテンフェルドが担当しています。この方、ハンス・ジマーのアシスタントとして長く下積みをしていた作曲家なのですが、今回のスコアでは所謂”ジマー節”が全く登場せず、重低音を効かせたシブイ音楽を披露しています。

ストレイテンフェルドの前作『アメリカン・ギャングスター』(07)も相当シブイ音楽でしたが、あの映画の「フランク・ルーカスのテーマ」が中近東テイストになったスコアとイメージして頂けると分かりやすいかと。キャッチーさには欠けますが、中東由来の楽器とリズム隊の重厚なグルーヴが心地よい酩酊感を生み出しており、何度もリピートしてCDを聴いていると、このドンヨリしたサウンドがクセになって参ります。エスノ・サウンドに興味がある方にオススメ。

ちなみにストレイテンフェルドは作曲のインスピレーションを得るために、映画のロケ地であるモロッコへ行ったそうなのですが、「中東が舞台の映画なのに、モロッコに行ってリサーチになるの?」と思った方もいらっしゃるかと思います。実際、僕もライナーノーツを書いていてそう思いました(笑)。まあ単身アンマンへ行くのは危険だったでしょうし、モロッコはアフリカとはいえアラブ
文化が入ってきている国でもあるので、リサーチには事欠かなかったのでしょう。多分。

ちなみに本作のエンドクレジットではGuns N’ Rosesの新曲”If The World”と、ストレイテンフェルド、マイク・パットン、サージ・タンキアンの3人による書き下ろし曲”Bird’s Eye”がフィーチャーされています。この2曲はサントラ盤未収録ですが、”If The World”はガンズの新譜”Chinese Democracy”で、”Bird’s Eye”はiTunes Music Storeで聴く事が出来ますぞ。

国内版サウンドトラックCDはランブリング・レコーズより発売中。

『ワールド・オブ・ライズ』オリジナル・サウンドトラック
音楽:マーク・ストレイテンフェルド
品番:GNCE7038
定価:2,625円