ご本人は2006年のレコード・コレクターズのインタビューで「自分の中ではあっさりし過ぎている印象があって」と仰っていましたが、個人的にはCMタイアップ曲が3曲あったせいか歌謡曲テイスト強めだった「Mr. YT」より、”ドラムンベース邂逅編”とでも言うべき「Portrait with No Name」のほうが好きでした。
で、夫が食べたがっているラーメンを作ってあげるという行為が「ラーメンを作るために結婚したんじゃない」という問題にすり替わるのはなぜだろう? という話になって、「それはつまり、二人の間に”何もなければいい”ということなんだろうか。期待も、形も、名前も…」という結論になって、「Portrait with No Name」というアルバムタイトルが生まれることになったのだそうです。 「Nameless」みたいなタイトルはストレート過ぎてカッコ悪いので、アメリカの”A Horse with No Name”からアイデアを頂いたと仰っていました。
しかしそのときの自分は購入を躊躇してしまいました。 なぜならサントラのジャケットに「Music for and inspired by the film」と書いてあったからです。「ひょっとしてこれインスパイア盤なのか?」と思ったのですね。
いまはこういうサントラが少なくなりましたが、インスパイア盤というのは「映画の中では使われていないけど、映画のテーマにあった曲を集めました」的な商魂逞しいコンピレーション盤で、ほぼイメージアルバム的なアイテムです。一番有名なのが『スピード』(94)の歌ものコンピレーション・アルバムではないでしょうか。あのサントラ盤に泣かされたリスナーも多いと聞きます。 だから『メメント』のサントラも「映画で使っていない曲ばかり収録しているのでは? 」と疑心暗鬼になったわけです。”Music from the film”ではなく”Music for the film”という表記でしたし。
で、若き日のワタクシはジャケット裏面を見て収録曲を確認しました。
ロ二・サイズの”Snapshot”やレディオヘッドの”Treefingers”、ビョークの”All is Full of Love”、モービーの”First Cool Hive”、ポール・オークンフォールドの”Amnesia”など、「低予算映画でこの曲は使えないだろう(映画の中で使えそうな場面もなさそう)」という曲がズラリと並んでいる。 これ買うのやめようかな…と思ったものの、デヴィッド・ジュリアンのスコアが11曲収録されていることを確認したうえで、購入を決意したのでした。劇中で使っていない曲は飛ばして聴けばいいやと。